悲しい月(改訂版)

志生帆 海

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第3章

力の分かれ道 1

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 丁度その時、俺の部屋にキチからの使者がやってきたので、慌てて王様とジョウを部屋の奥に隠し応対した。

「近衛隊長。キチ殿がお呼びです。今宵も……ご所望だそうです」

 全身がかっと熱くなった。よりによってジョウと王様が近くにいるのに、夜伽の呼び出しを聞かれるなんて。本当に俺は恥ずべき人間だ。この身を売って生きながらえたようなものだ。だが今はもうそのことを考えるのはよそう。ジョウはすべてを知って、それでも俺を求めてくれているのだから。

「ふっ……」

 自嘲気味に笑って、返答をした。

「……準備をしたら伺うと伝えてくれ」
「分かりました。そう伝えますが、なるべくお早く」

 使者が去っていくと、すぐにカイが俺の傍に来た。

「ヨウ……お前は大丈夫なのか。こんなこと……クソッ俺は悔しい。近衛隊長でもあるヨウをあんなふうに呼び出すのが許せない。どうしてヨウばかり、こんな目に遭うんだよっ」

 俺は憤慨するカイの腕を掴み、励ますように笑って見せる。

「大丈夫だ。カイ……王様とジョウが戻って来た今、俺はもう二度と躰を差し出すつもりはない」
「じゃあヨウ……やるか」
「あぁ今宵だ。早い方がいい」

 今宵、王様が無事病気を完治されて帰国されたことを伝えよう。キチにはジョウと王様が異国へ病気に治療に行ったと伝えている。王様が無事に帰られるまでの臨時の王だったと宣言するのだ。

 とても素直に受け入れるとは思えないが……

「ヨウ……大丈夫なのか」

 ジョウがいつの間にか、俺の横に来てくれていた。

「あぁ悪夢は終わりだ。元に戻そう! 俺から離れるな。何があっても王様とジョウを守るから」
「ヨウ……馬鹿だな」

 そう言ってジョウは俺を肩を優しくそっと抱いた。

「私だって弱くはない。知っているだろう。己の身位、ちゃんと守れるぞ」
「だが……もう二度と離れるのは嫌だ」
「分かっている。すべて上手くいく。元に戻そう! 」

****

「キチ殿……お待たせいたしました」

「おお! ヨウ遅かったではないか。早くこちらへ来い。お前の雷攻をもっと味わいたい。もっともっとお前の力を私に与えろ」

 キチは俺と躰を重ねるたびに、俺の雷攻の力をじわじわと搾り取っていった。俺の躰を凌辱するだけでなく、秘技といわれる雷功をも奪い取っていった。

 部屋に入るなり俺の手首を掴み、早くしろと急かすように、寝所へ押しやられる。

 だが……今宵はここまでだ。

「キチ殿、俺はもう二度とあなたとは寝ない」
「んっどうした? 何を言っている? 王命にお前は背けないはずだぞ? 」
「何故なら……キチ殿はもう王ではないからだ」
「お前? 一体何を馬鹿なことを」

 キチが不思議そうに顎髭を弄りながら、近づいてくる。

 その腐敗臭を漂わす口臭と共に思わず顔を背けてしまった。

 キチの躰はどこか病んでいる。必要以上の力を手に入れた者に宿る特有の臭いだ。あまりの臭気に込みあげる吐き気を堪え、俺はキチの部屋の外に待機しているカイ達近衛隊に指で小さく合図をした。

「王様が治療を終え、医官のジョウと共に帰国されたのだ。だからもうキチ殿は王ではない! 」
「ヨウっ、お前ふざけた真似を」
「入れっ」
  
 一斉にキチの部屋に武装した部下が押し寄せ、キチを取り囲む。

 そうしてその先に、幼き王とジョウが姿を現した。

 その姿を確認したキチは驚愕の面持ちだ。

「なっな、なんてことだ! まさか生きているなんて」

「キチ……お前は随分勝手な真似をしてくれたな。僕の大事なヨウに一体何をしてくれたんだ。僕が戻ったのだからお前はもう王ではない。王位継承権では僕の方がずっと上だ。今すぐ退けー! 」

 幼かった王様が、いつの間にこんなに立派になられたのか。

「何を──!!」
「無駄なあがきはよせ、素直に王位を退くのだ」

 キチは悔しそうに躰を震わせあと、不敵な笑みを浮かべた。それはゾクっとするほど不気味な顔つきだった。

「ならばもう一度死んでもらうまでだ」

 まずい!

「ジョウっ王様を退避させろ! 」
「カイっ! 俺の横に! 」

 キチの躰から怪しい妖気が立ち昇っている。俺から奪い取った雷攻と生まれつき持っていた氷功を使って、王を殺そうとしているのだ! その躰は青白い光で包まれて来ている。

「カイ、俺に力を貸してくれ!!」

 俺も指先に小さな稲妻を作り、それをカイの気を借りて、大きくしていく。今の俺が持っている最大限の力を集めて行く。俺の躰は真っ赤に燃えがる炎のような気で包まれた。

「ヨウ……お前は私には敵うまい。お前の力を時間をかけて、私が搾り取っていったのだからな。もうお前には私と互角に戦う力は残っていないはずだ、はははっ! そんな小さな王なんて、この私の力で今すぐに殺してやる! 」

「キチめ、それは俺が許さない! 」

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