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小学生編
秋色日和 39
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運動会の帰り道、芽生くんの笑顔は夕日に負けないくらい輝いていた。
芽生くんだけじゃない。
どの子も力を出し切った満足そうな顔をしている。
親御さんたちも、皆そんな子供たちの心に寄り添って、余韻を楽しむようにゆったりと歩いていた。
行きは観覧席の席取りが気になって早足だったが、今は名残惜しい。
「芽生、またなー」
「うん、またねー バイバイ!」
芽生くんの横を、同級生の家族が通り過ぎていった。
その時、同級生の男の子がお母さんとしっかり手を繋いで仲良く歩く姿を、芽生くんがチラッと見たのに気づいた。
今は運動会に両親が揃っていなくても浮かない世の中だが、こんな時は流石に芽生くんもお母さんと手を繋ぎたくなるのでは?
お母さんの温もりが恋しいのは、おかしいことじゃない。
むしろ正常の反応で、とても自然な感情なんだよ。
僕だってそうだったから、遠慮しなくていいんだよ。
叶えてあげられないのはもどかしいけれども、芽生くんの心に最大限寄り添ってあげたい。
暫く無言で歩いていると、芽生くんの方から僕の手にそっと触れてきた。
えっ、僕でいいの?
意外な気持ちで見つめると、芽生くんはにっこり笑ってくれた。
「えへへ、いい? 今日はみんな手をつないでいるからいーよね!」
「もちろんだよ」
「うれしいな」
芽生くんがブンブンと手を振ってくれると、僕の気持ちも上へ上へ上昇していく。
「じゃあ、ここで」
「おばーちゃん、おじさん、おばさん、あーちゃん、今日はありがとう」
「芽生、頑張ったわね。お家に戻ったらパパとお兄ちゃんにいっぱい甘えなさいね」
「うん!」
「芽生、またおじさんと野球を観に行くか」
「わぁ、行く行く!」
「芽生くん、また彩芽と遊んでね」
「もちろんだよ」
「めーくん、しゅき~」
最後はあーちゃんが、芽生くんにぴたっとくっついて可愛かった。
芽生くんって、将来絶対モテるだろうな。
「ばいばい!」
交差点でお母さんたちと別れ、僕たちはまた3人に戻った。
賑やかな1日だったね。
充実した1日だったね。
3年生の運動会は、つつがなく終わった。
それがどんなに幸せなことなのか、僕は知っている。
僕が雲の上の家族と過ごした最後の運動会は、3年生の時だった。
9歳の運動会を、僕は覚えている。
晴れ渡る青空も澄み渡る空気も、何もかも。
当たり前にように、来年の話をした帰り道。
家族で手をつないで歩いた道に伸びる影。
全部、全部、思い出した。
僕と出会った時、5歳になったばかりだった芽生くんも、もう9歳だ。
芽生くんと過ごす毎日が、僕の生きる道。
来年も再来年も、僕は君の傍にいる。
マンションに戻ると、毎年恒例だが部屋中が荒れていた。
寝室を覗くと、宗吾さんが脱ぎ捨てたパジャマが抜け殻のように床に転がっていた。
「はははっ、忙しかったからな~」
「くすっ、もう見慣れた光景ですよ。これも頑張った証なんですかね?」
「そうそう、瑞樹はだいぶ寛大になったな」
「でもあれだけは許せません」
僕が指差す方向には、宗吾さんのパンツが1枚、2枚……3枚も転がっている。
「3枚? どうしてそんなに出るんですか」
「そんなの決まってるだろ」
「え?」
急にドキドキしてきた。困ったな。
「はは、可愛い顔で何を考えている?」
「何でもないです。芽生くんをお風呂に入れてきます」
「俺も一緒に入りたい。うさぎ飛びで汗かいたしお茶もかぶって大変だった」
「確かに。でももう3人でお風呂に入るのは厳しいのでは?」
「なぁに、詰めればまだいけるさ」
その晩は3人でぎゅうぎゅうのお風呂に入った。でも自然とくっつきあえるのが嬉しくて、はしゃいでしまった。
そしてぐっすり眠った。
僕たちもやりとげた達成感で一杯で、あっという間に眠りに落ちた。
夢の中で、僕は小さな子供になっていた。
体操服のゼッケンには4-1と書いてある。
4年生の僕なの?
そこに「位置についてよーい、ドン!」の合図。
僕は走り出す。
リレーの選手だ。
カーブで視界がパーッと開ける。
これは今日、芽生くんが見た光景?
「瑞樹、がんばれ」
「瑞樹、ファイト」
あっ、お父さんとお母さんの声がする!
懐かしい声だ。
でも振り返ってはいけない、僕は前へ前へ進むのだから。
****
「パパ、お兄ちゃんまだ眠ってるの?」
「しーっ、 疲れが出たのだろう。いろいろ事前準備も頑張ってくれたしな」
「うん、お兄ちゃんってパパとママをかけたみたいで、頼もしくって優しいんだよ」
なるほど割るのではなく、かけ算をするのか。
いいな、それ。
芽生と二人で、瑞樹の寝顔を眺めた。
可愛い寝顔だよ。
30歳だなんて信じられないよ。
肌はすべすべで睫毛が長くて天使みたいだ。
「パパぁ、ちょっとお顔がヘンですよぅ」
「おお、まずいな。 しまりがないか」
「うん!」
「はは、瑞樹が起きる前に洗濯物を干してくるよ」
「ボク手伝う!」
「芽生は頼もしくなったな」
「えへへ」
そこにインターホンが鳴る。
こんな朝から誰だろう?
ドアを開けると、そこには……
「やぁ!」
「お父さん、お母さん!」
大沼の瑞樹の両親が満面の笑顔で立っていた。
「朝から悪いな。会いに来た」
「ウェルカムですよ! それに今ならと最高に可愛い瑞樹に会えますよ」
「え、本当か」
「まぁ、楽しみ」
運動会の翌日は、幸せな余韻に包まれた特別な時間が流れている。
今日は日曜日だ。
大好きな人と集って、のんびり過ごそう。
昨日の思い出話を沢山しよう。
撮った写真も一緒に見よう。
思い出に触れて、思い出を胸に、また進んで行こう。
芽生くんだけじゃない。
どの子も力を出し切った満足そうな顔をしている。
親御さんたちも、皆そんな子供たちの心に寄り添って、余韻を楽しむようにゆったりと歩いていた。
行きは観覧席の席取りが気になって早足だったが、今は名残惜しい。
「芽生、またなー」
「うん、またねー バイバイ!」
芽生くんの横を、同級生の家族が通り過ぎていった。
その時、同級生の男の子がお母さんとしっかり手を繋いで仲良く歩く姿を、芽生くんがチラッと見たのに気づいた。
今は運動会に両親が揃っていなくても浮かない世の中だが、こんな時は流石に芽生くんもお母さんと手を繋ぎたくなるのでは?
お母さんの温もりが恋しいのは、おかしいことじゃない。
むしろ正常の反応で、とても自然な感情なんだよ。
僕だってそうだったから、遠慮しなくていいんだよ。
叶えてあげられないのはもどかしいけれども、芽生くんの心に最大限寄り添ってあげたい。
暫く無言で歩いていると、芽生くんの方から僕の手にそっと触れてきた。
えっ、僕でいいの?
意外な気持ちで見つめると、芽生くんはにっこり笑ってくれた。
「えへへ、いい? 今日はみんな手をつないでいるからいーよね!」
「もちろんだよ」
「うれしいな」
芽生くんがブンブンと手を振ってくれると、僕の気持ちも上へ上へ上昇していく。
「じゃあ、ここで」
「おばーちゃん、おじさん、おばさん、あーちゃん、今日はありがとう」
「芽生、頑張ったわね。お家に戻ったらパパとお兄ちゃんにいっぱい甘えなさいね」
「うん!」
「芽生、またおじさんと野球を観に行くか」
「わぁ、行く行く!」
「芽生くん、また彩芽と遊んでね」
「もちろんだよ」
「めーくん、しゅき~」
最後はあーちゃんが、芽生くんにぴたっとくっついて可愛かった。
芽生くんって、将来絶対モテるだろうな。
「ばいばい!」
交差点でお母さんたちと別れ、僕たちはまた3人に戻った。
賑やかな1日だったね。
充実した1日だったね。
3年生の運動会は、つつがなく終わった。
それがどんなに幸せなことなのか、僕は知っている。
僕が雲の上の家族と過ごした最後の運動会は、3年生の時だった。
9歳の運動会を、僕は覚えている。
晴れ渡る青空も澄み渡る空気も、何もかも。
当たり前にように、来年の話をした帰り道。
家族で手をつないで歩いた道に伸びる影。
全部、全部、思い出した。
僕と出会った時、5歳になったばかりだった芽生くんも、もう9歳だ。
芽生くんと過ごす毎日が、僕の生きる道。
来年も再来年も、僕は君の傍にいる。
マンションに戻ると、毎年恒例だが部屋中が荒れていた。
寝室を覗くと、宗吾さんが脱ぎ捨てたパジャマが抜け殻のように床に転がっていた。
「はははっ、忙しかったからな~」
「くすっ、もう見慣れた光景ですよ。これも頑張った証なんですかね?」
「そうそう、瑞樹はだいぶ寛大になったな」
「でもあれだけは許せません」
僕が指差す方向には、宗吾さんのパンツが1枚、2枚……3枚も転がっている。
「3枚? どうしてそんなに出るんですか」
「そんなの決まってるだろ」
「え?」
急にドキドキしてきた。困ったな。
「はは、可愛い顔で何を考えている?」
「何でもないです。芽生くんをお風呂に入れてきます」
「俺も一緒に入りたい。うさぎ飛びで汗かいたしお茶もかぶって大変だった」
「確かに。でももう3人でお風呂に入るのは厳しいのでは?」
「なぁに、詰めればまだいけるさ」
その晩は3人でぎゅうぎゅうのお風呂に入った。でも自然とくっつきあえるのが嬉しくて、はしゃいでしまった。
そしてぐっすり眠った。
僕たちもやりとげた達成感で一杯で、あっという間に眠りに落ちた。
夢の中で、僕は小さな子供になっていた。
体操服のゼッケンには4-1と書いてある。
4年生の僕なの?
そこに「位置についてよーい、ドン!」の合図。
僕は走り出す。
リレーの選手だ。
カーブで視界がパーッと開ける。
これは今日、芽生くんが見た光景?
「瑞樹、がんばれ」
「瑞樹、ファイト」
あっ、お父さんとお母さんの声がする!
懐かしい声だ。
でも振り返ってはいけない、僕は前へ前へ進むのだから。
****
「パパ、お兄ちゃんまだ眠ってるの?」
「しーっ、 疲れが出たのだろう。いろいろ事前準備も頑張ってくれたしな」
「うん、お兄ちゃんってパパとママをかけたみたいで、頼もしくって優しいんだよ」
なるほど割るのではなく、かけ算をするのか。
いいな、それ。
芽生と二人で、瑞樹の寝顔を眺めた。
可愛い寝顔だよ。
30歳だなんて信じられないよ。
肌はすべすべで睫毛が長くて天使みたいだ。
「パパぁ、ちょっとお顔がヘンですよぅ」
「おお、まずいな。 しまりがないか」
「うん!」
「はは、瑞樹が起きる前に洗濯物を干してくるよ」
「ボク手伝う!」
「芽生は頼もしくなったな」
「えへへ」
そこにインターホンが鳴る。
こんな朝から誰だろう?
ドアを開けると、そこには……
「やぁ!」
「お父さん、お母さん!」
大沼の瑞樹の両親が満面の笑顔で立っていた。
「朝から悪いな。会いに来た」
「ウェルカムですよ! それに今ならと最高に可愛い瑞樹に会えますよ」
「え、本当か」
「まぁ、楽しみ」
運動会の翌日は、幸せな余韻に包まれた特別な時間が流れている。
今日は日曜日だ。
大好きな人と集って、のんびり過ごそう。
昨日の思い出話を沢山しよう。
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思い出に触れて、思い出を胸に、また進んで行こう。
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