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第3章
月虹 2
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近づいている二つの影は、よく見覚えのあるものだった。
幼き王様と赤い髪の女。あぁ懐かしい二人の姿だ。
「王様!」
「医官のジョウ!」
王様の小さな躰を私は思わず抱きしめてしまった。生きている……そのことを確認したくて。
「病は……病は治られたのですか。治療をされたのですか」
確かめるように王様の脚に触れると、硬くなっていたしこりは消滅していた。
「信じられない……綺麗に腫瘍がなくなっている」
私は、はっとして赤い髪の女のことを見た。赤い髪の女も感極まった表情で私のことを見つめている。
「ジョウさん、やっぱりあなたは生きていたのね。ヨウさんが願った通りだわ」
「ええ……私はあれからずっとここに立っていました。とてつもなく長い時間」
「ここから、一歩も動けなかったの?」
「はい……でも今は違います。自由に躰を動かせるようです。前に進もうと思えば進めます」
「良かったわ。本当に」
「由さん、あなたが王様を救ってくれたのですね」
赤い髪の女は緩やかに首を振った。
「違うわ。私じゃない。私たちを先の世界に飛ばしてくれたヨウさんの力のお陰よ」
「ヨウが……」
大事な私の想い人。
その人の名前を口にすると、胸がギュッと絞めつけられた。
「私たちは、未来に行ってきたの。そこで洋さんと丈さんというあなた達の生まれ変わりのような人と出逢ったわ。そして王様は最新の治療を受け、病を克服されたの」
「なんと」
信じられないことだが、信じられる。
それはヨウが強く願い、思い描いていたことだから。
「本当に実現できたのですね。ありがとうございます」
「いいえ!お礼はヨウさんに言って。さぁ私の出番はここまでよ。私はここで王様をあなたに託せたから、ヨウさんが言ってくれたように、私の世界に戻ることにするわ」
「そうなのか」
「えぇ寂しいけれども、ここでお別れになるわ」
「そうか……なんといっていいのか。とても感謝している。私が王様をしかと送り届ける」
「今のあなたなら出来るはずよ。そしてヨウさんのところへ早く戻ってあげて。私、悲しみに沈みヨウさんのことが見ていられなかった。あんなに深い嘆きと悲しみが世の中にあることを知らなかった」
「あぁ……私は必ず戻る。そしてもうヨウの傍から二度と離れない」
「良かった。幸せになって。性別なんて関係ないわ。先の世ではもっと同性との恋愛も自由になっている。あなたたちは二人でひとつなのよ。離れないで。もう……負けないで。どんなことにも。もしも負けそうなときは二人で支え合って」
「分かった。君も幸せになってくれ」
「じゃあ行くわね。王様……ありがとう!あなたは本当に頑張ったわね。私もいつかあなたみたいな可愛い男の子のママになりたいって思ったわ!」
「僕こそ、母上みたいに優しいあなたに救われたよ」
赤い髪の女は、私と握手し、王様を一度抱きあげて別れを告げた。
足元を照らしていた月虹の白き道には、いつの間にか赤い髪の女のための道が出来ていた。赤い柔らかな髪を肩で揺らしながら、達成感に満ちた表情を浮かべ、その道へと歩み出した。
不思議な縁だった。
彼女がいなかったら、すべてが全く違う結果になっていただろう。
私達にとって、彼女は女神のような存在だった。
彼女の姿が見えなくなるまで、王様を手を繋ぎ、見送った。
「ジョウ。そろそろ僕たちも行こうか」
「王様……はい、そうですね。行きましょう」
一歩また一歩。
ヨウのもとへ近づくと思うと、足取りも軽くなる。
月虹の橋は何処までも真っすぐにヨウのもとへ私達を運ぶが如く、伸びている。
ヨウ……もうすぐ君に会える。
また君を抱ける。
私の凍っていた躰も心もすべて溶けて、自由になった今──
幼き王様と赤い髪の女。あぁ懐かしい二人の姿だ。
「王様!」
「医官のジョウ!」
王様の小さな躰を私は思わず抱きしめてしまった。生きている……そのことを確認したくて。
「病は……病は治られたのですか。治療をされたのですか」
確かめるように王様の脚に触れると、硬くなっていたしこりは消滅していた。
「信じられない……綺麗に腫瘍がなくなっている」
私は、はっとして赤い髪の女のことを見た。赤い髪の女も感極まった表情で私のことを見つめている。
「ジョウさん、やっぱりあなたは生きていたのね。ヨウさんが願った通りだわ」
「ええ……私はあれからずっとここに立っていました。とてつもなく長い時間」
「ここから、一歩も動けなかったの?」
「はい……でも今は違います。自由に躰を動かせるようです。前に進もうと思えば進めます」
「良かったわ。本当に」
「由さん、あなたが王様を救ってくれたのですね」
赤い髪の女は緩やかに首を振った。
「違うわ。私じゃない。私たちを先の世界に飛ばしてくれたヨウさんの力のお陰よ」
「ヨウが……」
大事な私の想い人。
その人の名前を口にすると、胸がギュッと絞めつけられた。
「私たちは、未来に行ってきたの。そこで洋さんと丈さんというあなた達の生まれ変わりのような人と出逢ったわ。そして王様は最新の治療を受け、病を克服されたの」
「なんと」
信じられないことだが、信じられる。
それはヨウが強く願い、思い描いていたことだから。
「本当に実現できたのですね。ありがとうございます」
「いいえ!お礼はヨウさんに言って。さぁ私の出番はここまでよ。私はここで王様をあなたに託せたから、ヨウさんが言ってくれたように、私の世界に戻ることにするわ」
「そうなのか」
「えぇ寂しいけれども、ここでお別れになるわ」
「そうか……なんといっていいのか。とても感謝している。私が王様をしかと送り届ける」
「今のあなたなら出来るはずよ。そしてヨウさんのところへ早く戻ってあげて。私、悲しみに沈みヨウさんのことが見ていられなかった。あんなに深い嘆きと悲しみが世の中にあることを知らなかった」
「あぁ……私は必ず戻る。そしてもうヨウの傍から二度と離れない」
「良かった。幸せになって。性別なんて関係ないわ。先の世ではもっと同性との恋愛も自由になっている。あなたたちは二人でひとつなのよ。離れないで。もう……負けないで。どんなことにも。もしも負けそうなときは二人で支え合って」
「分かった。君も幸せになってくれ」
「じゃあ行くわね。王様……ありがとう!あなたは本当に頑張ったわね。私もいつかあなたみたいな可愛い男の子のママになりたいって思ったわ!」
「僕こそ、母上みたいに優しいあなたに救われたよ」
赤い髪の女は、私と握手し、王様を一度抱きあげて別れを告げた。
足元を照らしていた月虹の白き道には、いつの間にか赤い髪の女のための道が出来ていた。赤い柔らかな髪を肩で揺らしながら、達成感に満ちた表情を浮かべ、その道へと歩み出した。
不思議な縁だった。
彼女がいなかったら、すべてが全く違う結果になっていただろう。
私達にとって、彼女は女神のような存在だった。
彼女の姿が見えなくなるまで、王様を手を繋ぎ、見送った。
「ジョウ。そろそろ僕たちも行こうか」
「王様……はい、そうですね。行きましょう」
一歩また一歩。
ヨウのもとへ近づくと思うと、足取りも軽くなる。
月虹の橋は何処までも真っすぐにヨウのもとへ私達を運ぶが如く、伸びている。
ヨウ……もうすぐ君に会える。
また君を抱ける。
私の凍っていた躰も心もすべて溶けて、自由になった今──
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