18 / 171
第一章
はだける 1
しおりを挟む
「馬鹿、こんな所で……もうやめろ」
「まだ出来そうだな、夕凪、もっと気持ち良くなれよ」
「もう……いや……だ。ここじゃ嫌だ」
俺のものをしゃぶり続ける信二郎の頭を掴んで必死に抗う。腰がぶるぶると震えて、もう立っていられないんだ。
「しょうがないな。じゃあ私の家に来るか」
「お前の? 」
「あぁ」
行っては駄目だ。もっと酷いことになる。そう危険信号が躰中で鳴っているのにコクリと頷いている自分に驚いてしまう。
羽織った着物で顔を隠した俺は、信二郎に手を引かれ連れて行かれる。
俺はこんなにも意思の弱い男だったのだろうか。
こんなにも簡単に快楽に溺れてしまう男だったのだろうか。
もう何も分からない。考えられない。
ニャアー
後ろからさっき信二郎があやしていた黒猫が付いてくる。
街灯を浴び、二人の影が路地裏に長く伸びていく。
その影はそっと寄り添っていた。
****
「入れよ」
「ここがお前の家?」
「あぁ私のといっても間借りしている町家だがな」
「そうか……信二郎には家族はいないのか」
「ははっ気になるか? 今は独り暮らしだから遠慮するな」
「今は?」
そこは祇園から松原橋を渡り入り組んだ路地をいくつか通り抜けた先の木屋町通沿いの町家だった。素焼きの木頭杉で囲まれた路地の奥の家は、まるで誰にも知られることのない二人だけの秘密基地のようだ。
「私の自慢の家だ。案内してやるよ」
「あっああ……」
灯りをつければ橙色の光で部屋が柔らかく満たされていき、俺の緊張していた心も溶けだしていく。
「さぁ」
信二郎に手を引かれ部屋にあがる。
「一階には台所に檜風呂、洗面、トイレ、そして居間がある。居間に面してなかなかいい感じの坪庭があってな」
「へぇ」
「ほら見えるか」
信二郎が指さす先には、よく手入れされた小さな庭が見える。狭い庭なのに一本の桜の樹が植えてあり、まさに今が盛りとばかりに咲き誇っていた。見上げれば月夜に満開の桜が厳かに立ちはだかり、それがぞくっとするほど美しい。
「美しいな。こういう場所は落ち着く」
「あぁ夕凪によく似合うよ」
振り返ると部屋の奥に階段が見える。
「ニ階もあるのか」
「あぁ絵を描く部屋と兼用の私の寝室がある」
「信二郎の寝室か……」
そう口に出すと恥ずかしさが込み上げる。
「夕凪、今日はこのまま泊まっていけよ」
「なっ! そんなこと出来ない」
「なんでだ? 女子供じゃあるまいし外泊位で目くじら立てるなよ。随分と身持ちが固いんだな」
「そっそれはそうだが」
「もしかして何か期待してるのか」
「してないっ!」
そう言いながらも信二郎の家に今いるっということに、信二郎の匂いに包まれた空間に二人きりということに 心臓が爆発しそうだ。
俺は今日ここに何をしに来たのだろう。
最初の目的は、もう遙か彼方に行ってしまった。
「さぁ来いよ」
信二郎が逞しい手を差し出す。その手を取れば、またあの官能の世界に連れて行ってくれるのか……
俺の手は自然に動いていた。
「まだ出来そうだな、夕凪、もっと気持ち良くなれよ」
「もう……いや……だ。ここじゃ嫌だ」
俺のものをしゃぶり続ける信二郎の頭を掴んで必死に抗う。腰がぶるぶると震えて、もう立っていられないんだ。
「しょうがないな。じゃあ私の家に来るか」
「お前の? 」
「あぁ」
行っては駄目だ。もっと酷いことになる。そう危険信号が躰中で鳴っているのにコクリと頷いている自分に驚いてしまう。
羽織った着物で顔を隠した俺は、信二郎に手を引かれ連れて行かれる。
俺はこんなにも意思の弱い男だったのだろうか。
こんなにも簡単に快楽に溺れてしまう男だったのだろうか。
もう何も分からない。考えられない。
ニャアー
後ろからさっき信二郎があやしていた黒猫が付いてくる。
街灯を浴び、二人の影が路地裏に長く伸びていく。
その影はそっと寄り添っていた。
****
「入れよ」
「ここがお前の家?」
「あぁ私のといっても間借りしている町家だがな」
「そうか……信二郎には家族はいないのか」
「ははっ気になるか? 今は独り暮らしだから遠慮するな」
「今は?」
そこは祇園から松原橋を渡り入り組んだ路地をいくつか通り抜けた先の木屋町通沿いの町家だった。素焼きの木頭杉で囲まれた路地の奥の家は、まるで誰にも知られることのない二人だけの秘密基地のようだ。
「私の自慢の家だ。案内してやるよ」
「あっああ……」
灯りをつければ橙色の光で部屋が柔らかく満たされていき、俺の緊張していた心も溶けだしていく。
「さぁ」
信二郎に手を引かれ部屋にあがる。
「一階には台所に檜風呂、洗面、トイレ、そして居間がある。居間に面してなかなかいい感じの坪庭があってな」
「へぇ」
「ほら見えるか」
信二郎が指さす先には、よく手入れされた小さな庭が見える。狭い庭なのに一本の桜の樹が植えてあり、まさに今が盛りとばかりに咲き誇っていた。見上げれば月夜に満開の桜が厳かに立ちはだかり、それがぞくっとするほど美しい。
「美しいな。こういう場所は落ち着く」
「あぁ夕凪によく似合うよ」
振り返ると部屋の奥に階段が見える。
「ニ階もあるのか」
「あぁ絵を描く部屋と兼用の私の寝室がある」
「信二郎の寝室か……」
そう口に出すと恥ずかしさが込み上げる。
「夕凪、今日はこのまま泊まっていけよ」
「なっ! そんなこと出来ない」
「なんでだ? 女子供じゃあるまいし外泊位で目くじら立てるなよ。随分と身持ちが固いんだな」
「そっそれはそうだが」
「もしかして何か期待してるのか」
「してないっ!」
そう言いながらも信二郎の家に今いるっということに、信二郎の匂いに包まれた空間に二人きりということに 心臓が爆発しそうだ。
俺は今日ここに何をしに来たのだろう。
最初の目的は、もう遙か彼方に行ってしまった。
「さぁ来いよ」
信二郎が逞しい手を差し出す。その手を取れば、またあの官能の世界に連れて行ってくれるのか……
俺の手は自然に動いていた。
10
あなたにおすすめの小説
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
あなたの家族にしてください
秋月真鳥
BL
ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。
情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。
闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。
そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。
サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。
対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。
それなのに、なぜ。
番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。
一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。
ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。
すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。
※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる