幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

冬から春へ 15

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 前置き(宣伝を含むので不要な方は飛ばして下さい)


 3月10日は春庭でした。

『幸せな存在』5周年記念本ですが、1時間弱で売り切れてしまい、ご不便をおかけしました。
 はじめましての方にも沢山お立ち寄りいただけ、感激しました。
 BOOTHの方も翌日には完売してしまい現在在庫がない状態です。前向きに再版を考えております。
 BOOTHの入荷お知らせメールにご登録していただけると嬉しいです。https://shiawaseyasan.booth.pm/


 これからもサイトの方でもコツコツ『幸せな存在』を更新していく予定です。どうぞ宜しくお願い致します。

 
 長文失礼致しました。




****




 客室に入るなり脱力してしまった瑞樹。

 さっと手を差し出すと、迷わず掴んでもらえた。

 それが嬉しかった。

 芽生に電話したいという気持ちも、芽生を俺と瑞樹の子供みたいだと言ってくれる気持ちも嬉しくて、感極まって口づけしてしまった。

 俺が瑞樹に抱く、溢れんばかりの愛を伝えたくて――

 こんな状況下だが、瑞樹の吐息の温もりを直接感じられる行為に夢中になってしまった。

 君がこの世に生き残ってくれたことに感謝だ。

 俺と出会ってくれてありがとう。

 もう君以外の人は考えられない。

 俺の生涯の伴侶は君だ。

「んっ……ん……」
「瑞樹……瑞樹……」
「宗吾さん……あっ……」

 そこに客室のチャイムが鳴ったので、慌てて身体を離した。

 瑞樹が濡れた唇を手の甲で拭くのを確認してから扉を開けると、いっくんを抱っこした潤が立っていた。

「どうした? いっくんの具合が悪いの?」

 瑞樹が兄モードになって真顔で聞くと、潤もいっくんも首を横に振った。

「いや、元気だよ。あのさ、いっくんが芽生坊に無事を伝えたいって……だから電話を取り次いでくれないか。あとオレ、憲吾さんに直接お礼を言いたくて」

 潤も成長したな。

 すっかり、いっくんの頼もしいお父さんだ。

「僕もちょうどかけようと思っていた所だよ。一緒にかけよう」
「ありがとう。いっくん良かったな」

 いっくんも潤と一緒に破顔する。

「うん、よかったぁ、いっくん、めーくんに、いきてるよって、ちゃんとつたえたかったの」

 生きている。
 
 その言葉に瑞樹が息を呑む。

「生きている……うん、生きているよ! いっくんはちゃんと生きているんだよ。僕はもう誰も失っていない」
「みーくん、いきているってしゅごいね。しゅごいことだね」
「いっくん……あぁ、そうだよ。その通りだよ。すごいことなんだよ」

 ヤバい。

 いっくんと瑞樹の会話に、もらい泣きしそうだ。

 生きているってすごい。

 本当にその一言に尽きる。

 毎日、いろんなことがある。

 打ちのめされることも、哀しみに明け暮れることも、不安に怯える夜もある。

 だが人はこの世を生きて明日を迎える。

 それは当たり前のようで、当たり前でないこと。

 だからこそ、俺たちは何気ない普段の日常にもっと感謝しないとな。




 電話をかけると、まずは潤が兄さんに礼を言った。

「本当にありがとうございます。オレ、一刻も早く兄さんに連絡したかったので、助かりました」
「やはりそうだったのか。役に立てて良かったよ。差し出がましいことをしたかと心配していたが」
「とんでもないです。喉から手が出るほど欲しかった情報でした。兄さんの連絡先は……だから感謝しています」
「いや、私に出来ることをしたまでだ。礼には及ばないよ」

 兄さんの照れ顔が浮かぶな。

 続いて、いっくんと芽生が話し出す。

 芽生といっくんの子供の世界の会話に耳を傾ける。

「もっ、もちもち、めーくんでしゅか」
「いっくん! いっくん! いっくん」
「めーくん、めーくん、めーくぅん」

 ひたすら名前を呼び合っている。

 呼べば答えてくれる。

 そんなこと単純なことにも、感動しちまうな。

 火事という災難に遭ったが、こんな時だからこそ、人と人との繋がりの大切を強く感じるよ。

「めーくん、あのね……ごめんなしゃい」
「いっくんがどうしてあやまるの?」
「あのね、めーくんにもらったおようふくもおもちゃも……サッカーボールもぜんぶ、ぜんぶ、ぐすっ、もえちゃったよ。えーん、えーん、えーん」

 話しながらいっくんが大泣きしてしまった。

 子供ながらにショックだったよな。

 不謹慎だが、芽生が着古したお下がりだったのに、こんなに大切に思ってくれたことには感激してしまった。

 いっくんはまだ小さいのに『感謝の心』を知っている。

 だから俺たちも君がすくすく成長できるよう全力でサポートするよ。

 さぁ、芽生はどう答えるか。

「いっくん、心配しないで大丈夫だよ。ボクたちはまだまだ大きくなるよ。ボクもどんどん背が伸びて着られなくなった服がまた沢山できちゃった。だから、また送るね」
「ほんと? またいっくんにおようふく、くれるの?」
「うん、また着てくれる?」
「いっくんね。めーくんのおようふくだいしゅき。だってね、めーくんがおそばにいるみたいなの。めーくんといつもいっちょだなって」

 健気ないっくんの言葉に、瑞樹と潤の瞳がますます潤んでいく。

「……いっくん、あいたいね」
「いっくんも、しゅごくあいたいよぅ」

 そうか、明日からのことを案じていたが……

 これはどうだ?

 菫さんは育休中だし、いっくんも保育園をしばらく休んでも大丈夫だろう。

 今は心のケアを優先させる時だしな。

「潤、明日からどうするつもりだ?」
「実は明日から閉園期間でしばらく休みなので、これを機会に新しい家を探そうと思っています。もう少し広い家に引っ越しを考えていたので、頑張って探します」
「なるほど……じゃあ新しい家が見つかるまで、君たち一家は俺の家に避難するってのは、どうだ?」
「えっ……」
「ずっとホテル生活じゃ不便だろう。乳飲み子もいるし、菫さんといっくんの心のケアを考えると、一旦軽井沢から離れるのもありかと」

 火事のショックも癒えないうちに、家族を巻き込んで家探しは大変だろう。役所や各方面への手続きなど、正直やることが山積みになるだろう。

「えっ、本当に菫といっくんと槙を預かってもらえるのですか」
「菫さんさえよければ、だが」
「聞いてきます」

 すぐに菫さんに確認を取ると、最初潤を置いていくことを心配していた。

「すみれ、そうしてもらえるとオレも安心だ。ここは甘えよう」
「潤くん……でも潤くんは?」
「警察や消防にも行かないといけないし、いろんな申請や手続きがあるから、ここに残るよ。だが目処が立ったら迎えに行く。オレは兄さんの家にいてくれるのが、一番安心できるんだ」
「潤くん、ありがとう。私ひとりでこの状況に陥ってしまったら、もう持ちこらえられなかった。あなたと出会っていて良かったわ。こんなに頼もしいことはないわ。そうね、いっくんも芽生くんと過ごせたら喜ぶし……」


 大切な人のために手を差し出す。

 差し出された手を掴む。

 人はそんな風に支えあって生きている。

 さぁ、大切な人のために俺たちも動き出そう!

 
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