幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,657 / 1,871
小学生編

冬から春へ 49

「兄さん、オレ……実はマイホームが手に入りそうなんだ」
「えっ、マイホーム?」

 確か職場の近くの賃貸アパートかマンションを探すと聞いていたので、少し驚いた。だが、それを越える嬉しさがじわりと押し寄せて来た。

「実はアパートの火事で助けたばあちゃんが、亡くなったダンナさんと住んでいた家をオレに譲ってくれるという話が舞い込んできて……それが軽井沢駅近くの一軒家だったんだ。条件が良くて、思い切って購入させてもらおうかと」
「そうだったのか。素敵なご縁が巡ってきたんだね」

 そうか、潤が助けた人が、今度は潤を助けてくれるのか。

 人とのご縁を大切にすると、それは良縁となって戻ってくる。

 それを地で行く幸せなニュースだ。

「俺もまだ信じられないよ。まさか、こういう展開になるとは」
「いや、潤の行いの結果だよ。それに潤ももう二児の父親だ。そろそろ自分の家を手に入れるのに良い時期だよ。本当におめでとう!」

 地に足を付けて、潤は生きていく。

 そう宣言してくれたようで、弟の成長を見守ってきた兄として感慨深い気持ちになった。

 やんちゃで僕を困らせることもあった潤が大きく成長し、逞しい父親になった。

 あの事件以降、潤は本当に変わった。

 ひとり故郷を離れ誰も知り合いがいない土地で一からスタートした。

 コツコツと努力して、人との気持ち、繋がりを大切にした。

 こうやって人は成長していくのか。

 僕も頑張りたいな。

「それから朗報があって、オレの家は、広樹兄さんと兄さんの夢を叶える舞台になるよ」
「え?」
「兄さんと以前話した、三兄弟の夢を覚えているか」
「いつか三兄弟で期間限定で花屋を開くという夢のこと?」
「そう! それが実現できる場所なんだ。だから兄さんもおめでとう!」

 夢を現実に出来る?

 僕にとっては夢のまた夢だったのに……

「兄さん……それで頼みがあって……その家は長く人が住んでいなかったので結構痛んでいて、今すぐ菫たちを呼び戻せる状況ではなくて……父さんが一緒に手伝ってくれるというので急ピッチで手入したいんだ。だから、その……」

 僕の横に座っていた宗吾さんが優しく頷いてくれる。

 電話の会話の流れから、勘が良い人なので、察したようだ。

 僕の横で囁いてくれた。

「瑞樹、俺は大歓迎だぞ。芽生にとって、いっくんと兄弟のように過ごせる時間は貴重だし、菫姉さんはめちゃくちゃ頼りになるしな」
「あ……」
「さぁ、早く潤を安心してやるといい」
「はい!」

 潤にこちらのことは気にしなくていいと話すと、「さすが宗吾さんだな。心が広くて最高だ!」と言ってくれた。

 僕は宗吾さんが褒められて嬉しいし、宗吾さんも満足そうだった。

 

 そんなわけで、僕たちの家に、菫さんといっくんが同居する生活が改めてスタートした。

 軽井沢の一軒家は、なんと1階が洋裁屋さんだったそうで、ショーケースがあって素敵だ。毎日潤とお父さんからリフォームの経過報告が届く。僕たちはそれを見て、夢を膨らませた。

「ここが、いっくんのおうちなの?」
「そうよ。パパとママとまきくんといっしょに住むのよ」
「しゅごいねぇ。でも……ママぁ……いっくんのあたらしいおうち……もえたりしない? たいせつなものきえちゃうのいや……」

 いっくんの質問に、胸が切なくなった。

 小さないっくんが火事を目撃したショックは簡単には癒えない。

 それに、最近いっくんがどことなく元気がないような気がして、気がかりだ。

 でもいっくんは何を聞いても「だいじょうぶだよ。いっくんげんきだよ。とってもげんき」と答えるだけだ。

 まるで遠い昔の僕のように。

「いっくん、遠慮しなくていいんだよ。僕には話してごらん」
「……でもぉ……だめ、だめ」
「いっくん……」

 どうしたらいっくんの気持ちを持ち上げられるのか、上手く思いつかない。

 どうしたら……

「瑞樹、何か悩みでもあるのか、浮かない顔だが」
「あ……あの、宗吾さん……いっくんのことですが、実は最近少し元気がない気がして」
「やっぱり、君もそう思うか。俺も気になっていたんだ」
「はい、最初はママの傍にずっといれると喜んでいましたが、最近はどうも」
「うーむ。いっくんは日中は何をしているんだ? 芽生が小学校から帰って来てからは楽しく遊んでいるようだが」
「槙くんと一緒に家にいることが多いようですが……あの、もしかして……保育園に戻りたいのでは? お友達と遊びたいのかも」
「なるほど。それは一理あるな。よし、ちょっと当たってみるか。保育園は空きがないかもしれないが、幼稚園で一時的に預かってくれる所があるかも」

 宗吾さんと話すと、道が開けていく。
 
 一人で悶々と考えても埒が明かないことでも、解決できそうだ。

 こういう時、僕はもう一人ではないと感じられる。

「ちょっと調べてみるよ」
「是非お願いします」
「あのさ、君に頼られてやる気が出た。キスしてくれたらもっと出る」
「くすっ、はい、そうくん」

 チュッと頬にキスをすると、後頭部に手を回され、深いキスをされた。


****

 瑞樹と悩みを話しあって、二人で解決していくのが嬉しい。

 俺は頼られるのが大好きなので、やる気アップだ。

 区役所に問い合わせてアドバイスをしてもらい、紹介された保育園や幼稚園に電話をして状況や希望を伝えると、なんと芽生が通っていた幼稚園が一時的に保育してくれることになった。

 更に良いタイミングで兄さんから電話があった。

「宗吾、あの子は元気にしているか」
「あの子とは?」
 
 わざと聞くと兄さんは照れ臭そうに答えた。

「瑞樹に似た天使だよ」
「はは、いっくんですね」
「あの子に私も何か買ってやりたいが、差し出がましいかな?」
「そんなことないです。そうだ、ちょうど今すぐ必要なものがあって」
「なんだ。それは」
「幼稚園の通園バッグです!」 
「通えるのか」
「はい。手配できました」
「よし、早速、明日美智と一緒に買いに行ってくるよ」

 ウキウキとした兄の声。
 
 こんな声を聞けるとは、子供は存在自体が皆の宝物なのだと思うよ。

 
 

感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。