忍ぶれど… 兄は俺の光――息が届くほど近くにいるのに、けっして触れてはならぬ想い人

志生帆 海

文字の大きさ
63 / 236
忍ぶれど……

別離の時 4

しおりを挟む
 どの位の時間、僕たちは見つめ合っていたのだろうか。

 僕の弟、流に布団に薙ぎ倒されて、流の涙を浴びた。

 苦し気な表情がやがて憎しみに変わっていくのを茫然と見上げていた。

 もしかしたら、僕は今度こそ流を失うかもしれない。

 流の僕への喪失感が、とうとう限界を超えてしまったのか。

 流の涙はとても冷たかった。

 ずっと熱い涙だと思っていたのに。

「翠さん、どうしたの? 今すごい物音が……」

 近づいてくる足音は、彩乃さんのものだ。

 僕は我に返り、流をドンっと押し退けた。

 流の手にはもう力が入ってなかったので、いとも簡単に解けてしまった。

 そのことにちくりと胸が痛んだ。

 違和感も感じた。


「そこにいるの?」

 彩乃さんは、流の部屋の前に既に立っているようだった。
 
 僕は慌てて部屋から飛び出した。

「あ……ごめん。弟が酔っぱらって布団に倒れこんでしまったんだ」
「あぁ、それで下までドスンと響いたのね。弟くんは大柄で大変だったでしょう。で……もう寝ちゃったの?」

 振り返ると、流はそのまま崩れ落ちるように布団に仰向けになっていた。

「……そうみたいだ」

 その目には涙の筋が、ちらりと見えた。

 流に触られた胸元がチリリと焦げるような気がした。

 あぁ、どうしよう?

 僕の心は……僕は……どこに行けばいい?

 湧きあがろうとする想いを必死に捻じ込んだ。

 ……
 まだ駄目だ。
 自分から求めたりしたら駄目だ。
 また不幸が襲ってくる。
 また離れ離れになるぞ。
 二度と会えなくなる。
 ……

 いつも僕を襲うこの警告にも似た声が、また降ってくる。

 この声に、僕はいつも抑制されてしまう。

 どうして――

****

 夜が更けようとしている。

 彩乃の希望通り、僕たちは、僕の部屋に布団を並べて眠ることになった。

 母が嬉しそうに二つの布団をぴったりくっつけて、去って行った。

「ゆっくり過ごしてね」
「お義母さま、ありがとうございます」

「わぁ~ ここが翠さんの部屋なのね。ふーん想像通りきちんとしているのね」
「……そう?」

 気が気でなかった。

 だって……隣には流が眠っているから。

 さっきもう一度覗いたら、あのまま熟睡しているようだったが。

 彩乃さんが布団の上に僕を誘い、改まった様子で告げた。

「ねぇ……つわりも収まったし、先生に聞いてきたの」
「何を?」
「まぁ、翠さんって相変わらず鈍感ね。セックスしても問題ないんですって! 妊娠中でも体調、妊娠経過が良く、2人が共に望むのであればね」
「……そう」
「だから、今日シテ」
「え……だって隣には弟もいるし、無理だ」
「そんなことないわ。弟くんは酔いつぶれて眠っているでしょう。私も声控えるから、翠さんの部屋でなんて、滅多にないシチュエーションに火がついちゃったみたい。ねぇ早くシテよ。共に望んでいるんでしょう?」

 強引に膨よかな柔らかい胸に、手を持っていかれる。

 それでも戸惑っていると、注意するように言われてしまった。

「つわりで苦労したのは私なのよ。だから言うこと聞いて」

 相変わらず有無を言わさないセックスだ。

 僕の気持ちはどうでもいいのか。

 だが彩乃さんがこうなった時は、言うことを聞かないと収まらないのを知っている。

 無駄な争いはしたくない。

 傷つけるのも傷つけられるのも流だけでいい。

「あっ……んっ」

 彩乃さんの手に誘われるように、布団の上に押し倒す。

 闇夜に紛れて、妊娠中の妻を抱く。

 流に見つからないように、息を潜めて。

 僕の男の部分が、感情を置き去りに、走らされていく。

 求められるがままに、妻をこの手で愛撫する。

 この手で……

 幼い流の手を……

 なぜか思い出す。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

処理中です...