幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

白薔薇の祝福 28


「美智、帰ったよ」
「憲吾さん、お帰りなさい」
「パパぁ」
「あーちゃん、おきていたのか」
「ん! ん!」

 あーちゃんが両手を開いて抱っこをアピールしているので、大きく抱き上げてやった。

「わぁー」

 最近また重くなったな。

 これは大切な命の重みだ。

 そう思うと父親として、一掃気が引き締まる。

「野球はどうだった?」
「負けてしまったが、楽しかったよ」
「あら? 珍しいわね」
「ん?」
「だって、あなた、野球が負けるといつもムスッと不機嫌になるのに」

 えっ! そうだったのか。
 
 いや、そうだった。

 恥ずかしいな。

「芽生が沢山励ましてくれたので、機嫌を損ねないで済んだよ」
「まぁ、芽生くんは本当にムードメーカーなのね」
「あぁ、そうなんだ」
「瑞樹くんの優しさを一心に受け継いでいるものね。そして宗吾さんの明るさも! 本当に優しい子だから、彩芽も懐いているわ」

 この先……芽生と彩芽の成長が楽しみだ。

 実家の二階の三部屋は、私たち家族が同居するにあたりリフォームした。宗吾と私、両親の寝室だった面影はもうないが、ここで新しい世界が生まれると思うと楽しみだ。

 耳を澄ますと階下から、芽生の弾んだ声が聞こえてきた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、早く、早くー」
「お兄ちゃん、あのね、あのね!」

 ははっ、今日は瑞樹に話すことが山ほどあるから、大変だ。

「美智、もう少ししてから下に降りよう。今日は夕食は食べられそうか。あっさりしたものがいいのなら、母に作ってもらうよ」
「大丈夫よ。今日は何故か揚げ物が食べたい気分なのよ」
「……美智、改めて感謝している」
 
 自分でもよく分からないが、感謝を伝えたくなった。
 
「え? どうしたの、急に?」
「この家で……母と同居してくれて感謝している」
「そんな……私こそ感謝しているわ。二階を私の好きなように改装させてもらったし、彩芽のことも沢山みていただけるし、具合が悪い時はご飯も作って下さるし……憲吾さん……あのね、私とお母さんって、あなたが考えているような昔のお嫁さんとお姑さんの関係じゃないのよ」

 私は古くさい人間なので、母との同居で、美智には負担を強いていると考えていたが、違うのか。

「そうだったのか」
「うん、私のもう一人のお母さんだわ」
「美智……」
「正直に言うと……結婚当初はお姑さんと嫁という関係を強く意識していたわ。でもお母さんと瑞樹くんの関係を見ているうちに、あぁ私もこんな風にお母さんと接したらいいんだって気付けたの。だから思い切って懐に飛び込んでみて良かった。お母さんの娘なのよ、私は」
「そ、そうか」

 じーんとした。

 美智からそんな言葉をもらえるなんて。
 
「だから、瑞樹くんと私は姉弟かな? あーんな可愛い弟が出来て幸せよ。憲吾さんもでしょ?」
「ま、まぁな」




 その晩は賑やかな夕食になった。

 一番はしゃいでいたのは芽生。

 日中どんなに楽しかったかを瑞樹だけでなく、母にも宗吾にも美智にも彩芽にも、身振り手振りで伝えようと必死なのが微笑ましく、その場に居合わせた全員が目を細めた。

 そんな中、瑞樹がさりげなく目を擦りだした。

 眠そうだな……きっと疲労困憊なのだろう。

 早く寝かせてやりたいが、どうしたものか。

 すると、母が気付いてくれた。

「あら、瑞樹ってば眠いのね」
「……大丈夫です」
「みーずき、無理しないで」
「あ……すみません。僕、眠いです」
「じゃあ、もう、おやすみなさい」

 隣りで芽生も目をゴシゴシと擦っている。

「ほら、芽生も眠そうよ。一緒に眠ったらいいわ。遠慮しないで」
「お兄ちゃん、いっしょに眠ろうよ~」
「そうだね」
「あぁ、そうしろ。俺が手をマッサージしてやるから」

 宗吾と瑞樹と芽生の部屋は、父さんの書斎を改装した。

 そこでゆっくり休んで欲しい。

 今日1日の疲れを取って欲しい。

「憲吾さん、おやすみなさい。今日は芽生くんをありがとうございます。あの……」

 眠る前に、瑞樹が改めて私の元に来てくれた。

 私はそれだけで目尻を下げてしまう。

「どうした?」
「芽生くんの話を聞いていたら、僕も憲吾さんと野球観戦してみたくなりました。今度一緒に行きましょう」
「えっ、家族で行くんじゃ……」
「僕の家族には……憲吾さんも入っています」
「瑞樹……」

 宗吾が怒るのではと焦るが、そうではなかった。

「そうだ、そうだ。兄さんも一緒に行こう! 兄さんと野球観戦したことなかったよな。ビール奢ってください」
「あ、あぁ……私がお邪魔してもいいのか」
「邪魔なんかじゃない。俺の兄さんなんだから」
「そ、そうか、ありがとう」


****

「瑞樹、手を出してみろ」
「あ……でも、宗吾さんだって疲れているのに」
「俺は大丈夫さ。体力ならまだまだ有り余ってる」
「えっと……」
「ははっ、今日は瑞樹の手をマッサージすることに専念するから安心しろ」
「ありがとうございます」

 横になってそっと手を差し出すと、宗吾さんが嬉しそうに雪也さんからもらったチューブの軟膏を手で暖めて塗ってくれる。

「手が少し荒れてるな」
「いつものことですよ」
「ケアも入念にしよう」
「はい、お任せします」

 芽生くんは布団に入った途端、あっという間に眠ってしまった。

 赤ちゃんみたいに身体を丸めて、僕にくっついている。

 あたたかい温もりは幸せな温度。

 僕の右手は宗吾さんによって念入りにマッサージされている。

「気持ちいいです……眠くなります」
「おやすみ、瑞樹」
「おやすみなさい……宗吾さん」
「お・や・す・み」

 瞼が閉じるのと宗吾さんからのキスは、同時だった?

 目を閉じても薔薇色の日々が続いているような、優しい夜だった。

 明日が待ち遠しい夜だった。


 

 
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