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第1章
春の虹 ~二つの月輪~
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****
あれは何だろう?
柔らかい曲線を描き、しっとりとした月光のような控えめな輝きを放っている乳白色の輪が二つ。
どうしてこんなに心がざわつくのか。
貿易商だった父と異国から異国への移動する日、 港で船に乗る前に雑多な市場を歩いていて、偶然目に留まった。手に取ってみると、まるでずっと昔から自分のものだったように吸い付くように感じた。
「ジョウ、何をしておる?船がもう出航するから、早く来なさい」
「あ……父上、これは一体何に使うのでしょうか」
探しに来た父に二つの輪を見せた。
「ジョウや、それは大切な人と共に分かち合う指輪というものだ。いつか、お前が奥方を迎える時に、そのお方に一生添い遂げる誓いとして贈るものだ。お前にもそんな日がくるのだな。楽しみだ」
目を細めて、将来を夢見るような顔で父は答えた。
「どれ、せっかくこんな異国の果てまで来たのだ。医学にしか興味がないと思っていたお前にもこんな一面があるとは嬉しいものだ。今日の記念に買ってあげよう」
****
夜明け前にふと目覚めた私は、部屋の片隅に白く光るものを見つけたので、近寄ってみた。
「あぁこの指輪…こんなところにしまっていたのか。昨日ヨウがこの棚の本を読んでいたから出てきたのだな」
この指輪を手に入れたのは遠い異国を父と二人で旅し、医術というものに興味を持ちはじめた頃のことだ。あの時目を細めていた父は、とうに亡くなられた。 母も同じ時期にこの世を去り、父に可愛がられ共に異国を旅していた私に、二人の兄達は冷たく、すっかり疎遠になっていた。
私は孤独だった。
幾ばくかの女は抱いてみたが、湧き上がる喜びを感じることはなかった。それよりは医学の道を先へ先へと進み、新しい治療法や薬を発見することの方が、数倍、いや何十倍もの喜びを見出すことが出来た。
父上。
残念ながらこの指輪を差し上げたい女子は未だおらず、まして奥方を迎えることなど私には想像できません。
でもこの指輪を分かち合い、共に生きていきたい相手が出来ました。
これは許されない道でしょうか。
男である私が同性に懸想するとは……
でもあの方は私を必要としてくれています。
私は、心と身体の治療をしてあげたい。
いや……違う。
これは綺麗ごとだ。
私には欠けていると思っていた男としての欲情が、ヨウを見つめているだけで溢れ出て苦しい。こんなにも揺れ動く感情は初めてだ。帰り際のヨウの少し物足りなさそうな寂しそうな目のせいか。こんな溢れる気持ち……もうそろそろ先を求めても許されるのだろうか。
次は、次こそは……先へと進んでも良いのだろうか。
ヨウの肌に直接触れても良いのだろうか。
頭を押さえ暫し物思いに耽った後、ふと思いついて指輪の一つに黒い革の紐をつけて首から下げてみた。すると乳白色の指輪は、月輪のようにしっとりと静かに輝き、胸元で揺れた。月輪が優しく静かに肌に触れると、ひんやりとしているが温もりを感じられた。
「清められるな…この輝きは」
更にもう一つにも革紐をつけながら切に願う。
ヨウ……今、君にこれを贈りたい。
ヨウの負った傷が、この月輪によって少しでも浄化されたら……
そして分かち合った月輪が、私とヨウがこの先共に生きる証となってくれれば嬉しい。
早く胸元にこの月輪をつけたヨウの身体を抱きしめたい。もう幻では耐えられないから。
あれは何だろう?
柔らかい曲線を描き、しっとりとした月光のような控えめな輝きを放っている乳白色の輪が二つ。
どうしてこんなに心がざわつくのか。
貿易商だった父と異国から異国への移動する日、 港で船に乗る前に雑多な市場を歩いていて、偶然目に留まった。手に取ってみると、まるでずっと昔から自分のものだったように吸い付くように感じた。
「ジョウ、何をしておる?船がもう出航するから、早く来なさい」
「あ……父上、これは一体何に使うのでしょうか」
探しに来た父に二つの輪を見せた。
「ジョウや、それは大切な人と共に分かち合う指輪というものだ。いつか、お前が奥方を迎える時に、そのお方に一生添い遂げる誓いとして贈るものだ。お前にもそんな日がくるのだな。楽しみだ」
目を細めて、将来を夢見るような顔で父は答えた。
「どれ、せっかくこんな異国の果てまで来たのだ。医学にしか興味がないと思っていたお前にもこんな一面があるとは嬉しいものだ。今日の記念に買ってあげよう」
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夜明け前にふと目覚めた私は、部屋の片隅に白く光るものを見つけたので、近寄ってみた。
「あぁこの指輪…こんなところにしまっていたのか。昨日ヨウがこの棚の本を読んでいたから出てきたのだな」
この指輪を手に入れたのは遠い異国を父と二人で旅し、医術というものに興味を持ちはじめた頃のことだ。あの時目を細めていた父は、とうに亡くなられた。 母も同じ時期にこの世を去り、父に可愛がられ共に異国を旅していた私に、二人の兄達は冷たく、すっかり疎遠になっていた。
私は孤独だった。
幾ばくかの女は抱いてみたが、湧き上がる喜びを感じることはなかった。それよりは医学の道を先へ先へと進み、新しい治療法や薬を発見することの方が、数倍、いや何十倍もの喜びを見出すことが出来た。
父上。
残念ながらこの指輪を差し上げたい女子は未だおらず、まして奥方を迎えることなど私には想像できません。
でもこの指輪を分かち合い、共に生きていきたい相手が出来ました。
これは許されない道でしょうか。
男である私が同性に懸想するとは……
でもあの方は私を必要としてくれています。
私は、心と身体の治療をしてあげたい。
いや……違う。
これは綺麗ごとだ。
私には欠けていると思っていた男としての欲情が、ヨウを見つめているだけで溢れ出て苦しい。こんなにも揺れ動く感情は初めてだ。帰り際のヨウの少し物足りなさそうな寂しそうな目のせいか。こんな溢れる気持ち……もうそろそろ先を求めても許されるのだろうか。
次は、次こそは……先へと進んでも良いのだろうか。
ヨウの肌に直接触れても良いのだろうか。
頭を押さえ暫し物思いに耽った後、ふと思いついて指輪の一つに黒い革の紐をつけて首から下げてみた。すると乳白色の指輪は、月輪のようにしっとりと静かに輝き、胸元で揺れた。月輪が優しく静かに肌に触れると、ひんやりとしているが温もりを感じられた。
「清められるな…この輝きは」
更にもう一つにも革紐をつけながら切に願う。
ヨウ……今、君にこれを贈りたい。
ヨウの負った傷が、この月輪によって少しでも浄化されたら……
そして分かち合った月輪が、私とヨウがこの先共に生きる証となってくれれば嬉しい。
早く胸元にこの月輪をつけたヨウの身体を抱きしめたい。もう幻では耐えられないから。
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