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第2章
心は氷の如く 8
しおりを挟む「ヨウがどんな姿であろうと、私は大丈夫だから安心しろ。信じろ」
俺はジョウの言葉に安堵した。本当に大丈夫なのか。ジョウは俺の傍にいてくれる。決して離れていかない。
「ヨウ、君を温めても良いか」
「あぁ、あのキチの忌々しい感触が気持ち悪くて堪らない」
「下半身も動けるようにしてやるから抱くぞ、今から」
「えっ……ここで? あっ……だが、王様やあの女が」
「大丈夫。今はぐっすり眠っているし、この部屋にはいないから」
ジョウはそのまま俺を深く見つめ、そっと優しく俺の唇に口づけをしてくれたので、 目を閉じて身を任せた。更に唇をずらし身体に残されたキチの痕跡に優しく触れていった。
温かく、心地良い。
「あぁ……やはりお前はとても温かい。まるで母の手のようだ」
キチに吸われた皮膚が何か所も凍傷を起こし黒ずんでいる。だがジョウの口づけにより、その痕跡はまるで雪が溶けるかのように消え去り、俺は徐々に苦痛から解放されていった。
ふとジョウを見上げると、どことなく苦しそうな表情を浮かべているので不安になる。
「ジョウ……君は平気なのか。俺の痛みをお前が被っているのではないのか。それならすぐにやめてくれ! 」
その途端、俺の躰にジョウの涙がぽたぽたと降ってきた。
「ヨウ……守れなかった。再びこんな目に遭うなんて……私は自分が許せない」
涙を落とすジョウの頬に、俺はそっと手をあて、
「ジョウ泣くな、大丈夫だ。俺は慣れている。心を殺して抱かれることなんて……ずっと前王との間で続けていたことだ。ただ相手が違っただけだ。 だから、どうかもう泣かないでくれ」
「ヨウそれは違う。無理するな。誰もあのようなことを好むものはいない。 もう少し私に抵抗する力があれば……ヨウが自ら剣を捨て、あんな男に躰を許すことなんてなかったのに……」
深刻に思いつめているジョウの心が、俺にひしひしと伝わってきた。辛く哀しく痛ましい出来事だったのに、こんな風に俺のために泣いてくれるジョウの表情を見ていると、心が軽くなった。
俺はもう一人じゃない。
こうやって一緒に悲しんでくれる、嘆いてくれる相手がいる。
前のように一人で耐えなくてもいいのだ。
感情を押し殺して生きていかなくてもいいのだ。
そう思った途端、俺の目からも熱い涙がこぼれ落ちた。
「ジョウ……お前が傍にいてさえくれれば 俺はどんなことにも耐えられる。お前無しではもう生きていけない。 だからずっと傍にいてくれ」
「ずっといる! ヨウの傍にいる」
ジョウの口づけが、再びそっと俺の躰に舞い降りてきた。
「俺を抱いてくれ。あの忌々しい出来事をお前で忘れさせてくれないか」
「もちろんだ。私でよければ……私のすべてをヨウに捧げてもいい!」
「お前に治して欲しい。躰の表面は温かくなったのに、 躰の芯はまだとても冷たい。ひどく寒いよ。下半身が動かない……怖い」
ジョウにだけだ。
こんな弱音を吐けるのも、ジョウにしか見せないこんな弱い姿。
頼れる相手がいるということに、俺は喜びすら感じていた。
それがどんなにジョウの躰に負担になるかも知らずに。
****
私は医官だ。
今はヨウだけの医官だ。
ヨウの折れた羽を、 私の心と躰で治してやる。それが私の医官として出来る唯一の治療。たとえ私の躰に想像を絶する負担となっても、私は凍ったヨウの躰を元に戻してやりたいのだ。
私はヨウの背中をそっと優しくさすりながら、確信した。
もう引けない……この流れに任せるのみだ。
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