12 / 73
第1章
春の虹 〜ジョウの想い〜
しおりを挟む私の方から、求め合っていた唇をそっと外した。
「えっ」
一瞬ヨウは「何故?」という表情を浮かべたが、すぐに顔を背け 「ジョウ……またな」と言い捨て、踵を返し去っていった。
いつもなら、もう一度振り返り微笑んでくれるのに、そのまま急ぎ足で去って行った。
果たしてあれで良かったのか。自問自答しながら先ほどまで二人で過ごしていた部屋に戻ると、共に読んだ異国の本が風に捲れ、パラパラと音を立てていた。
「ヨウ……」
ヨウの温もり、息づかいをまだそこに感じ、あのまま行かせてしまったことをやはり後悔した。
一人壁にもたれ、部屋に差し込む月明かりを頼りに夜空を見上げる。 ひんやりとした月光を浴びていると、すべては月にはお見通しかとさえ思えてくる。
そうなのだ。医師としての私が邪魔をして、ヨウを欲望のままに抱けないのだ。本当はヨウを今すぐにでも抱きたいのは、私の方だ。心から治療したいなんて言ってしまったから……なし崩し的にそのままヨウを抱いてはいけないような気がして、それが私の心を抑制してしまう。
お陰でこんなに苦しい夜を今宵も過ごさなくてはいけない。
眼を閉じて、想像する。
ヨウの着ている衣を、私の手で一枚一枚脱がし、身体を重ね温もりを分かち合い、秘めたる入り口に潜り込む。
君と一つに溶け合いたい。
ヨウの身体も心もすべて一緒に私の中に取り込んでしまいたい。そして、ヨウの抱えている恐れの全てを優しく包んであげたい。
ヨウが背負った暗く忌々しい過去も、今もこれから先の毎日も、すべて私と分かち合いたい。
想いを巡らせていると、下半身から熱いものがこみ上げ体の一部が熱く固くなっていることに気がついた。
「ふっ参ったな。私がこんなになるとは……」
私は少しばかり自嘲気味に微笑み、自らの手でそれを握り扱き始めた。精神を鍛錬している医官であるのというのに、ヨウのことを想うとこの有様だ。
先ほどの甘い吐息の交じったヨウの温かい唇の感触を思い出し、更にその先にしたかったことを思い描きながら、動かす手元に集中していく。
私に全てを委ね、私の中で悶えるヨウの姿が脳裏に浮かんでは消えていく。
「うっ……あぁ……はぁっ」
白い月光が射し込むこの部屋で、私は独り、ヨウの幻を抱いた。
11
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。
うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!!
高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。
ムーン様にも投稿してます。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる