幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

三月、和みの時間 3

「瑞樹、甘酒は好きか」
「はい」
「そうか、そうか、ほら飲んでみろ。甘酒は身体が温まるぞ」

 憲吾さんがひなまつり会の賑わいの中、笑顔で湯呑みを差し出してくる。

 だから僕はすすめられるままに、何杯も甘酒を飲んでしまった。

 甘く優しい味わいが口の中に広り、日本酒とは違って殆どアルコールはないはずなのに、ふわりと心がほどけるような心地になってしまった。

「どうだ?」
「とてもおいしいです。クリーミーで重厚な口当たりの中に、ふわっと素朴な玄米の香ばしさを感じます」
「そうかそうか、相変わらず瑞樹は優しいな。美味しさを丁寧に具体的に伝えてくれて嬉しいぞ」

 細やかな感想を漏らすと、憲吾さんは満足そうに頷いた。

「さぁ、もう一杯飲みなさい」
「あっ、はい」
 
 そこに宗吾さんが割り込んでくる。

「兄さんストップ! 瑞樹はリラックスした環境で飲むと、コテッと寝ちまうんだ」
「え? そうなのか、それは悪かったな」
「あーあ、もう遅いよ。瑞樹ぃ~ 大丈夫か。おーい、少し横になれ」
「……ん……眠い……」

 宗吾さんの言う通りだ。

 僕は安心できる環境でお酒を飲むと、無性に眠たくなる。

 猛烈な睡魔に襲われ、瞼が重たくなっていく。

 このまま、少しだけ眠りたい。




「えっ……」

 目を覚ますと、ひな人形が飾られた和室の布団の上に寝かされていた。

 ほんのりと甘酒の余韻が残る体は、まだ心地よくふわふわしていた。

 夢と現実の区別がつかない感覚のまま、そっと目を開くと、柔らかな足音が近づいてくるのが分かった。

「瑞樹、起きたの? 大丈夫? お水を持って来たわ」

 穏やかな声に視線を向けると、宗吾さんのお母さんが立っていた。

「はい、もう大丈夫です。すみません」
「まぁ、謝っては駄目よ。調子に乗って飲ませた憲吾を叱っておいたわ」
「え? 叱るだなんて」
「くすっ、憲吾は叱られても、とっても満足そうにしていたわ。今日は楽しい日だったわね」
「はい、とても」

 僕は布団から身体を起こし、差し出された冷たい水を飲み干した。

「お母さん、ありがとうございます」
「そうだわ、これをあなたに」

 顔を上げると、視界にピンク色のものが視界に映り込んできた。

「?」

 目をこらすと、お母さんの手には桃の花が握られていた。

「桃の花……」
「これを持って帰るといいわ。桃の花は厄を祓い、幸せを招く花だから」

 手渡された花は、小さな蕾をつけて可憐な姿だった。

 僕は戸惑いながら、その温もりのある贈り物を見つめた。

「僕がもらってもいいのですか」
「ええ、あなたも大事な子供ですもの」

 その言葉に、僕の心の奥にパッと温かい灯がともった。

 ――あなたも大事な子供よ。

 慈悲深い眼差しと、優しい言葉が、今日も胸に染みる。

 宗吾さんのお母さんは、僕のもう一人のお母さんだ。

 あの日から、今日まで、そしてこの先もずっとそう思っています。

「嬉しいです。僕の家にも春を呼びます」
「そうよ。瑞樹には春を迎える度に、もっともっと幸せになって欲しいのよ」
「お母さん……」

 感極まって桃の枝を抱きしめると、遠い記憶の中にいる母も微笑んでいるような気がした。

「ありがとうございます。お母さん――」

 今日も無償の愛を受け取った。

 僕に出来ることは、幸せになること――




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