悲しい月(改訂版)

志生帆 海

文字の大きさ
2 / 73
第1章

秘められた過去 2

しおりを挟む
「凄い数の本だな!」

 珍しくヨウの眼が明るく輝いた。
 
 そうか……ヨウの父親は、前々の王様の大臣だったから、本来ならばかなり高貴な身分のはずだ。剣を持つような役ではなく、もっと平和に穏やかに生きられたはずだ。

 幼い頃から勉学にも励み、知識も豊富だろう。そんなヨウが何故、このように敵とはいえ人を殺めるようになったのか……それは深くは分からない。

 今ヨウが昔を思い出したかのように、この莫大な本の前で胸を高鳴らせているのが、ひしひしと伝わりどこか切ない気持ちになった。

 私の存在すら忘れ、本に夢中になっているヨウを部屋に残し、静かに見守ることにした。夜も更けたというのに、彼は本を読むことが止まらないようで、部屋から出てこなかった。

「ヨウ…もう夜も更けたから今日は我が家に泊まって行かないか。こちらの部屋に寝具を用意させるから」

 結局、私の私邸であれから何時間も異国の本に夢中になってしまったので、そう声をかけた。

「あっもうこんな時間だったのか、すまない。だが俺がいたら家の人に迷惑じゃ?ジョウは結婚しているのでは?」

「ははっ家に誰もいないよ。私は独り者だ。以前そういう縁談話もあったが全部断ってしまってね」

 ヨウは意外そうな顔をして、その後ほっとしたような表情になった。

「そうか……そうさせてもらおうか。こんな風に人の家に泊まるのは久しぶりだよ」

 微かにほほ笑むその表情。王宮で緊張した面持ちで過ごしているヨウよりも、少し子供っぽい笑顔を浮かべる綺麗な横顔に、ドキッと見惚れてしまった。



****


「じゃあ……おやすみ」

 隣の部屋の灯りが消えるのを確認して、私も自室で横になるが、ヨウが近くにいると思うと何故か胸が高鳴って、なかなか寝付くことが出来ない。参ったな……私としたことが、女が泊りに来ているわけでもないのに、こんなにドキドキして。
 
 寝付けないので寝返りを繰り返していると、何やら隣室から何やら小さな音がする。
 これは……ヨウの声なのか。

「ううっ……あぁ」

 隣室から苦しげな呻き声が聞こえて来たので、驚いた。

「ヨウ……どうした?一体何にうなされている?」

 あまりに辛そうな様子が心配になり、部屋をそっと覗くと、ヨウは苦痛の表情で顔を歪めていた。額には汗が浮かんでいた。

「おいっしっかりしろ!一体どうした?」

 私は思わず部屋に入りその怯える肩をゆさぶり、悪夢から引き戻してあげようと必死になった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。

うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!! 高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。 ムーン様にも投稿してます。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...