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小学生編
冬から春へ 73
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「パパ、おにもつ、おもそう。いっくん、もってあげるよ?」
背負ったリュックには瓶詰めジャムがゴロゴロ入っていた。
これは瑞樹兄さんへのお土産の定番で、いつも美味しいと喜んでくれるので、新幹線に乗る前に兄さんたちと宗吾さんのご実家の分を買い込んだ。
「大丈夫だよ。パパは力持ちだから」
「わぁ、やっぱり、いっくんのパパはかっこいいなぁ」
いっくんがキラキラ目を輝かせ、オレを見上げた。
やっと生身のいっくんに会えた。
これはもう夢じゃない。
しみじみと喜びを噛みしめた。
「いっくん、幼稚園はどうだった?」
「えっとね、あのね、さいしょはちょっとドキドキしたけど、がんばったよ」
「そうか、いっくん、えらかったな」
小さなコミュニティで育ったいっくんにとって、都会の幼稚園にいきなり飛び込むのは、嬉しい反面、不安も大きかっただろう。
この小さな身体で頑張ったと思うと、思いっきり褒めてあげたくなった。
いっくんの頭を撫でると、いっくんがオレの手にそっと触れてきた。
「ん? どうした?」
「パパのおててはおおきくて、かっこいいなぁ。ねっ、ママぁ」
「うん! 潤くんはカッコいいわ」
「朝から照れるよ」
「本当よ。久しぶりに潤くんといっくんが仲良く手を繋いで歩く光景を見られて、嬉しい」
「オレも、嬉しいよ。ところで道はこっちでいいのか」
「えっと」
3人で宗吾さんのご実家に挨拶に伺った。
槙を預かってくれた上に、赤ちゃんグッズを沢山提供してくれたそうだ。
宗吾さんもそうだが、本当に心の広い家族だな。
「ここだ」
「うん」
畏まって挨拶するのに不慣れなオレは、少し緊張してきた。
だから門を潜る前に、深呼吸した。
すると垣根の向こうに、よく手入れされた庭が見えた。
へぇ、風情と安らぎを感じる和風庭園だ。
何故か兄さんの優しい気配を感じた。
やがて春を迎えたら、ここは、きっと明るい色彩になるな。
「あら、どなた?」
縁側に出てきた高齢の女性と目が合ったので、背筋をピンと伸ばした。
「あら、菫さんだったのね。えっと……お隣は旦那さま?」
「はい、主人が迎えに来てくれたので、ご挨拶に伺いました」
「まぁ、わざわざありがとう」
菫はすっかり宗吾さんのお母さんと打ち解けていた。その様子に、オレがいない間、宗吾さんと兄さんだけでなく、宗吾さんのご実家にも沢山お世話になったのだと強く感じた。
「葉山潤です。ようやく軽井沢の家が整ったので、家族を迎えにきました」
「まぁ、あなたが瑞樹くんの弟さんなのね」
「はい、菫と息子たちによくして下さってありがとうございます。大変お世話になりました」
「さすが、いっくんのお父さんね。礼儀正しくてカッコいいわね」
「おばあちゃん、いっくんね、パパがだいしゅきなの。じまんのパパなんだ」「可愛いことを言うのねぇ」
いっくんが間に入ってくれると、一気に場が和む。
全力でオレをパパだと慕ってくれるいっくんの言葉は、心に響く。
いっくんの父親になれてよかった。
いっくんのおかげで、どんどん自分に自信が持てるようになった。
「あの、これはお世話になったお礼です」
「まぁ、うれしいわ。ブルーベリージャムは息子が大好きなのよ。重たくて大変だったでしょう」
「いえ、オレは力だけが取り柄ですから」
「あら、力だけじゃないわ。あなたは家族に愛されるお父さんよ」
「え……」
「振り返ってご覧なさい。奥さんと子供達があなたを見つめる眼差しを見て」
「あ……」
信頼されている。
任されている。
愛されている。
それを肌で感じて、泣きたくなった。
ずっと離れていた家族。
もう離れたくない。
「はい、オレの最愛の家族です」
「ふふ、私の周りはみんな堂々と愛を語るから、かっこいいわ」
****
「せんせい、いっくん、すこししかいられなかったけど、とってもたのちかったよ」
「先生もよ。いっくん、よく頑張ったわね」
「えへへ、いっくんもがんばったけど、みんなもがんばってくれたから、いっくん、なかよくなれたんだ。いっくんだけだったら、たのしくなかったもん。だからみんなに『ありがとう』って、いいたいの」
まぁ、なんて深い言葉なのかしら。
樹くんは、火事で家を失い東京に一時的に避難してきた子供だった。
一ヶ月程の短い通園だったにも関わらず、この子は大きなことを学んだのね。
お互いに歩み寄ることの大切さを知ったのね。
「もう今日帰ってしまうのね」
「うん、でもこのようちえんのこと、いっくんたいせつにおぼえているよ」
「ありがとう。先生も樹くんのことを忘れないわ」
「せんせ、だいすき、ありがとう」
「まぁ」
愛くるしさを振りまいて、いっくんはクラスのみんなに大きな声で「ありがとう。いっしょにあそんでくれてありがとう!」お礼を言ったの。
みんなも頑張りやさんのいっくんが大好き。
「えーかえっちゃうの? もっとあそびたかったよ」
「さみしいよ」
「いかないで」
そんな寂しい声が届くと、いっくんは笑顔で答えた。
「だいじょうぶ。いっくん、またあそびにくるよ。またあえるよ」
希望に満ちた前向きな言葉につられて、みんな笑顔になった。
そうね、そうだわ。
願うことから始めましょう。
未来はあなたたちのものだから。
背負ったリュックには瓶詰めジャムがゴロゴロ入っていた。
これは瑞樹兄さんへのお土産の定番で、いつも美味しいと喜んでくれるので、新幹線に乗る前に兄さんたちと宗吾さんのご実家の分を買い込んだ。
「大丈夫だよ。パパは力持ちだから」
「わぁ、やっぱり、いっくんのパパはかっこいいなぁ」
いっくんがキラキラ目を輝かせ、オレを見上げた。
やっと生身のいっくんに会えた。
これはもう夢じゃない。
しみじみと喜びを噛みしめた。
「いっくん、幼稚園はどうだった?」
「えっとね、あのね、さいしょはちょっとドキドキしたけど、がんばったよ」
「そうか、いっくん、えらかったな」
小さなコミュニティで育ったいっくんにとって、都会の幼稚園にいきなり飛び込むのは、嬉しい反面、不安も大きかっただろう。
この小さな身体で頑張ったと思うと、思いっきり褒めてあげたくなった。
いっくんの頭を撫でると、いっくんがオレの手にそっと触れてきた。
「ん? どうした?」
「パパのおててはおおきくて、かっこいいなぁ。ねっ、ママぁ」
「うん! 潤くんはカッコいいわ」
「朝から照れるよ」
「本当よ。久しぶりに潤くんといっくんが仲良く手を繋いで歩く光景を見られて、嬉しい」
「オレも、嬉しいよ。ところで道はこっちでいいのか」
「えっと」
3人で宗吾さんのご実家に挨拶に伺った。
槙を預かってくれた上に、赤ちゃんグッズを沢山提供してくれたそうだ。
宗吾さんもそうだが、本当に心の広い家族だな。
「ここだ」
「うん」
畏まって挨拶するのに不慣れなオレは、少し緊張してきた。
だから門を潜る前に、深呼吸した。
すると垣根の向こうに、よく手入れされた庭が見えた。
へぇ、風情と安らぎを感じる和風庭園だ。
何故か兄さんの優しい気配を感じた。
やがて春を迎えたら、ここは、きっと明るい色彩になるな。
「あら、どなた?」
縁側に出てきた高齢の女性と目が合ったので、背筋をピンと伸ばした。
「あら、菫さんだったのね。えっと……お隣は旦那さま?」
「はい、主人が迎えに来てくれたので、ご挨拶に伺いました」
「まぁ、わざわざありがとう」
菫はすっかり宗吾さんのお母さんと打ち解けていた。その様子に、オレがいない間、宗吾さんと兄さんだけでなく、宗吾さんのご実家にも沢山お世話になったのだと強く感じた。
「葉山潤です。ようやく軽井沢の家が整ったので、家族を迎えにきました」
「まぁ、あなたが瑞樹くんの弟さんなのね」
「はい、菫と息子たちによくして下さってありがとうございます。大変お世話になりました」
「さすが、いっくんのお父さんね。礼儀正しくてカッコいいわね」
「おばあちゃん、いっくんね、パパがだいしゅきなの。じまんのパパなんだ」「可愛いことを言うのねぇ」
いっくんが間に入ってくれると、一気に場が和む。
全力でオレをパパだと慕ってくれるいっくんの言葉は、心に響く。
いっくんの父親になれてよかった。
いっくんのおかげで、どんどん自分に自信が持てるようになった。
「あの、これはお世話になったお礼です」
「まぁ、うれしいわ。ブルーベリージャムは息子が大好きなのよ。重たくて大変だったでしょう」
「いえ、オレは力だけが取り柄ですから」
「あら、力だけじゃないわ。あなたは家族に愛されるお父さんよ」
「え……」
「振り返ってご覧なさい。奥さんと子供達があなたを見つめる眼差しを見て」
「あ……」
信頼されている。
任されている。
愛されている。
それを肌で感じて、泣きたくなった。
ずっと離れていた家族。
もう離れたくない。
「はい、オレの最愛の家族です」
「ふふ、私の周りはみんな堂々と愛を語るから、かっこいいわ」
****
「せんせい、いっくん、すこししかいられなかったけど、とってもたのちかったよ」
「先生もよ。いっくん、よく頑張ったわね」
「えへへ、いっくんもがんばったけど、みんなもがんばってくれたから、いっくん、なかよくなれたんだ。いっくんだけだったら、たのしくなかったもん。だからみんなに『ありがとう』って、いいたいの」
まぁ、なんて深い言葉なのかしら。
樹くんは、火事で家を失い東京に一時的に避難してきた子供だった。
一ヶ月程の短い通園だったにも関わらず、この子は大きなことを学んだのね。
お互いに歩み寄ることの大切さを知ったのね。
「もう今日帰ってしまうのね」
「うん、でもこのようちえんのこと、いっくんたいせつにおぼえているよ」
「ありがとう。先生も樹くんのことを忘れないわ」
「せんせ、だいすき、ありがとう」
「まぁ」
愛くるしさを振りまいて、いっくんはクラスのみんなに大きな声で「ありがとう。いっしょにあそんでくれてありがとう!」お礼を言ったの。
みんなも頑張りやさんのいっくんが大好き。
「えーかえっちゃうの? もっとあそびたかったよ」
「さみしいよ」
「いかないで」
そんな寂しい声が届くと、いっくんは笑顔で答えた。
「だいじょうぶ。いっくん、またあそびにくるよ。またあえるよ」
希望に満ちた前向きな言葉につられて、みんな笑顔になった。
そうね、そうだわ。
願うことから始めましょう。
未来はあなたたちのものだから。
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