175 / 236
色は匂へど……
暗中模索 2
しおりを挟む
翠がこの日をどんなに待ち望んでいたか。
薙がこの日をどんなに待ち望んでいたか。
俺には双方の気持ちが、手に取るように伝わってきた。
やっぱり予定より30分早く到着して大正解だな。
待ちきれなくてそわそわしている翠を、早めに連れ出して良かった。
来客用の駐車場に立っていると、翠のマフラーを巻いてもらった薙がまんざらでもない表情で、こちらに向かって歩いてきた。
翠はすっかり父親の顔だな。
薙の子供らしい無邪気な顔も久しぶりに見た。
幸先の良いスタートを切れたな。
しかし今日は冷え込んでいるな。
二人が風邪を引かないように見守るのが、俺の最大任務だ。
「流、お待たせ」
「あぁ、薙、10歳の誕生日おめでとう!」
開口一番に伝えたい言葉を贈ると、薙は複雑な顔を浮かべた。
「どうして……二人して覚えているんだよ」
「薙……そんなの当たり前だよ、息子の誕生日は僕にとって特別な1日だからだよ」
「あぁ、可愛い甥っ子の生まれた日を忘れるもんか」
「……そういうもんなの? 母さんは……忘れていたのに……」
その言葉に翠が青ざめ、心を痛める。
俺はカッとした。
彩乃さん、まさか今日、息子にお祝いの言葉もかけずに出かけたのか。
最低だな。
それでも母親なのか。
母親の愛情は……母性はあるのかよ!
先ほど、俺たちが到着するのと入れ違いに彩乃さんが出かけていった。
呼んでいたタクシーに飛び乗ってしまったので声をかける暇はなかったが、今日はまた一段と艶やかに華やかな姿だった。
同じ寺の子として生まれたのに、何故こうも違うのか。
相変わらず人工的な香りのする女だった。
だが薙にとって大切な生みの母でもあるので、言いたいことは山ほどあるが、今は飲み込む。
それよりも今日は薙の誕生日だ。
楽しいことを優先させよう。
「さぁ、車に乗って、遊園地に行くぞ」
「やった!」
「流、頼んだよ」
「あぁ」
大きなドーム型の野球場の隣の遊園地にやってきた。
「ここ、来てみたかったんだ。あのジェットコースター『アンダードルフィン』に乗りたい」
「よし、それに行こう」
「やった!」
『都会のビル群を駆け抜けるドキドキ・ワクワクの疾走感を味わえる急降下ジェットコースター』か、これはスリル満点だな。
「刺激的で面白そうだ」
「だよね」
「薙、身長何センチになった?」
「135cm」
「じゃあ利用規程はクリアしているな」
「うん、母さんはこういう所が嫌いでさ、連れてきてくれないんだ。だけどずっと気になってたんだ……あ、もしかして父さんも苦手?」
「う……」
翠が決まり悪そうに俯いてしまった。
「はは、兄さんは酔いやすいんだ。薙、二人乗りだし、俺とペアでいいか」
「もちろんだよ。父さん……いいかな?」
「あ、うん、もちろんだよ。僕は写真を撮るよ」
「兄さん、ここから動くなよ。おっと……そのままじゃ寒いだろう」
俺のココア色のマフラーを翠の首元に巻いてやると、翠は少し頬を染めた。
「大丈夫だよ……流、あの……薙が見ているし……こういうのは……」
翠は気まずそうにするが、薙の受け止め方は違った。
「あのさ、父さんが大事にされているの、見るのは……いやじゃないよ」
「薙、お前、いい男だな」
「べ、別に……本当はオレが借りたマフラーを返そうと思ったけど……」
思ったけど……翠のぬくもりを感じるマフラーだから、きっと、まだしていたいんだよな。
薙の素直じゃないところも可愛い。
オレとよく言動が似ているので、よく分かり合える。
だから一緒に過ごせば過ごすほど、親近感が湧いてくるのさ!
薙がこの日をどんなに待ち望んでいたか。
俺には双方の気持ちが、手に取るように伝わってきた。
やっぱり予定より30分早く到着して大正解だな。
待ちきれなくてそわそわしている翠を、早めに連れ出して良かった。
来客用の駐車場に立っていると、翠のマフラーを巻いてもらった薙がまんざらでもない表情で、こちらに向かって歩いてきた。
翠はすっかり父親の顔だな。
薙の子供らしい無邪気な顔も久しぶりに見た。
幸先の良いスタートを切れたな。
しかし今日は冷え込んでいるな。
二人が風邪を引かないように見守るのが、俺の最大任務だ。
「流、お待たせ」
「あぁ、薙、10歳の誕生日おめでとう!」
開口一番に伝えたい言葉を贈ると、薙は複雑な顔を浮かべた。
「どうして……二人して覚えているんだよ」
「薙……そんなの当たり前だよ、息子の誕生日は僕にとって特別な1日だからだよ」
「あぁ、可愛い甥っ子の生まれた日を忘れるもんか」
「……そういうもんなの? 母さんは……忘れていたのに……」
その言葉に翠が青ざめ、心を痛める。
俺はカッとした。
彩乃さん、まさか今日、息子にお祝いの言葉もかけずに出かけたのか。
最低だな。
それでも母親なのか。
母親の愛情は……母性はあるのかよ!
先ほど、俺たちが到着するのと入れ違いに彩乃さんが出かけていった。
呼んでいたタクシーに飛び乗ってしまったので声をかける暇はなかったが、今日はまた一段と艶やかに華やかな姿だった。
同じ寺の子として生まれたのに、何故こうも違うのか。
相変わらず人工的な香りのする女だった。
だが薙にとって大切な生みの母でもあるので、言いたいことは山ほどあるが、今は飲み込む。
それよりも今日は薙の誕生日だ。
楽しいことを優先させよう。
「さぁ、車に乗って、遊園地に行くぞ」
「やった!」
「流、頼んだよ」
「あぁ」
大きなドーム型の野球場の隣の遊園地にやってきた。
「ここ、来てみたかったんだ。あのジェットコースター『アンダードルフィン』に乗りたい」
「よし、それに行こう」
「やった!」
『都会のビル群を駆け抜けるドキドキ・ワクワクの疾走感を味わえる急降下ジェットコースター』か、これはスリル満点だな。
「刺激的で面白そうだ」
「だよね」
「薙、身長何センチになった?」
「135cm」
「じゃあ利用規程はクリアしているな」
「うん、母さんはこういう所が嫌いでさ、連れてきてくれないんだ。だけどずっと気になってたんだ……あ、もしかして父さんも苦手?」
「う……」
翠が決まり悪そうに俯いてしまった。
「はは、兄さんは酔いやすいんだ。薙、二人乗りだし、俺とペアでいいか」
「もちろんだよ。父さん……いいかな?」
「あ、うん、もちろんだよ。僕は写真を撮るよ」
「兄さん、ここから動くなよ。おっと……そのままじゃ寒いだろう」
俺のココア色のマフラーを翠の首元に巻いてやると、翠は少し頬を染めた。
「大丈夫だよ……流、あの……薙が見ているし……こういうのは……」
翠は気まずそうにするが、薙の受け止め方は違った。
「あのさ、父さんが大事にされているの、見るのは……いやじゃないよ」
「薙、お前、いい男だな」
「べ、別に……本当はオレが借りたマフラーを返そうと思ったけど……」
思ったけど……翠のぬくもりを感じるマフラーだから、きっと、まだしていたいんだよな。
薙の素直じゃないところも可愛い。
オレとよく言動が似ているので、よく分かり合える。
だから一緒に過ごせば過ごすほど、親近感が湧いてくるのさ!
10
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる