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小学生編
秋色日和 12
土曜日の朝、部屋で仏典を読んでいると小森くんがトコトコと可愛い足音を立ててやってきた。
僕はその足音を聞くだけで、頬が緩む。
君は本当に可愛い子、僕の愛弟子だ。
「ご住職さまぁ」
「あぁ小森くん、もう支度は出来たの?」
「はい! じゃじゃーん、どうでしょう?」
彼は旅行用に誂えた小豆色のスーツを着ていた。
可愛らしい顔立ちに小豆色という優しい色合いがよく似合っているよ。
僕は目を細めて「うんうん」と頷いた。
「よく似合っているよ。ネクタイが少しだけ曲がっているね。直してあげよう」
「えへへ、照れ臭いですよ。小坊主姿ではなくスーツを着るのは、旅行以来ですから。あのご住職さま、今日はお休みを下さってありがとうございます」
畳に正座し、親指・人差し指・中指の3本の指を床について、ていねいに頭を下げる様子も愛らしい。
彼の真心は清々しく、一つ一つの仕草に感謝の気持ちが滲んでいる。
「今日はご実家でゆっくり過ごしておいで」
「はい! スーツ姿を見せてきますね」
「きっと喜ばれるよ」
成人式もしなかった小森くんだから、さぞかし喜ばれるだろう。
そこにドタバタと流がやってくる。
「小森、ほれ、おはぎを沢山作ったから、土産に持って行け」
「ああん~ あんあんあんあん、あんこちゃんではないですか! おおぉぉぉー あの丹波の小豆を炊いて下さったのですね」
「まぁな、約束したからな」
「流さん、ありがとうございます。わぁ沢山ですね!」
流も小森くんを猫可愛がりしているので、ずいぶん張り切ったらしく重箱にはおはぎが所狭しと詰め込まれていた。
10人前以上ありそうだね。
「重たいが持てるか」
「大丈夫ですよ。あんこのためならえんやこら~」
小森くんがいそいそと唐草模様の風呂敷に重箱を包み「よいしょ!」と背中に担ごうとすると、流が慌てて止めた。
「おいおい、そんな泥棒のようにならなくても、一緒に持ってもらえ」
「え?」
流の後ろにはよく見るとカチコチに固まっている菅野くんがいた。
彼もまたスーツ姿だ。
しかもブラックスーツ?
「菅野くん! そこにいらしたのですか。黒い仏像かと思いましたよ」
「おおおお、なんか緊張して、ちとスーツ選びを間違えたかもしれない。お母さんにドン引きされそうだ」
「大丈夫ですよ。僕の大事なお友達に母は無下なことは致しません」
「そうか……だが友達は友達なんだけど、少々やましい……いや、いきなりは驚かせてしまうから友達からだ」
二人で話し合って、まずは友人として紹介することになったようだ。
その事に異論はないよ。
二人が決めたことだ。
自然の流れに任せるのも一理ある。
僕と流が流れに任せて辿り着いたように、道は開く時には開く。
だから焦らずゆっくりでいい。
「さぁ、行っておいで」
「では、行って参ります」
大きな風呂敷を二人で仲良く持って石段を降りていく様子を、僕と流は温かい眼差しで見送った。
「よし、行ったな。さぁ次はハロウィンの準備だ。夜なべして衣装を作っているから楽しみにしてくれ」
「まったく、流は結局何人からオーダーを受けたんだ?」
「ん? 宗吾と丈だけだよ。あの二人さ、どっちが恋人の色気を引き出せるかを張り合っているんだぜ」
「くすっ、瑞樹くんは可愛いタイプだよ? 色気で洋くんに勝てる人はなかなか……」
「そこをあえて今年は色気! エロス! なんだってさ」
「あーあ、一体僕も何を着させられるのだか」
「おぉ、よくぞ聞いてくれた! ちなみに、翠は洋よりもエロいやつだ」
「はいはい、覚悟しておくよ」
「俺は本気だぜ!」
流は知っている?
僕が嫌とは言えないことを。
僕は流が喜ぶ顔が大好物なんだ。
小森くんがあんこを好むように、僕は流を……好む。
あぁ、やっぱり僕は相当流に甘いな。
年々酷くなっているかも?
今年ももうすぐハロウィンがやってくるのか。
男達のハロウィン祭りを結界の中で繰り広げよう。
今年のテーマはエロス?
また壮大なロマンを抱いたね。
****
明日はいよいよ芽生くんの運動会だ。
初めて君の運動会を見たのは、幼稚園の年中さんの時だったね。
一緒に踊ったマイムマイム。
今でもあの日の光景が色鮮やかに浮かんでくるよ。
僕は初めての経験に緊張しつつ、僕の存在が芽生くんに受け入れられていることに感動していた。
宗吾さんと芽生くんの心を潤す人になりたい。
そう願ったんだ。
そして今、その願いは毎日叶えられている。
僕はここにいる。
ここで息をしている。
秋の爽やかな陽射しを浴びながらベランダの植物の手入れをしていると、元気よくインターホンが3回鳴った。
芽生くんが帰ってきたようだ。
「お兄ちゃん、ただいまぁ!」
「芽生くん、おかえり。わぁドロドロだね」
「運動会の予行で、汗びっしょり」
「お風呂に入る?」
「それよりお腹すいたー 今日のごはん何?」
「チャーハンだよ」
「やった! ボクいっぱい食べたい」
「うんうん。大盛りにしてあげるよ」
育ち盛りの健康な小学生。
もうそれだけで充分だ。
君が元気に走り回って、お腹を空かせて帰ってきてくれる。
それが僕の幸せなんだよ。
「お兄ちゃん、いい?」
手を洗った芽生くんが少し甘えた声を出す。
だから手を広げて迎えてあげる。
「おいで。抱っこしてあげる」
「わーい!」
ギュッと抱きしめてあげると、芽生くんもギュッとくっついてくれる。
いっくんの前では優しいお兄ちゃん。
お友達の中でもいつも明るく友達思いの芽生くん。
でも僕の前では、まだまだ甘えていいんだよ。
僕は君に水を与えるオアシスでありたい。
僕はその足音を聞くだけで、頬が緩む。
君は本当に可愛い子、僕の愛弟子だ。
「ご住職さまぁ」
「あぁ小森くん、もう支度は出来たの?」
「はい! じゃじゃーん、どうでしょう?」
彼は旅行用に誂えた小豆色のスーツを着ていた。
可愛らしい顔立ちに小豆色という優しい色合いがよく似合っているよ。
僕は目を細めて「うんうん」と頷いた。
「よく似合っているよ。ネクタイが少しだけ曲がっているね。直してあげよう」
「えへへ、照れ臭いですよ。小坊主姿ではなくスーツを着るのは、旅行以来ですから。あのご住職さま、今日はお休みを下さってありがとうございます」
畳に正座し、親指・人差し指・中指の3本の指を床について、ていねいに頭を下げる様子も愛らしい。
彼の真心は清々しく、一つ一つの仕草に感謝の気持ちが滲んでいる。
「今日はご実家でゆっくり過ごしておいで」
「はい! スーツ姿を見せてきますね」
「きっと喜ばれるよ」
成人式もしなかった小森くんだから、さぞかし喜ばれるだろう。
そこにドタバタと流がやってくる。
「小森、ほれ、おはぎを沢山作ったから、土産に持って行け」
「ああん~ あんあんあんあん、あんこちゃんではないですか! おおぉぉぉー あの丹波の小豆を炊いて下さったのですね」
「まぁな、約束したからな」
「流さん、ありがとうございます。わぁ沢山ですね!」
流も小森くんを猫可愛がりしているので、ずいぶん張り切ったらしく重箱にはおはぎが所狭しと詰め込まれていた。
10人前以上ありそうだね。
「重たいが持てるか」
「大丈夫ですよ。あんこのためならえんやこら~」
小森くんがいそいそと唐草模様の風呂敷に重箱を包み「よいしょ!」と背中に担ごうとすると、流が慌てて止めた。
「おいおい、そんな泥棒のようにならなくても、一緒に持ってもらえ」
「え?」
流の後ろにはよく見るとカチコチに固まっている菅野くんがいた。
彼もまたスーツ姿だ。
しかもブラックスーツ?
「菅野くん! そこにいらしたのですか。黒い仏像かと思いましたよ」
「おおおお、なんか緊張して、ちとスーツ選びを間違えたかもしれない。お母さんにドン引きされそうだ」
「大丈夫ですよ。僕の大事なお友達に母は無下なことは致しません」
「そうか……だが友達は友達なんだけど、少々やましい……いや、いきなりは驚かせてしまうから友達からだ」
二人で話し合って、まずは友人として紹介することになったようだ。
その事に異論はないよ。
二人が決めたことだ。
自然の流れに任せるのも一理ある。
僕と流が流れに任せて辿り着いたように、道は開く時には開く。
だから焦らずゆっくりでいい。
「さぁ、行っておいで」
「では、行って参ります」
大きな風呂敷を二人で仲良く持って石段を降りていく様子を、僕と流は温かい眼差しで見送った。
「よし、行ったな。さぁ次はハロウィンの準備だ。夜なべして衣装を作っているから楽しみにしてくれ」
「まったく、流は結局何人からオーダーを受けたんだ?」
「ん? 宗吾と丈だけだよ。あの二人さ、どっちが恋人の色気を引き出せるかを張り合っているんだぜ」
「くすっ、瑞樹くんは可愛いタイプだよ? 色気で洋くんに勝てる人はなかなか……」
「そこをあえて今年は色気! エロス! なんだってさ」
「あーあ、一体僕も何を着させられるのだか」
「おぉ、よくぞ聞いてくれた! ちなみに、翠は洋よりもエロいやつだ」
「はいはい、覚悟しておくよ」
「俺は本気だぜ!」
流は知っている?
僕が嫌とは言えないことを。
僕は流が喜ぶ顔が大好物なんだ。
小森くんがあんこを好むように、僕は流を……好む。
あぁ、やっぱり僕は相当流に甘いな。
年々酷くなっているかも?
今年ももうすぐハロウィンがやってくるのか。
男達のハロウィン祭りを結界の中で繰り広げよう。
今年のテーマはエロス?
また壮大なロマンを抱いたね。
****
明日はいよいよ芽生くんの運動会だ。
初めて君の運動会を見たのは、幼稚園の年中さんの時だったね。
一緒に踊ったマイムマイム。
今でもあの日の光景が色鮮やかに浮かんでくるよ。
僕は初めての経験に緊張しつつ、僕の存在が芽生くんに受け入れられていることに感動していた。
宗吾さんと芽生くんの心を潤す人になりたい。
そう願ったんだ。
そして今、その願いは毎日叶えられている。
僕はここにいる。
ここで息をしている。
秋の爽やかな陽射しを浴びながらベランダの植物の手入れをしていると、元気よくインターホンが3回鳴った。
芽生くんが帰ってきたようだ。
「お兄ちゃん、ただいまぁ!」
「芽生くん、おかえり。わぁドロドロだね」
「運動会の予行で、汗びっしょり」
「お風呂に入る?」
「それよりお腹すいたー 今日のごはん何?」
「チャーハンだよ」
「やった! ボクいっぱい食べたい」
「うんうん。大盛りにしてあげるよ」
育ち盛りの健康な小学生。
もうそれだけで充分だ。
君が元気に走り回って、お腹を空かせて帰ってきてくれる。
それが僕の幸せなんだよ。
「お兄ちゃん、いい?」
手を洗った芽生くんが少し甘えた声を出す。
だから手を広げて迎えてあげる。
「おいで。抱っこしてあげる」
「わーい!」
ギュッと抱きしめてあげると、芽生くんもギュッとくっついてくれる。
いっくんの前では優しいお兄ちゃん。
お友達の中でもいつも明るく友達思いの芽生くん。
でも僕の前では、まだまだ甘えていいんだよ。
僕は君に水を与えるオアシスでありたい。
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