1,412 / 1,871
小学生編
白薔薇の祝福 26
「ただいまー おばあちゃん、どこー?」
孫の芽生の元気な声が、玄関から聞こえた。
弾んだ声ね。
この声だけで今日1日がどんなに楽しかったか、充実したものだったかしっかり伝わってくるわ。
声は心のバロメーターよ。
二人の男の子を育てた母だから分かるの。
宗吾は自分の感情にストレートだったので分かりやすい子供だったけど、憲吾は感情を表に出さないタイプだったので、憲吾が発する声が頼りだった。
『行ってきます』『ただいま』
たったそれだけでも、母には伝わるものがあるの。
声のトーンの微妙な変化を見逃さないように、耳を澄ましたわ。
耳を澄ませば、隠れていた心が見えてくる。
だから歩み寄れる。
……
『ただいま……』
あら? 今日は暗いわね、何かあったのかしら?
学校で何かあったのかしら?
細かいことを気にしがちな憲吾は、失敗することが大の苦手。
でも失敗も時に大事なのよ。
全てが順風満帆にはいかないのが人生だから。
失敗によって得るものに気付けるかどうかによって、未来は変わっていくのよ。
今は話したくないのなら話さなくてもいい。
でも少し温かいお茶でも飲んで、私の近くで休んでみない?
傷ついた心を休めて欲しいから。
……
思春期も反抗期も……
内向的な憲吾は内に内にためてしまので、いつも辛そうだった。
生きづらい性格かもしれないけれども、私にはそれが憲吾のチャームポイントだと思えた。
ねぇ、聞いて。
宗吾も憲吾も同じだけ好きよ。
タイプが違ってもいいじゃない。
個性豊かな二人の息子を授かり育てられて幸せよ。
さてと、今日の憲吾はどうかしら?
こんな風に耳を澄ませて息子の声を聞くのは久しぶり。
「ただいまっ! 母さん戻りましたよ」
あらやだ、元気!
小学生みたい。
ふふっ、しかも「母さん」まで着いている。
今日はスペシャル楽しかったのね。
息子が幸せなら、親も幸せ。
「芽生、憲吾、お帰りなさい、楽しかった?」
「おばあちゃんー すごくすっごくたのしかったよぅ」
「まぁ……そういうことです」
うっふふ、まるで宗吾と憲吾の再来ね。
「お腹空いたでしょう?」
「うん、ペコペコ、今日はなに?」
「メンチカツよ! 憲吾、ビールを飲む?」
「いいですね、ええっと美智と彩芽は?」
「今日はずっと調子が良くてさっきまで居間で仲良く遊んでいたわ。それでお風呂に入って、彩芽ちゃんが眠そうだから寝付かしているところ」
伝えると、憲吾は目を細めた。
「一度、顔を見てきます」
「そうね、そうするといいわ」
憲吾が二階に上がっていったので、芽生と居間に入った。
「おばあちゃん、手を洗ってくるよ」
「いつもちゃんと洗って偉いわよね。宗吾はいつも汚い手であちこち触って大変だったのに」
「えへへ。お兄ちゃんがね、その方がいいよって」
芽生がひとりで手を洗って部屋に戻ってくる。
「ねぇねぇ、おばあちゃんも東京ドリームにいったことある? あのね、ワクワクの風船みたいな屋根なんだよ」
よほど楽しかったのね。
ずっとおしゃべりしていて可愛いわ。
優しくて明るくて元気な芽生は、滝沢家の宝よ。
そして瑞樹の天使よね。
「あー お兄ちゃんとパパはまだかな? 早くお兄ちゃんにも教えてあげたいよ」
待ちきれないといった表情で窓に頬をつけて張り付く芽生。
「さっき連絡があって電車に乗ったというから、もうすぐよ」
「ほんと? 早く会いたいな、あ、おばあちゃん、あのね」
「どうしたの?」
「けんごおじさんって、すごいんだよ。すごーく物知りさんなの。すごいよね。いっぱい初めてのこと教えてもらえてうれしかったよ。でもいちばんうれしかったことはなんだと思う?」
芽生の目が輝く!
もしかして――
これは芽生の口から聞きたいわ。
「教えて頂戴」
「あのね、おじさんともっともっとなかよくなれたんだ!」
「まぁ! 嬉しいわ」
憲吾と宗吾、昔は……お世辞にも仲が良いとは言い難い関係だった。
でも今、憲吾と芽生、伯父と甥っ子の関係は良好ね!
憲吾と宗吾の関係もすっかり良好になった。
ひとつの関係が良くなると、他の関係も良くなっていく。
心と心は繋がっているのよね。
****
「お父さん、お母さん、今日はありがとうございます。僕、二人が今日このタイミングで来てくれて、すごく嬉しかったです」
「みーくん。俺たちは役立ったか」
「頼もしかったです」
「そうか、そうか。雪也さんと契約したから、暫く冬郷家に住み込むよ」
「え? いつの間にそんなことに?」
「自由だからさ、俺たち今とても自由だから、さっちゃんと二人で気ままに過ごしている。というわけで、明日からもよろしくな」
くまさんの行動力には驚かされる。
同時に嬉しい、心強い!
「じゃあ瑞樹、俺たちは家に帰るか」
「はい、お父さんお母さん、また明日」
僕はふたりにハグされた。
「がんばったな」
「瑞樹、手を休めるのよ」
お父さんとお母さんだ。
僕を褒め、僕を労り、僕を思ってくれる人がここにいる。
「はい、今日はちょっと手が痛くなって焦ってしまいました。このまままた動かなくなったら怖かったです」
今までの僕は弱さを必死に隠してしまっていた。
でも、もう隠さなくていいんだ。
痛い時は痛い、怖い時は怖いと言いなさいと、亡き母に言われたことを思いだした。
瑞樹、聞こえる?
心を楽にしたいのなら、弱さを明かすのよ。
弱いことは悪いことじゃない。
勇気を出して、あなたが大好きな人と、もっともっと歩み寄れるチャンスよ。
雲の上からの声に導かれるように、僕は大きく頷いて歩き出した。
一歩、また一歩。
俯いたままでは、美しい空とも雲とも出会えない。
孫の芽生の元気な声が、玄関から聞こえた。
弾んだ声ね。
この声だけで今日1日がどんなに楽しかったか、充実したものだったかしっかり伝わってくるわ。
声は心のバロメーターよ。
二人の男の子を育てた母だから分かるの。
宗吾は自分の感情にストレートだったので分かりやすい子供だったけど、憲吾は感情を表に出さないタイプだったので、憲吾が発する声が頼りだった。
『行ってきます』『ただいま』
たったそれだけでも、母には伝わるものがあるの。
声のトーンの微妙な変化を見逃さないように、耳を澄ましたわ。
耳を澄ませば、隠れていた心が見えてくる。
だから歩み寄れる。
……
『ただいま……』
あら? 今日は暗いわね、何かあったのかしら?
学校で何かあったのかしら?
細かいことを気にしがちな憲吾は、失敗することが大の苦手。
でも失敗も時に大事なのよ。
全てが順風満帆にはいかないのが人生だから。
失敗によって得るものに気付けるかどうかによって、未来は変わっていくのよ。
今は話したくないのなら話さなくてもいい。
でも少し温かいお茶でも飲んで、私の近くで休んでみない?
傷ついた心を休めて欲しいから。
……
思春期も反抗期も……
内向的な憲吾は内に内にためてしまので、いつも辛そうだった。
生きづらい性格かもしれないけれども、私にはそれが憲吾のチャームポイントだと思えた。
ねぇ、聞いて。
宗吾も憲吾も同じだけ好きよ。
タイプが違ってもいいじゃない。
個性豊かな二人の息子を授かり育てられて幸せよ。
さてと、今日の憲吾はどうかしら?
こんな風に耳を澄ませて息子の声を聞くのは久しぶり。
「ただいまっ! 母さん戻りましたよ」
あらやだ、元気!
小学生みたい。
ふふっ、しかも「母さん」まで着いている。
今日はスペシャル楽しかったのね。
息子が幸せなら、親も幸せ。
「芽生、憲吾、お帰りなさい、楽しかった?」
「おばあちゃんー すごくすっごくたのしかったよぅ」
「まぁ……そういうことです」
うっふふ、まるで宗吾と憲吾の再来ね。
「お腹空いたでしょう?」
「うん、ペコペコ、今日はなに?」
「メンチカツよ! 憲吾、ビールを飲む?」
「いいですね、ええっと美智と彩芽は?」
「今日はずっと調子が良くてさっきまで居間で仲良く遊んでいたわ。それでお風呂に入って、彩芽ちゃんが眠そうだから寝付かしているところ」
伝えると、憲吾は目を細めた。
「一度、顔を見てきます」
「そうね、そうするといいわ」
憲吾が二階に上がっていったので、芽生と居間に入った。
「おばあちゃん、手を洗ってくるよ」
「いつもちゃんと洗って偉いわよね。宗吾はいつも汚い手であちこち触って大変だったのに」
「えへへ。お兄ちゃんがね、その方がいいよって」
芽生がひとりで手を洗って部屋に戻ってくる。
「ねぇねぇ、おばあちゃんも東京ドリームにいったことある? あのね、ワクワクの風船みたいな屋根なんだよ」
よほど楽しかったのね。
ずっとおしゃべりしていて可愛いわ。
優しくて明るくて元気な芽生は、滝沢家の宝よ。
そして瑞樹の天使よね。
「あー お兄ちゃんとパパはまだかな? 早くお兄ちゃんにも教えてあげたいよ」
待ちきれないといった表情で窓に頬をつけて張り付く芽生。
「さっき連絡があって電車に乗ったというから、もうすぐよ」
「ほんと? 早く会いたいな、あ、おばあちゃん、あのね」
「どうしたの?」
「けんごおじさんって、すごいんだよ。すごーく物知りさんなの。すごいよね。いっぱい初めてのこと教えてもらえてうれしかったよ。でもいちばんうれしかったことはなんだと思う?」
芽生の目が輝く!
もしかして――
これは芽生の口から聞きたいわ。
「教えて頂戴」
「あのね、おじさんともっともっとなかよくなれたんだ!」
「まぁ! 嬉しいわ」
憲吾と宗吾、昔は……お世辞にも仲が良いとは言い難い関係だった。
でも今、憲吾と芽生、伯父と甥っ子の関係は良好ね!
憲吾と宗吾の関係もすっかり良好になった。
ひとつの関係が良くなると、他の関係も良くなっていく。
心と心は繋がっているのよね。
****
「お父さん、お母さん、今日はありがとうございます。僕、二人が今日このタイミングで来てくれて、すごく嬉しかったです」
「みーくん。俺たちは役立ったか」
「頼もしかったです」
「そうか、そうか。雪也さんと契約したから、暫く冬郷家に住み込むよ」
「え? いつの間にそんなことに?」
「自由だからさ、俺たち今とても自由だから、さっちゃんと二人で気ままに過ごしている。というわけで、明日からもよろしくな」
くまさんの行動力には驚かされる。
同時に嬉しい、心強い!
「じゃあ瑞樹、俺たちは家に帰るか」
「はい、お父さんお母さん、また明日」
僕はふたりにハグされた。
「がんばったな」
「瑞樹、手を休めるのよ」
お父さんとお母さんだ。
僕を褒め、僕を労り、僕を思ってくれる人がここにいる。
「はい、今日はちょっと手が痛くなって焦ってしまいました。このまままた動かなくなったら怖かったです」
今までの僕は弱さを必死に隠してしまっていた。
でも、もう隠さなくていいんだ。
痛い時は痛い、怖い時は怖いと言いなさいと、亡き母に言われたことを思いだした。
瑞樹、聞こえる?
心を楽にしたいのなら、弱さを明かすのよ。
弱いことは悪いことじゃない。
勇気を出して、あなたが大好きな人と、もっともっと歩み寄れるチャンスよ。
雲の上からの声に導かれるように、僕は大きく頷いて歩き出した。
一歩、また一歩。
俯いたままでは、美しい空とも雲とも出会えない。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。