幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

秋陽の中 1

 宗吾さんと有楽町駅の改札で右左に分れて歩き出すと、後ろから決まって声をかけられる。

「葉山、おはよう!」
「菅野、おはよう」
 
 管野良介は、僕の同期であり大切な友人だ。

 明るく人懐っこい笑顔で、誰にでも分け隔てなく気遣いが出来る彼に、僕は何度も助けられた。

 入社したての頃、今の何倍も警戒心が強く同期にも一線を引いてしまい上手く打ち解けられなかった僕を、自然に輪の中に連れて行ってくれた。

 菅野のお陰で会社にも馴染め、同期との交流もスムーズに出来るようになった。本当に感謝しているよ。

 菅野は僕に人との心地良い付き合い方を教えてくれた人。

 学生時代は一馬さえいれば充分で、内向的にひっそりと暮らしていた。大学の学生寮の交流にもろくに顔を出さず、いつも部屋に閉じこもっていた。

 閉鎖的な世界が僕には似合うと決めて、僕だけが幸せになってはいけないと勝手に自分に枷をかけていたのだ。

 僕と違って社交的な菅野は、明るく華やかな高校、大学時代を過ごしてきたと勝手に想像していたが、菅野の知花ちゃんとの悲しく切ない過去を知って驚いた。

 同時に一人ぼっちの僕を気に掛けてくれたのか分かった。

 菅野とは、宗吾さんと暮らすようになってから、不思議と交流が深まった。更に菅野に同性の恋人が出来てからは親近感も沸いている。

 まさか洋くんのいる月影寺の小坊主さんと恋に落ちるとは人生分からないね。

「どうした? ぼーっとして、朝から疲れてんな」
「バレた? 実は芽生くんが宿題をやりきるまで眠れなくて……寝不足で、朝は朝でバタバタだったんだ。新学期早々、忘れ物の嵐でね」
「ははっ、そう言えば、夏休み最後の日と、夏休み明けの母さんって毎年恒例でキーキーしてたな」
「菅野のご実家もそうだったの?」
「うちの場合は姉貴がひどかった」
「あー あのお姉さんか」

 そういう菅野は朝からご機嫌だ。

「ところで、菅野は何か良いことがあった?」
「よくぞ聞いてくれた! へへっ~ 実は今月末、旅行に行くことになった!」

 明るい笑顔が朝日に照らされて、ますます輝いてみえた。

 眩しい位だ。
 
 管野は笑顔が最高に似合う男だ。

「もしかして小森くんと?」
「そうなんだ。『あんこを巡る旅』をしないかと提案したら、即OKだったよ」
「よかったね! じゃあ……ついに、いよいよ一線を越えるのかな?」

 柄にもなく俗っぽいことを聞いてしまった。

 すると菅野は一瞬ぽかんとして、その後破顔した。

「へぇ~ 瑞樹ちゃんでもそんなこと言うんだな、なんかさ、普通の同世代の男って感じでいいな」
「僕だって男だから、二人の関係が気になって……その、今、どこまで? えっと……いや……」

 って、語尾が小さくなってしまうよ。猛烈に恥ずかしくなってきた。

「瑞樹ちゃん~ もうそれ以上喋るな。こっちが照れる」
「ご、ごめん」
「コホン、ってことで9月29日、風太の誕生日に姫路の『あんこ博物館』まで行ってくるぜ」

 ガッツポーズを見せる菅野に、一抹の不安を覚えた。

「えっと、行き先は『あんこ博物館』だけなの?」
「そうだよ! メインイベントだ! この新聞記事を見てくれよ」

 丁寧に折り畳んだ新聞記事を開いて、僕に熱弁を始めた。

『あんこ好き必見! あんこの菓子が集結! あんこ博物館にて『十五夜和菓子祭り』開催。日本全国からお月見団子などの和菓子が大集結します。一夜で日本全国のお月見団子を食べ歩ける、またとない機会』

 なるほど! これは確かに一発で小森くんを釣れる内容だ。

 いやいや、そうじゃない。

「あんこ食べ放題?」
「そう、風太はあんこが大好きだから、お腹いっぱい食べてもらうのさ」
「待って……それじゃいつものパターンでは?」
「ん?」
「小森くんはエンジェルズの一味だよ? 満腹イコール眠くなるじゃないのかな?」
「はっ! それはまずい!」
「宗吾さんに聞いておくよ。せっかくなら、あんこだけじゃなく、とびっきりロマンチックな夜を過ごして欲しい」

 菅野が立ち止まって、目を潤ませている。

「瑞樹ちゃん、優しい」
「菅野は大事な友だちだからだよ」
「嬉しいよ~瑞樹ちゃん。あのさ、夏の月影寺で思ったが、葉山は俺の心の友だと思ってる。あの場にいた人達は皆、心の交流が出来る友人だ」

 僕にまた一人心の友が増えたんだね。

 あの楽しかったお盆休みを思い出し、僕もつられて笑顔になった。

「葉山も明るく笑うようになったな」
「そうかな? そうだといいな」
「バッチリだ! さぁ、今日もバリバリ働くぞ」
「一緒にがんばろう!」


****

「いってきましゅ」
「いっくん、保育園は楽しいか」
「パパぁ、いっくんね、さいきん、みんなとサッカーしてるんだよ」
「そっか、芽生坊は名コーチだったから良かったな」

 いっくんの頭を優しく撫でてやると、可愛いことを言ってくれた。

「めーくんもだけど、パパもだよぅ。いっくんのパパはしゅごくかっこいいんだよ」

 今日も天使の笑顔で、オレを見上げてくれる。

 毎日デレデレだ。

 朝から優しい言葉に癒やされる。

 その反面、胸が少しだけ切なくなってしまう。

 オレもあの頃の兄さんに、こんな顔を見せてあげたかったな。

 兄さんはオレに勉強もスポーツも何でも丁寧に根気よく教えてくれたのに……オレは奪うだけ奪って少しも返さなくて、最低だった。

「パパぁ? どうしたの? ニコニコしたほうがいいよぅ」
「そうだな、いっくん大好きだ!」

 あの頃届けられなかった笑顔は、この子に。

 きっといっくんを通して、兄さんにも伝わるはずだ。

「えへへ、いっくんのパパぁ~」
「よし、そろそろ行こう」
「あい! ママぁ、いってきまーす」

 するとすみれが玄関まで飛んでくる。

「待って待って! いっくん、ママにも抱っこさせて」
「うん、マーマ」

 すみれのやわらかい身体に包まれたいっくんは、赤ちゃんのように可愛い表情を浮かべていた。

「やわらかくてやさしいママー だいしゅき」
「ありがとう。いっくんにとって楽しい1日でありますように」
「ママとまきちゃんもだよ。みんないっしょがいいよ」
「やさしいのね、いっくん、ありがとう」

 すみれが育休をたっぷり取ってくれたおかげで、我が家の朝は最近とてもゆったりしている。

 時間のゆとりは心のゆとりに直結しているようだ。

 こんな穏やかな日常が毎日続くなんて……こんなの初めてだ。

 すみれと出逢わなければ、今も一人で孤独に暮らしていただろう。

 だからこそ大事にしたい。

 宝物のような時間を過ごせているのは、家族のおかげ。

 ありがとう。

 感謝の気持ちをいつも忘れない。

 
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