幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

冬から春へ 47 

「潤、こんな好条件の物件は二度と出ないだろう」

 不動産屋さんで、父さんがオレの横に座って一緒に説明を延々と聞いてくれた。

 正直……専門用語が難しくて首を捻ってばかりだったが、父さんは始終堂々としていた。

 やっぱり父さんってカッコいい。

 父さんとは、こんな風にドンと構えて家族を支えてくれる人なんだな。

 オレには生まれた時から父さんがないかったので、ずっと想像すら出来なかったが、大沼の父さんのお陰で、今は父となったオレが進むべき道が見えている。

 父さんを見つめていたら、ふと広樹兄さんを思い出した。

 当時、兄さんだってまだ親に甘えたい子供だったのに、母さんと弟たちのために一気に飛び越えて大人びてしまった。

 広樹兄さんは老成した青年として、一生懸命家族を支えてくれた。

 父さんの代わりを全力で務めてくれた。

 オレはここまで勝手に大きくなったわけではないのだ。

 周囲の人に支えられて成長してきた。
 
 ありがとう。

 しみじみと感謝の気持ちがこみ上げてくる。

 みんな、ありがとう。

 受けた恩を、今度はオレが返していきたい。

「潤、他に何か質問はあるか」
 
 質問といっても小さな文字で埋め尽くされた書類に頭の中がパンクしそうで、それ以前の問題だ。父さんが噛み砕いて説明してくれるので、なんとか理解できたが。

「父さん、オレはこういうことに疎くて……情けないです」
「いや、潤……契約において事務的な事はもちろん大事だが、一番大切なのは潤の心の声だ。進みたいかどうかを、イエスかノーで単純に考えてみるといい」
「はい」

 目を閉じれば、信じられない程リアルに映像が浮かんできた。

 まるで映画のワンシーンのようだ。

 菫が開く洋裁店は、白い壁にペパーミントグリーンの扉の、物語に出てきそうな店構えだ。

 子供服を得意とする店で、観光客から地元の人まで幅広い客層で賑わっている。そして店の奥からは足踏みミシンの音がまるでBGMのように聞こえてくる。

 洋裁店は、夏限定で小さな花屋とカフェを併設する。

 カフェでは母さんが揚げたてドーナッツを振るまって、父さんが挽き立ての珈琲を淹れている。

 更に夏休みを利用して広樹兄さんと瑞樹兄さんが来てくれ、夏限定の小さな花屋を開く。オレが育てた花を瑞樹兄さんのアレンジメントし、広樹兄さんお客様に届ける。

 オレの夢に瑞樹兄さんと広樹兄さんも賛同してくれ、今は葉山三兄弟の夢となっている。

 それから、休みには成長したいっくんと槙、芽生坊、優美ちゃんも集まって、従兄弟同士で楽しく遊べるといい。

 賑やかで明るい時間を、オレの家で過ごしてもらいたい。

 そこには、みんなが憧れていた家族の時間が優しく流れているだろう。

 現実は……こんなに上手くいくとは限らない。だがこんなにリアルな映像が浮かぶほど、オレの夢はハッキリしていた。

「オレ、真っ直ぐ進みたいです。この家に夢を託したいです」
「父さんも賛成だ」
「母さん、軽井沢も大好きよ」

 とんとん拍子に話は進み、売買契約をすることとなった。ただ火事で身分証明書や印鑑など全てを失っていたので、それを取り戻すことからスタートだ。

 すみれたちを迎えに行くのは、少し先になりそうだな。

 少しがっかりしていると、父さんが励ましてくれる。

「潤、この分だと東京が春めいてきた頃には迎えに行けそうだな」
「あ、そうか……はい! 目処がついて良かったです」
「その通りだ。目標があると人は頑張れる。なぁに、潤になら出来るさ」
「父さん……あの、どうしてオレをそこまで信頼してくれるのですか」

 思わず聞いてしまった。

「それはオレの息子だからさ」

 ポンと肩に手を置かれると、信頼されていることがじわりと伝わってきた。

「父さん……オレ誠心誠意、頑張ります! そして堂々と家族を東京まで迎えに行きます」

 更にばあちゃんのご厚意で正式な契約の前でも、老朽化した部分をリフォームする許可をもらえた。

「よしっ! 久しぶりの大工仕事か、腕が鳴るよ」
「オレも前職を活かして頑張ります」
「そうか、潤の前職はそうだったのか。頼りにしているぞ」
「はい!」

 まさかあの函館の建築会社時代に身につけた技術が、こんなカタチで役立つなんて。忘れられないほどの辛い思い出は、今をしっかり生きることで上書きすればいい。

 夢があるから頑張れる。

 菫、いっくん、槙、待っていてくれ。

 必ず迎えに行く!

 離れた場所にいる家族に胸を張って宣言出来た。


****

「芽生くん、ダウンのファスナー、修理できたわよ」
「わぁ、すみれさん、本当にありがとうございます。いっくんもありがとう」
「えへへ、よかったね。めーくん」
「これよ」

 すみれさんがボクに渡してくれたダウンには、シルバーのキラキラ光るファスナーがついていた。




「わぁ!」
「どうかしら? 大河先輩がアレンジしてくれたの。いまどきはこういうの流行っているんですって」
「すごい、すごくかっこいい。着てみてもいい?」
「もちろんよ」

 すごい! すごいよ。

 大好きなアニメのヒーローが変身する前に着ているのと、そっくり!

 
 お兄ちゃんも見守ってくれている。

「芽生くん、良かったね。一段とカッコいいよ」
「お兄ちゃんに何かあったら、ボク、このコートを着て助けに行くよ」
「うん、そうしてもらおうかな。芽生くんは頼りになるから」
「ぜったい、ぜったいに行くよ」

 お兄ちゃんに頼りになるって言ってもらえて、スペシャルうれしいよ!

 身体がポカポカだよ。

 ファスナーがこわれちゃったとき、すごく悲しかったけど、こんな風に気持ちも変身できるんだね。

 ボクひとりじゃ無理だった。

 みんな、ありがとう!



 

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