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小学生編
春色旅行 17
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山の上から見下ろす長崎の街は、まるで宝石をちりばめたようだった。
湾を囲むように灯る無数の明かりが、静かに瞬いている。
「わぁ、お兄ちゃん、すごいね」
芽生くんが歓声を上げ、僕の手をぎゅっと握って目を輝かせている。
好奇心旺盛な君が、僕は大好きだ。
「うん、すごいね」
僕も一緒に息をのんだ。
目の前に広がる眩い光景に、思わず言葉を忘れてしまう。
すると後ろからそっと肩に手が置かれた。
宗吾さんの温もりを背後に感じ、ほっと一息ついた。
「すごいな。やっぱり『世界三大夜景』と言われるだけあるよな」
「はい、写真で見たことはありましたが、実際に見るのは全然違いますね」
「あぁ、今日は空気が澄んでいるからくっきり見えるな」
風が少し冷たく、それが逆に心地いい。
「おい、芽生、迷子になるなよ」
「うん、でももっとよく見たいよ」
展望台は人込みで、芽生くんの背丈では柵があってよく見えないのが気がかりだ。すると、宗吾さんがさっと抱っこしてくれた。
「芽生、これならどうだ?」
もう抱っこは嫌がるかと案じていたが、芽生くんは恥ずかしがることもなく、嬉しそうに「よく見えるよ。わぁ、あの船、光ってる!」と明るい声をあげた。
旅はいいね。
人目も気にすることなく、心から感動を分け合えて。
旅の終わりに、この光景を見ることができてよかった。
「さてと、そろそろ戻るか」
「はい」
スロープカー乗り場へと続く細道は、足元が暗かった。
足元を照らす灯りは少ないので、注意が必要だ。
「芽生くん、暗いから気を付けて」
すると僕たちの少し前を、中年のご夫婦が歩いているのに気づいた。
奥さんの方は少し足が不自由なようで、杖をついている。暗がりに目が慣れず、足元を手探りするように進む姿に、僕は眉をひそめた。
なんだか心配だな。
大丈夫だろうか。
声をかけるべきか、否か。
そんなふうに逡巡していると、僕の背中にそっと温もりが触れた。
「瑞樹」
隣にいた宗吾さんがスマホのライトをつけて差し出してくれた。
画面からこぼれる灯りが、僕の顔をふわりと照らす。
「これで誘導してあげたらどうだ?」
思いやりのある優しい声だった。
僕は「そのまま宗吾さんがした方が自然では?」と心の中で思ったが、宗吾さんは微笑んだまま、僕の背中をそっと押した。
「瑞樹にも出来るさ!」
その言葉が、僕の胸にじんわり沁みる。
小さな勇気とともに、僕は一歩踏み出した。
スマホの灯りを頼りに、僕はそっとご夫婦の元に歩み寄った。
「あの……こんばんは。ここは暗いので、足元を照らしますね」
そう声をかけると、ご夫婦は驚いたように振り返ったが、すぐに微笑みを返してくれた。
「ありがとうございます。助かります」
奥さんは胸元に何かを抱きしめていた。
なんだろう?
僕の視線が、自然とその手元に向かう。
そこには小さな写真立てがあって、笑顔の青年が写っていた。
奥さんが静かに語り始めた。
「この子、私たちの息子なんです」
暗闇の中、スマホの灯りに照らされる奥さんの目元は、少しだけ潤んでいた。
「もう、ずいぶん前に事故で亡くなってしまって……もしも生きていたら、ちょうどあなたくらいだわ。今日はあの子が好きだった長崎の夜景を見せてあげようと連れてきたんですよ」
その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。
無言でその写真に目を落とすと、青年の爽やかな笑顔と何かが重なった。
僕も両親と弟を亡くしているが、自分より先に我が子を見送った人の悲しみは……なんて、なんて辛く深いのだろう。
宗吾さんも芽生くんも、その事実を静かに受け止めていた。
五月の風がそっと吹き抜ける中、僕はそっと口を開いた。
「きっと息子さんは、お二人をいつも見守っていると思います。お二人の笑顔が大好きだと……」
奥さんは小さく微笑み、それから少しだけ涙をこぼした。
「ありがとう。息子と同年代の方にそう言ってもらえて、なんだか元気が出ました」
あぁ、僕ももっと強くなりたい。
天国にいる両親が、安心して僕を見守れるように。
この世界で出逢えた人たちの優しさに応えていけるように。
静かに強く、胸の奥で誓った。
夜の長崎で、僕がこのご夫婦と出会えたのは、天国の両親からの贈り物なのか。
運命的な邂逅だった。
そして、悲しみの先にあるのは何かを、考える機会をもらった。
悲しみの先にあるのは――
それは『優しさ』
大切な人を失った経験があるからこそ、人の痛みに寄り添える。本当の悲しみを知る人は、誰かの涙を見過ごせない。
それは『絆』
悲しみの中で出会った誰かと心を寄せ合い、支え合うことで、新しい絆が生まれていく。
それは『強さ』
絶望の果て――
そこから前へ進むことで、しなやかな強さを身につけていく。
悲しみの先には祈りにも似た『静かな光』が瞬いている。
悲しみは深い夜のようだが、夜明けは必ずやって来る。
静かに、確かな光が差してくる瞬間はやってくる。
「どうかお幸せに」
口には出さずとも、別れ際に僕たちは同じことを願うだろう。
湾を囲むように灯る無数の明かりが、静かに瞬いている。
「わぁ、お兄ちゃん、すごいね」
芽生くんが歓声を上げ、僕の手をぎゅっと握って目を輝かせている。
好奇心旺盛な君が、僕は大好きだ。
「うん、すごいね」
僕も一緒に息をのんだ。
目の前に広がる眩い光景に、思わず言葉を忘れてしまう。
すると後ろからそっと肩に手が置かれた。
宗吾さんの温もりを背後に感じ、ほっと一息ついた。
「すごいな。やっぱり『世界三大夜景』と言われるだけあるよな」
「はい、写真で見たことはありましたが、実際に見るのは全然違いますね」
「あぁ、今日は空気が澄んでいるからくっきり見えるな」
風が少し冷たく、それが逆に心地いい。
「おい、芽生、迷子になるなよ」
「うん、でももっとよく見たいよ」
展望台は人込みで、芽生くんの背丈では柵があってよく見えないのが気がかりだ。すると、宗吾さんがさっと抱っこしてくれた。
「芽生、これならどうだ?」
もう抱っこは嫌がるかと案じていたが、芽生くんは恥ずかしがることもなく、嬉しそうに「よく見えるよ。わぁ、あの船、光ってる!」と明るい声をあげた。
旅はいいね。
人目も気にすることなく、心から感動を分け合えて。
旅の終わりに、この光景を見ることができてよかった。
「さてと、そろそろ戻るか」
「はい」
スロープカー乗り場へと続く細道は、足元が暗かった。
足元を照らす灯りは少ないので、注意が必要だ。
「芽生くん、暗いから気を付けて」
すると僕たちの少し前を、中年のご夫婦が歩いているのに気づいた。
奥さんの方は少し足が不自由なようで、杖をついている。暗がりに目が慣れず、足元を手探りするように進む姿に、僕は眉をひそめた。
なんだか心配だな。
大丈夫だろうか。
声をかけるべきか、否か。
そんなふうに逡巡していると、僕の背中にそっと温もりが触れた。
「瑞樹」
隣にいた宗吾さんがスマホのライトをつけて差し出してくれた。
画面からこぼれる灯りが、僕の顔をふわりと照らす。
「これで誘導してあげたらどうだ?」
思いやりのある優しい声だった。
僕は「そのまま宗吾さんがした方が自然では?」と心の中で思ったが、宗吾さんは微笑んだまま、僕の背中をそっと押した。
「瑞樹にも出来るさ!」
その言葉が、僕の胸にじんわり沁みる。
小さな勇気とともに、僕は一歩踏み出した。
スマホの灯りを頼りに、僕はそっとご夫婦の元に歩み寄った。
「あの……こんばんは。ここは暗いので、足元を照らしますね」
そう声をかけると、ご夫婦は驚いたように振り返ったが、すぐに微笑みを返してくれた。
「ありがとうございます。助かります」
奥さんは胸元に何かを抱きしめていた。
なんだろう?
僕の視線が、自然とその手元に向かう。
そこには小さな写真立てがあって、笑顔の青年が写っていた。
奥さんが静かに語り始めた。
「この子、私たちの息子なんです」
暗闇の中、スマホの灯りに照らされる奥さんの目元は、少しだけ潤んでいた。
「もう、ずいぶん前に事故で亡くなってしまって……もしも生きていたら、ちょうどあなたくらいだわ。今日はあの子が好きだった長崎の夜景を見せてあげようと連れてきたんですよ」
その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。
無言でその写真に目を落とすと、青年の爽やかな笑顔と何かが重なった。
僕も両親と弟を亡くしているが、自分より先に我が子を見送った人の悲しみは……なんて、なんて辛く深いのだろう。
宗吾さんも芽生くんも、その事実を静かに受け止めていた。
五月の風がそっと吹き抜ける中、僕はそっと口を開いた。
「きっと息子さんは、お二人をいつも見守っていると思います。お二人の笑顔が大好きだと……」
奥さんは小さく微笑み、それから少しだけ涙をこぼした。
「ありがとう。息子と同年代の方にそう言ってもらえて、なんだか元気が出ました」
あぁ、僕ももっと強くなりたい。
天国にいる両親が、安心して僕を見守れるように。
この世界で出逢えた人たちの優しさに応えていけるように。
静かに強く、胸の奥で誓った。
夜の長崎で、僕がこのご夫婦と出会えたのは、天国の両親からの贈り物なのか。
運命的な邂逅だった。
そして、悲しみの先にあるのは何かを、考える機会をもらった。
悲しみの先にあるのは――
それは『優しさ』
大切な人を失った経験があるからこそ、人の痛みに寄り添える。本当の悲しみを知る人は、誰かの涙を見過ごせない。
それは『絆』
悲しみの中で出会った誰かと心を寄せ合い、支え合うことで、新しい絆が生まれていく。
それは『強さ』
絶望の果て――
そこから前へ進むことで、しなやかな強さを身につけていく。
悲しみの先には祈りにも似た『静かな光』が瞬いている。
悲しみは深い夜のようだが、夜明けは必ずやって来る。
静かに、確かな光が差してくる瞬間はやってくる。
「どうかお幸せに」
口には出さずとも、別れ際に僕たちは同じことを願うだろう。
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