忍ぶれど… 兄は俺の光――息が届くほど近くにいるのに、けっして触れてはならぬ想い人

志生帆 海

文字の大きさ
192 / 236
色は匂へど……

春隣 8

しおりを挟む
 丈は迷いなく彼を横抱きにして、俺の後をスタスタと背筋を伸ばしてついてくる。

 お、お前って、そんなキャラだったか。

 だが悪くないな。
 
 お前達が月影寺に旋風を巻き起こしてくれるのか。

 だったら、早く俺を押し上げろよ。

 とにかく翠と俺が感じていた『変化』がやってきたのだ。

 年末から感じていた不思議な予感は、確信に変わっていた。

「この部屋を使え」
「ありがとうございます。洋……大丈夫か。しっかりしろ」
「うっ……ごめん……少し……気持ち悪い」
「あ、待て」
「うっ……ごほっ、ごほっ」
 
 彼は覚束ない意識のまま、必死に丈から顔を背けた。

 丈の服を汚さないようにと。

「馬鹿! 何故顔を背ける」
「お前を汚すわけにはいかない。俺はどうとでも――」
「馬鹿なことを……まだ引きずっているのか」
「俺は汚れてもいいが……お前は駄目だ」
「もうよせ、それ以上喋るな」

 この二人の会話は一体?

 彼の服が汚れていくのを見ると、絶望的な気持ちになるのは何故なのか。
 
 君は何を背負って、何故ここにやってきた?
 
 底知れぬ闇を感じて切なくなった。

 とにかく一刻も早く清めてやらねば。

 そのままでは気持ち悪いだろう。 

 

「洋? また意識を失ってしまったのか……くそっ、まだ……洋を苦しめているのか」

 丈が悔しそうに呟く。

 彼の事ととなると、冷静沈着ではいられないようだ。

「丈、早く清めてやろう」
「あっ、流兄さん…気にしないで下さい。私たちに構わないで下さい」
「馬鹿、そんなこと言ってる場合か! そのままじゃ彼の身体が休まらない。彼の着替えはあるのか」
「あっ……泊まると伝えてなかったので持っていません。私の服を貸します」
「お前のじゃデカすぎだ。翠兄さんのを借りてくる」
「ですが」
「お前なぁ、ここでは少し甘えろ。何のためにお前には二人の兄がいると思ってんだ?」

 俺は今まで丈に「もっと甘えろ」「もっと頼れ」などと、声を掛けたことは一度もない。

 お前はいつだって一人でさっさと歩いて行ってしまったからな。

 だが、これは放っておけない。



 翠兄さんの元に戻ると、客間で難しい顔をして何か考え込んでいた。

 浴衣を彼に貸すことは快諾してくれたが、塞ぎ込んだままだ。

「流、しっかり介抱してあげてくれ。彼はこの寺にとって大切な人だ」

 大切な人……

 やっぱり翠もそう感じているのか。

 丈と彼は、同性同士で愛し合っている。

 兄さんはなかなか認めないが……

 翠と俺は……兄弟で惹かれ合っている。

 そうじゃないのか。

 だから広い意味では仲間じゃねーのか。

「御意……俺もそう感じていたよ。客人ではなく俺たちの仲間だと」

『俺たちの仲間』という言葉に、翠が目を見開いて驚愕する。
 
 それ以上は口にするなと、目で厳しく制してくる。

 俺は目の前にそびえる高い山を共に乗り越えたいと願っているが、翠は違うのか。

 恐れをなして、ただ……いつまでも見上げているだけなのか。

 一体いつまで待てばいい?

 遠ざかっていく背中に、愛情を込めて「翠」と呼びかけた。

 このまま抱きしめたい。
 
 触れたい! ちゃんと触れたい!

 だが伸ばした手は、途中で止まったままだ。

 俺も意気地なしだ、あと一歩が踏み出せないなんて。

 一方的な想いは成就しないのを知っている。
 
 翠も一歩踏み出すのを、ずっと待っている。

「……僕は行くよ。後は任せた」

 翠は足早に去り、そこに残るのは翠の抜け殻。

 俺が焚いた香だけしかいない。

「……幻を抱くのは、もう限界だ!」

 どうしたら翠を奮い立たせられるのか。

 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

【完結】ベイビーダーリン ~スパダリ俳優は、僕の前でだけ赤ちゃん返りする~

粗々木くうね
BL
「……おやすみ。僕の、かわいいレン」 人気俳優の朝比奈(あさひな)レンは、幼馴染で恋人の小鳥遊 椋(たかなし むく) の前でだけ赤ちゃんに戻る。 癒しと愛で満たす、ふたりだけの夜のルーティン。 ※本作品に出てくる心の病気の表現は、想像上のものです。ご了承ください。 小鳥遊 椋(たかなし むく) ・5月25日生まれ 24歳 ・短期大学卒業後、保育士に。天職と感じていたが、レンのために仕事を辞めた。現在はレンの所属する芸能事務所の託児所で働きながらレンを支える。 ・身長168cm ・髪型:エアリーなミディアムショート+やわらかミルクティーブラウンカラー ・目元:たれ目+感情が顔に出やすい ・雰囲気:柔らかくて包み込むけど、芯があって相手をちゃんと見守れる 朝比奈レン(あさひな れん) ・11月2日生まれ 24歳 ・シングルマザーの母親に育てられて、将来は母を楽させたいと思っていた。 母に迷惑かけたくなくて無意識のうちに大人びた子に。 ・高校在籍時モデルとしてスカウトされ、母のためにも受けることに→芸能界デビュー ・俳優として転身し、どんな役も消化する「カメレオン俳優」に。注目の若手俳優。 ・身長180cm ・猫や犬など動物好き ・髪型:黒髪の短髪 ・目元:切れ長の目元 ・雰囲気:硬派。口数は少ないが真面目で礼儀正しい。 ・母の力になりたいと身の回りの家事はできる。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...