幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

秋色日和 29

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 俺が引いたカードは、意外な指令だった。

 あれ? 『アイドル』や『天使』じゃないのか。

『うさぎっぽい人と、うさぎ飛びをする』

 借り人競争なのに、動物レースみたいだな。

 ははっ、こっちもいっくんの保育園と同じ路線だったのか。

 それにしても、うさぎというワードに俺はほくそ笑んだ。

「ぶほっ! ヨッシャー! 来たー!」

 うさぎ=瑞樹一択だぜ。

 勢い良く瑞樹に向かって走り出すと、背後に人の気配を感じた。

「げげっ、他にも瑞樹を狙う輩がいたのか」

 俺以外に二人もって、どうなってるんだ?

 うさぎ以外に考えられる動物は……子猫ちゃんか、子リスちゃんか。

 そっち系の小動物もいいな。

 っと、それどころじゃない。

 ブーンっと本気で瑞樹の元に走って

「瑞樹っ、来い!」

 手を差し出すと、瑞樹も俺の手を掴んでくれた。

 そこで急ブレーキだ。

「宗吾さん、どうして止まるのですか」
「これだ」

 カードを見せると、瑞樹がくすっと笑った。

「うさぎ飛びなら練習済みですから、お任せ下さい」
「だよな!」

 俺たちは仲良く並んで、ぴょんぴょん飛んだ。

 いつもと違う景色が見えるぞ!

 人生アップダウン、でもうさぎのようにピョンピョン跳ねて乗り越えていこうぜ!

「さぁ、俺たちも一等賞を狙うぞ」
「はい、頑張りましょう」

 瑞樹と意気込んでいたら、背後から猛烈な勢いで追い上げてくる人がいた。

 振り返って仰天した。

「げげっ!」

****

 瑞樹の元に集まる人に「やはりな」とほくそ笑んでしまった。

 30歳とは思えない可憐な顔立ち。

 どこかのアイドル、それとも天使?

 とにかく清純な魅力が溢れ、優しさが滲み出る君は、皆に好かれる存在なんだよ。

 万人受けするのは分かっていたが、まさかレースに参加している人が揃ってやってくるとは……

 まぁ、想定内か。

 統計的確率通りだ。
 
 私は一般受けするタイプの人間ではないので、学級委員や生徒会のメンバー以外で、周囲から選ばれることは、まずなかった。

 美智以外は……

 美智だけは違った。

 私の学歴や外見ではなく、私の心の扉の前に立って静かにノックしてくれた。

 君と出逢えて良かった。

 生真面目で正義感が強すぎる堅苦しい私は、美智がいなかったら結婚出来ていなかっただろう。

 私のような偏った人間が、結婚出来る確率は低い。
 
 そう計算していた。

「瑞樹、来い!」
「はい!」

 宗吾が瑞樹に手を差し出し、瑞樹くんもその手をしっかり掴む。
 
 その様子を兄として微笑ましく見守っていると、何故かその他の人は、皆私の前に立った。

「何だ?」
「俺と一緒に来て下さい」
「私と一緒に来て下さい」

 なんだ? なんだ?

 皆、瑞樹くん目当てだったのじゃないか。

 私は天使でもアイドルでもうさぎでもないぞ?

「これです」
「私のはこれよ」

 それぞれのカードを見ると……

『カエルみたいな人と、かえる飛びをする』
『全身ジャージを着た大人の男性とコサックダンスをする』

 はぁ?

 カエル? 全身ジャージ?

 あ、それは緑色のジャージを着た私のことか。
 
 でも……蛙跳び? コサックダンス?

 どっちも嫌だ。

 などと……言う雰囲気ではない。

 目が殺気立ってる。

「よ、よしなにお願いします」

 もうどうとでもなれっ。

「よし、じゃんけんしよう」
「勝った!」

 選ばれたのはカエルだった。
 
 コサックダンスよりマシか。

「では行きましょう」
「……」

 は、恥ずかしい。

 恥ずかしいが、前方にノリノリでウサギ跳びをする宗吾と瑞樹が見えると、俄然ヤル気が湧いてきた。

 宗吾と瑞樹は膝を深く曲げてしゃがんだ姿勢で手を後ろに組み、足首の曲げ伸ばしで跳躍を繰り返していた。

 ピョンピョン、ぴょんぴょん。

 可愛い動きだ。(特に瑞樹!最高だ)

 よし、私も二人のように、やるからにはベストを尽くそう。

 勉強だけじゃない。

 なんでもベストを尽くすのは気持ちいいものだ。

 それを二人から学ぶ。

「あのうさぎたちを追い抜きましょう」
「そうですね」

 相手は宗吾くらいの年代のお父さんだった。
  
 私は足を地に付け座って、両手を地に付けて足首と膝の力に肘の力を加えて、ぴょーんと飛んだ。

 私は蛙だ。
 
 私は蛙!

 そこからは勢いがついた。

 私を選んでくれてありがとうの気持ちも込めて――

「おお、やりますね」
「昔取った杵柄ですよ」

 勉学には体力も必要だと、密かに自主トレした時代もあったのだ。

「はは、まだお若いですよ」
「そうですか」

 さぁ追いついた。

 宗吾、瑞樹悪いな。ここは私がもらう!
 
 ぴょんぴょん、ぴょんー ぴょーん!

 児童の声援を受けながら、私たちの蛙が一等賞だった。

「うぉー やった! やった! やりましたね」

 相手のお父さんは宗吾並にテンションの高い人だった。

「あ、あぁ……一等賞か、久しぶりだ」

 呆然としていると、瑞樹と宗吾が駆け寄ってくれた。

「兄さん、腰は大丈夫か」
「憲吾さん、すごく早かったですね。僕、感動しました」
「はは、まぁな。何でも本気でやると気持ちいいな」
「あ、それ、僕もそう思います」
「だな」

 私達は3人で笑い合った。

 観覧席の母がハンカチで目元を拭っているのが見えて、気恥ずかしかった。


****

「やだわ、泣ける……」

 まさか芽生の運動会に来て、息子たち3人が出場する競技が見られるなんて、なんのご褒美なの?

 視界がじわっと滲んでしまうわ。

「あぁ……最高ねっ、お父さん」

 あなたも空から見ているの?

 長男の憲吾は責任感が強く真面目で頼り甲斐があるわ。最近は恥ずかしそうに私の買い物にも付き合ってくれるのよ。

 一緒に買い物に行ってくれる娘が欲しかったなんて思っていたのは、昔のことよ。今は憲吾と美智さんが傍にいてくれます。

 そして明るいムードメーカーの宗吾。

 パワフルな宗吾からは、いつもいきいきと生きるパワーをもらっているわ。宗吾がいるだけで楽しい気分になるの。

 そして三男の瑞樹は本当に可愛らしい子で、糖度高めの癒し成分ですよ。

 三者三様、皆個性豊かで優しい息子よ。

 自慢の息子よ。

 いくつになっても私の可愛い息子。
 
 だからどうか見守らせてね。

 それぞれの幸せをこの先も――

 ずっとずっと。

 何があっても、あなたたちなら乗り超えていける。

 今日の蛙跳びとうさぎ跳びをどうか忘れないで!

 きっと役に立つわ。

 経験は宝物だから――

 この年齢になっても、気持ちが前を向いていると色々発見出来るのね。

 憲吾、宗吾、瑞樹、ありがとう!





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