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小学生編
冬から春へ 5
火事?
火事だなんて信じられないよ。
どうしよう! どうしたらいい?
ここは潤のアパートだ。
何度か訪れたことがあるので一目で分かった。
住所も外観も一致している。
メラメラと燃え上がるアパートの映像が、目に焼き付いて離れない。
「うっ……」
まずい――
あの日の残酷な景色が呼び起こされてしまう。
あの日……
僕は傷だらけで意識のない弟を抱きしめて、身体ごと投げ出された道路にしゃがみこんでいた。
すると目の前でボンっと大きな音が鳴り、車がオレンジ色になった。
まぶしくて目を開けていられない。
熱いよ……
「まって、まって、お父さんとお母さんが、まだ中に!」
さっきまで乗っていた車が炎上するのを、呆然と見つめることしか出来なかった。
10歳の子供には、何も出来ない厳しすぎる現実だった。
あの日の記憶が過ってしまい、吐き気と目眩で倒れそうになると、菅野が支えてくれた。
「瑞樹ちゃん、しっかりしろ」
「……とにかく帰らないと」
必死に歩き出すが、一歩歩く度に目眩が酷くなる。
「うっ……」
「瑞樹ちゃん、タクシーで送るよ」
「ごめん、菅野……」
「何言ってんだ。困った時はお互い様だろ? 宗吾さんに連絡するぞ」
「あ……待って……まだ仕事中かも」
「馬鹿、非常事態だ」
「うん……」
菅野と一緒にタクシーに乗った所で、また火事の映像が脳裏を駆け巡った。
こういう状況に、僕は弱すぎる……
「うっ……」
まずい、パニックを起こしそうだ。
必死に悲鳴を呑み込むと、そこでblackoutしてしまった。
目を覚ますと、目の前に宗吾さんの心配そうな顔が見えた。
ぼんやりと焦点を合わせていくと、自分の部屋でスーツのまま横になっていることを理解した。
「あ……宗吾さん……ここは?」
「瑞樹、俺だ。菅野くんが運んでくれたんだ」
「葉山、大丈夫か。タクシーの中で倒れてしまったから、宗吾さんに連絡してすぐ帰ってきてもらったんだ。勝手に入ってごめんな」
「芽生くんのお迎えは?」
「大丈夫だ! 今日は兄さんに頼んだよ。それより潤くんと連絡は取れたのか」
「あ……もう一度取ってみます」
「起きられそうか」
「はい、宗吾さんの顔を見たらほっとしました。菅野ありがとう」
部屋まで運んでくれたのは菅野なのか。
悪いことをした、迷惑をかけてしまった。
「そして、ごめ……」
「瑞樹ちゃん、それはストップだ」
「う……ん」
「俺に出来ることがあったら、遠慮無く言えよ」
「ありがとう」
宗吾さんが僕の携帯を持ってやってくる。
「瑞樹、もう一度潤くんにかけてみよう」
「はい……」
しかし……何コールしても潤は出ない。
僕はブルブルと震える身体を抱きしめた。そんな僕の身体を宗吾さんが抱き寄せてくれた。菅野の前でとか、そういうことは考えられないほど、僕は不安になっている。
「出ない……出ません」
「落ち着け、会社かもしれない」
「あ……職場に連絡をしてみます」
職場には通じたが、今日は早く上がって保育園のお迎えに向かったそうだ。職場でも火事を把握して必死に連絡を取っているが、まだ繋がらないので心配だと言われてしまった。
「どうしよう……どうしたら」
「落ち着け。よし、次はいっくんの保育園にかけてみるよ」
「はい」
宗吾さんは冷静だ。一つ一つ可能性を探ってくれる。
僕は突然の出来事に弱すぎる……
「瑞樹、君が出来ないことをやるのが俺の役目だ」
「はい……」
保育園の電話を切った宗吾さんは、険しい表情を浮かべた。
「どうでしたか」
「保育園の方も騒然としていた。今日はいつもより早く潤くんがお迎えに来て仲良く帰っていったと……」
「そんな……どうしよう。ま、まさか火事に巻き込まれたのでは?」
「怪我人の情報はまだ流れていない……しかし情報が少なすぎる。よし、現地に駆けつけてみよう」
「えっ?」
宗吾さんがすくっと立ち上がった。菅野も賛同する。
「そうですよ。潤くん家族が路頭に迷っているかも。まずは寝床を確保してやらないと」
「あ……そうか」
「そうだ。最悪のことばかり想像してないで、今、潤くんたちが困っていることを解決しやろう」
「よし、瑞樹ちゃん、行ってこい! 明日の仕事は俺とチームだからどうとでもなる!」
菅野に背中を押されて、宗吾さんの車で軽井沢に向けて出発することになった。
出発前に宗吾さんが憲吾さんに電話して事情を話すと、実家に一瞬でいいから寄って行くように言われた。
「寄ってもいいか」
「もちろんです、芽生くんにも一目会いたいし」
潤の携帯は『電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるか……』というアナウンスしか流れない。
潤、どうか、どうか無事で――
菫さんといっくんと槙くんをしっかり守ってくれ!
****
パパとね、おうちになかよくかえってきたら、オレンジいろになっていたの。
あれは、あついからさわったらダメってママがいってるのだ。
「大変だ! 火事だ。いっくんこっちへ」
「うん」
かじ? こわいけどパパがついているからこわくないもん。
あ、でもママとまきくんがおへやにいるよ。
どうちよう?
たいへん!
「パパを信じてくれるか」
「うん! もちろんだよ」
「ありがとう! ここから動いちゃダメだぞ。ママとまきくんを連れてくるから」
「うん。いっくん、パパをしんじるよ」
「信じてくれてありがとう」
パパ、パパ。
いっくんのパパなら、きっとママとまきくんをたすけてくれるよね。
だからね、いっくん、パパをしんじるよ。
しんじる!
火事だなんて信じられないよ。
どうしよう! どうしたらいい?
ここは潤のアパートだ。
何度か訪れたことがあるので一目で分かった。
住所も外観も一致している。
メラメラと燃え上がるアパートの映像が、目に焼き付いて離れない。
「うっ……」
まずい――
あの日の残酷な景色が呼び起こされてしまう。
あの日……
僕は傷だらけで意識のない弟を抱きしめて、身体ごと投げ出された道路にしゃがみこんでいた。
すると目の前でボンっと大きな音が鳴り、車がオレンジ色になった。
まぶしくて目を開けていられない。
熱いよ……
「まって、まって、お父さんとお母さんが、まだ中に!」
さっきまで乗っていた車が炎上するのを、呆然と見つめることしか出来なかった。
10歳の子供には、何も出来ない厳しすぎる現実だった。
あの日の記憶が過ってしまい、吐き気と目眩で倒れそうになると、菅野が支えてくれた。
「瑞樹ちゃん、しっかりしろ」
「……とにかく帰らないと」
必死に歩き出すが、一歩歩く度に目眩が酷くなる。
「うっ……」
「瑞樹ちゃん、タクシーで送るよ」
「ごめん、菅野……」
「何言ってんだ。困った時はお互い様だろ? 宗吾さんに連絡するぞ」
「あ……待って……まだ仕事中かも」
「馬鹿、非常事態だ」
「うん……」
菅野と一緒にタクシーに乗った所で、また火事の映像が脳裏を駆け巡った。
こういう状況に、僕は弱すぎる……
「うっ……」
まずい、パニックを起こしそうだ。
必死に悲鳴を呑み込むと、そこでblackoutしてしまった。
目を覚ますと、目の前に宗吾さんの心配そうな顔が見えた。
ぼんやりと焦点を合わせていくと、自分の部屋でスーツのまま横になっていることを理解した。
「あ……宗吾さん……ここは?」
「瑞樹、俺だ。菅野くんが運んでくれたんだ」
「葉山、大丈夫か。タクシーの中で倒れてしまったから、宗吾さんに連絡してすぐ帰ってきてもらったんだ。勝手に入ってごめんな」
「芽生くんのお迎えは?」
「大丈夫だ! 今日は兄さんに頼んだよ。それより潤くんと連絡は取れたのか」
「あ……もう一度取ってみます」
「起きられそうか」
「はい、宗吾さんの顔を見たらほっとしました。菅野ありがとう」
部屋まで運んでくれたのは菅野なのか。
悪いことをした、迷惑をかけてしまった。
「そして、ごめ……」
「瑞樹ちゃん、それはストップだ」
「う……ん」
「俺に出来ることがあったら、遠慮無く言えよ」
「ありがとう」
宗吾さんが僕の携帯を持ってやってくる。
「瑞樹、もう一度潤くんにかけてみよう」
「はい……」
しかし……何コールしても潤は出ない。
僕はブルブルと震える身体を抱きしめた。そんな僕の身体を宗吾さんが抱き寄せてくれた。菅野の前でとか、そういうことは考えられないほど、僕は不安になっている。
「出ない……出ません」
「落ち着け、会社かもしれない」
「あ……職場に連絡をしてみます」
職場には通じたが、今日は早く上がって保育園のお迎えに向かったそうだ。職場でも火事を把握して必死に連絡を取っているが、まだ繋がらないので心配だと言われてしまった。
「どうしよう……どうしたら」
「落ち着け。よし、次はいっくんの保育園にかけてみるよ」
「はい」
宗吾さんは冷静だ。一つ一つ可能性を探ってくれる。
僕は突然の出来事に弱すぎる……
「瑞樹、君が出来ないことをやるのが俺の役目だ」
「はい……」
保育園の電話を切った宗吾さんは、険しい表情を浮かべた。
「どうでしたか」
「保育園の方も騒然としていた。今日はいつもより早く潤くんがお迎えに来て仲良く帰っていったと……」
「そんな……どうしよう。ま、まさか火事に巻き込まれたのでは?」
「怪我人の情報はまだ流れていない……しかし情報が少なすぎる。よし、現地に駆けつけてみよう」
「えっ?」
宗吾さんがすくっと立ち上がった。菅野も賛同する。
「そうですよ。潤くん家族が路頭に迷っているかも。まずは寝床を確保してやらないと」
「あ……そうか」
「そうだ。最悪のことばかり想像してないで、今、潤くんたちが困っていることを解決しやろう」
「よし、瑞樹ちゃん、行ってこい! 明日の仕事は俺とチームだからどうとでもなる!」
菅野に背中を押されて、宗吾さんの車で軽井沢に向けて出発することになった。
出発前に宗吾さんが憲吾さんに電話して事情を話すと、実家に一瞬でいいから寄って行くように言われた。
「寄ってもいいか」
「もちろんです、芽生くんにも一目会いたいし」
潤の携帯は『電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるか……』というアナウンスしか流れない。
潤、どうか、どうか無事で――
菫さんといっくんと槙くんをしっかり守ってくれ!
****
パパとね、おうちになかよくかえってきたら、オレンジいろになっていたの。
あれは、あついからさわったらダメってママがいってるのだ。
「大変だ! 火事だ。いっくんこっちへ」
「うん」
かじ? こわいけどパパがついているからこわくないもん。
あ、でもママとまきくんがおへやにいるよ。
どうちよう?
たいへん!
「パパを信じてくれるか」
「うん! もちろんだよ」
「ありがとう! ここから動いちゃダメだぞ。ママとまきくんを連れてくるから」
「うん。いっくん、パパをしんじるよ」
「信じてくれてありがとう」
パパ、パパ。
いっくんのパパなら、きっとママとまきくんをたすけてくれるよね。
だからね、いっくん、パパをしんじるよ。
しんじる!
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