悲しい月(改訂版)

志生帆 海

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第2章

月のようなふたり 1

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 私は自らの衣を脱ぎ捨て、粗末な寝台に寝かしたヨウのもとへ躰を滑らせた。温もりを少しでも分けてあげたくてヨウの肌と自分の肌を寸分の隙間もない程しっかりと合わせ、強く抱きしめてやった。

 ヨウもぎこちなく腕を私の肩へ回してくれた。
 まるでしがみつくように切ない表情を浮かべて……

 ヨウも私も求めている。
 私もヨウを求めている。

 私はヨウの黒く澄んだ眼を見つめ、想いの丈を込めて口づけをした。その時再び胸につけた月輪が重なり、あの日のように厳かな音を奏で始めた。

 くちゅ……くちゅ……

 長い時間をかけて、お互いの唇を求めあう音だけが聞こえた。 

「……ヨウ……治療しよう」

 私はヨウの傷ついてしまった蕾、用意していた薬を塗ろうと優しく触れると、ヨウはその手をそっと押さえ、首を横に振った。

「薬などいらぬ。俺は……今すぐジョウが欲しい」
「駄目だ! こんなに傷ついているのに。まずは薬を」

 まだぼんやりと横たわっているヨウの下衣をはだけさせ、脚を折り曲げ、傷の状態を確認するために股を開かせると、蕾は無残なことになっていた。
 
 キチに 無理やりに犯されてしまった痕跡を、いざ自分の目で確かめるのは辛い現実だった。私はキチに対する怒りを堪え慎重に薬を塗り始めた。

 「うっ……」

 ヨウが痛みを感じ、顔を歪めた。

 「ジョウっそのようなところまで……俺は大丈夫だ。自分で出来るから……もう触れるな」

 ヨウは視線を足元にずらし曝け出した下腹部を恥じ、開かされている脚に力を込めて閉じようとした。

 「今、薬を塗りこんでおかないと後々化膿したりして大変なことになる。 これは治療だから強張るな。私に身を委ねろ」
 「だが……このような姿勢は」

 ヨウは顔を横に背け頬を赤らめた。ヨウの抵抗は無視し、私はひたすらに蕾の周りに塗り込んでいく。優しく優しく指は弧を描くように手を動かしていく。

 「あぁ……んっ……」

 ヨウは何かを堪えるような声を発した。

****

 ジョウ──

 そんなことまで俺にしてくれるのか……お前は。
  お前に俺は……とうとう俺のすべてをさらけ出した。

  そんな風に優しく触るな。
  それ以上は俺に触れるな。

  このような傷は前王との間では頻繁に起きたことだ。 前王は受け入れる側の俺の躰の準備なんて構わず欲望のまま激しく突いてきたから……よく裂傷は起きた。

 このような傷、俺はいつも一人で処置してきた。
 だからもう触れなくていい。

  お前は治療のためというが、飼いならされた俺の躰は、お前の蠢く指にも感じてしまう。

 「もうっ……やめろ!」

 痛みよりも快楽を感じてしまう、こんな俺の姿をお前に知られたくない!

****

 私は治療のためといいながらヨウの大切な入口を指で撫でていたが、 徐々にその手に籠る熱を感じ始めていた。その時初めて私は医師である前に、ヨウを想う一人の人になったことを、実感した。同時にヨウのものも徐々に固くなっていき、ヨウも私と同じ気持ちでいることが分かった。

 「うっ……う…」
 
 ヨウは目を潤ませ、声を出さないように唇を噛み耐えている。私はそんな健気な様子が愛おしく、薬を塗る手を止めてヨウの唇に手を当てた。

 「堪えなくていい。 声を出して……私はヨウを今すぐ抱いても許されるのか」

 ヨウは、はっとした表情を浮かべた。

 「ジョウ、俺はこんな時すらも、お前が欲しくなってしまっている」
 「それでいい」
 「……今すぐお前が欲しい。温めて欲しい。挿れて……欲しい」

 私の高まるものにヨウの手が優しく触れ、 案内されるかのように中へと誘導された。

「つっ……」

 ヨウが痛みを堪える小さな声をあげた。

「あうっ」

 思わず私も声をあげてしまった。ヨウの躰の内部が氷のように冷えていて、自分の躰にも激しい痛みが走った。心臓が締め付けられるように冷えていったが、心配そうに見上げるヨウに気づかれない様に笑顔を取り繕った。

「ジョウ? 本当にお前は大丈夫なのか」
「大丈夫だ。ヨウがこんなに冷たくなって驚いただけだ」

 私はヨウの脚を手で大きく開き、更に奥へ奥へ潜りこんだ。

「んっ……ああ…あ……」

 カラン……カラン──

 私が上下に動くたびに月輪がぶつかる音は、この世で一番優しく癒されるものだ。その音色とヨウの感じる声。

 ヨウとしか奏でられない音色がこの世には存在する。

 痛みを堪えていたヨウの目はいつしか潤み、喘ぎ声に変わっていた。

 「ああっ……んっ…あぁ…くっ……」

 私は腰の速度を速め、ヨウの唇を求め続けた。そしてヨウの震える喉仏を啄み、指先では固くなった胸の突起を優しく揉みほぐし、口に含んで優しく転がした。

 牢獄の粗末な木製の寝台がギシッギシッと音を立てると共に、ヨウの大切な部分はどんどん温かみを取り戻してきた。

 「ジョウ……もうっ、もう……」

 ヨウが堪え切れない切なげな声で訴える。私のものが完全にヨウ中に入り込み、その温もりは冷え切っていたヨウの躰の芯を溶かし始めた。

「いいか? ヨウ……」
「あぁ……あっ……」

 ヨウの中で私の白濁したものは溢れ、そのままヨウの躰の内側へ吸い込まれていくような、そんな営みだった。 さらにその晩は共に満ちたり果てるまで、 何度も逢瀬を繰り返した。

 私のすべてでヨウを温めてやりたい。

 ヨウと出逢ってヨウを抱いて、 私は生きて行く意味を知った。
 ずっと私に足りなかったものが、ヨウによってすべて満ちた。

 ヨウがいない世界なんて考えられない。

 ****

 もう大丈夫。俺は一人ではない。
 この先どんなことが起ころうとも、俺はお前と共に生きていく。

 離れたくないし離さない。
 俺たちは……いつの世でも一緒だ。

 遠い先のそのまた先の世でも、こうして二人抱き合っているだろう。

 きっと、必ず!

 ジョウ……お前がすべてを俺に与えてくれたおかげで、俺は何があってもまた生きていける。 

 いつまでも俺の傍にいてくれ。
 そして俺を想ってくれ。

 二人は月のよう
 欠けては満ちて
 満ちては欠ける
 その繰り返し

 そして俺達はいつものように指を絡め合って、眠りに落ちた。
 明日というものが、またいつも通りにやって来ると信じて。

 永遠という幸せに包まれて……
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