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色は匂へど……
波の綾 12
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流の回復は、とても早かった。
僕だったら1週間は寝込むような高熱だったのに、流石だね。
そもそも流と僕とでは、同じ親から生まれたのに何もかも違う。
髪の色も瞳の色も、肌の色も背丈も、筋肉の付き方も。
幼い事から今に至るまで、丈と流はどことなく似た雰囲気もあるのに、僕だけは全く違うタイプだった。
線が細く、色素の薄い茶色の瞳と髪。男にしては白い肌……鍛錬しても一向に逞しくならない身体に溜息をついたこともあるよ。
以前は流と丈が羨ましく、長兄らしく背丈だけは抜かされたくないと願ったりもしたが、今はこれで良かったと思っている。
僕とは何もかも違う姿の流だから、心の中で密かに憧れを抱いた。
憧れが叶うことのない儚い恋だと知っても、育っていくのを止められなかった。
ただ流を守りたいという一心で、何もかも捨てて月影寺を去ったのは、かつての僕。
ボロボロになって出戻ってきたのも僕だ。
長い時間をかけて、僕は……今の僕になった。
お盆最終日、全ての棚経を終え疲れ果てて帰宅した住職と僕を、流が明るい笑顔で出迎えてくれた。
「お帰りなさい!」
「おぉ、流や、すっかり元気になったようだな」
「父さん、心配をかけました」
「うむ、お前が元気でいてくれないと月影寺は回らないし、翠も元気が出ないようだ」
「そう言ってもらえて光栄です!」
「流、本当にもう大丈夫なの?」
「あぁ、すっかり元気だ」
「良かった。本当に……良かったよ」
流……
改めて思う。
僕が流を失うのが一番怖い。
だから、どうか、どうかずっと傍にいておくれ。
「さぁ、遅くなったが、我が家もお送り火をしよう」
「はい」
送り火とは、ご先祖様を現世からあの世へ送るための儀式だ。
送り火を行うことによってご先祖様の魂があの世へ戻っていかれるのだ。
炮烙《ほうらく》という素焼きの平皿にオガラを置いて燃やすと、白い煙が日が暮れた竹林にすーっと棚引いた。
遠い遠い過去にこの煙を浴びながら、竹林に隠れて必死に涙を堪えていたのは誰だろう?
ふと思う。
「流、僕たちのご先祖様は、どのような人だったのかな?」
「さぁ、会ったこともないから縁遠く感じるな」
「そうかな、そうだよね。そのはずなのに……」
苔生した大地の古びた墓碑は寂寥たる景色で、苦手だった。
あそこに立つと胸が苦しく、泣きたくなる。
「流……探し求めたものを掴めず亡くなった人の魂の行方を知っているか」
「兄さん、変なこと言うなよ。縁起でもない」
「ごめん、僕……何を言っているんだか」
「それより、兄さんの次の休みはいつだ? 一緒に由比ヶ浜に行こうぜ」
「あ、海里先生にお礼に?」
「そうだ。だから由比ヶ浜の診療所に俺と一緒に行かないか」
流からの誘いが嬉しくて、僕は溢れんばかりの笑みを零した。
「行きたい」
「やった! ついでに月下庵茶屋にも寄ろうぜ」
「うん」
「奢ってくれる?」
「いいよ。たんとお食べ」
「やった! 食べ放題だ!」
「りゅーう!」
流の食いしん坊な明るい笑顔に引っ張られて、僕も肩を揺らして笑った。
だが、その一方で夜空に消えゆく白煙に切ない気持ちを抱いた。
魂の行方か――
無念な魂は、輪廻転生を繰り返すと聞いたことがある。
僕だったら1週間は寝込むような高熱だったのに、流石だね。
そもそも流と僕とでは、同じ親から生まれたのに何もかも違う。
髪の色も瞳の色も、肌の色も背丈も、筋肉の付き方も。
幼い事から今に至るまで、丈と流はどことなく似た雰囲気もあるのに、僕だけは全く違うタイプだった。
線が細く、色素の薄い茶色の瞳と髪。男にしては白い肌……鍛錬しても一向に逞しくならない身体に溜息をついたこともあるよ。
以前は流と丈が羨ましく、長兄らしく背丈だけは抜かされたくないと願ったりもしたが、今はこれで良かったと思っている。
僕とは何もかも違う姿の流だから、心の中で密かに憧れを抱いた。
憧れが叶うことのない儚い恋だと知っても、育っていくのを止められなかった。
ただ流を守りたいという一心で、何もかも捨てて月影寺を去ったのは、かつての僕。
ボロボロになって出戻ってきたのも僕だ。
長い時間をかけて、僕は……今の僕になった。
お盆最終日、全ての棚経を終え疲れ果てて帰宅した住職と僕を、流が明るい笑顔で出迎えてくれた。
「お帰りなさい!」
「おぉ、流や、すっかり元気になったようだな」
「父さん、心配をかけました」
「うむ、お前が元気でいてくれないと月影寺は回らないし、翠も元気が出ないようだ」
「そう言ってもらえて光栄です!」
「流、本当にもう大丈夫なの?」
「あぁ、すっかり元気だ」
「良かった。本当に……良かったよ」
流……
改めて思う。
僕が流を失うのが一番怖い。
だから、どうか、どうかずっと傍にいておくれ。
「さぁ、遅くなったが、我が家もお送り火をしよう」
「はい」
送り火とは、ご先祖様を現世からあの世へ送るための儀式だ。
送り火を行うことによってご先祖様の魂があの世へ戻っていかれるのだ。
炮烙《ほうらく》という素焼きの平皿にオガラを置いて燃やすと、白い煙が日が暮れた竹林にすーっと棚引いた。
遠い遠い過去にこの煙を浴びながら、竹林に隠れて必死に涙を堪えていたのは誰だろう?
ふと思う。
「流、僕たちのご先祖様は、どのような人だったのかな?」
「さぁ、会ったこともないから縁遠く感じるな」
「そうかな、そうだよね。そのはずなのに……」
苔生した大地の古びた墓碑は寂寥たる景色で、苦手だった。
あそこに立つと胸が苦しく、泣きたくなる。
「流……探し求めたものを掴めず亡くなった人の魂の行方を知っているか」
「兄さん、変なこと言うなよ。縁起でもない」
「ごめん、僕……何を言っているんだか」
「それより、兄さんの次の休みはいつだ? 一緒に由比ヶ浜に行こうぜ」
「あ、海里先生にお礼に?」
「そうだ。だから由比ヶ浜の診療所に俺と一緒に行かないか」
流からの誘いが嬉しくて、僕は溢れんばかりの笑みを零した。
「行きたい」
「やった! ついでに月下庵茶屋にも寄ろうぜ」
「うん」
「奢ってくれる?」
「いいよ。たんとお食べ」
「やった! 食べ放題だ!」
「りゅーう!」
流の食いしん坊な明るい笑顔に引っ張られて、僕も肩を揺らして笑った。
だが、その一方で夜空に消えゆく白煙に切ない気持ちを抱いた。
魂の行方か――
無念な魂は、輪廻転生を繰り返すと聞いたことがある。
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