『トカプチ』ハートフル獣人オメガバース

志生帆 海

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あまえて

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「レタル、また見ているのか」
「サク……だってトカプチに会うのは1年ぶりなのよ」
「そうだな。トカプチは変わらないな。ここで一緒に暮らしていた時と同じ可愛い寝顔だ」

 夫のサクと共に、トカプチの寝顔をいつまでも眺めていた。

 トカプチが16歳の誕生日を迎えた朝まで使っていた個室に、ロウとトイと3人で身を寄せ合ってすやすやと眠っている。

 今は安らかな3人の寝息が重なっていくのが、どこまでも心地良かった。

 でも……あなたは、まだ17歳なのよ。

 アペも含め同級生の子達は、まだまだ学生を謳歌しているというのに……あなたはその若さで既に伴侶を得て、男の子が体験するはずもない妊娠をし、子供を産んだ。

 本当に波瀾万丈の人生を送ることになってしまったわね。

 でも、まだこれは始まりよ。この先、あなた達に様々な困難が襲ってくるかもしれない。人間でありながら半獣と婚姻したのだから、普通と違う道を歩む時につきまとう弊害があるはず。

 どうか災いとなりませんように。
 私たちも全身全霊であなた達家族を守りたい。

 健やかに安らかに。
 あなた達を囲む環境が穏やかでありますように。

 トカプチの蜂蜜色の綺麗な髪にそっと触れてみる。

 少し漂う乳の匂いに、あなたが小さな頃を思い出すわ。

 泣き虫なのに責任感も強くて……溌剌とした可愛い子供だった。

 私の幼い頃から乳が溢れ出る特異体質とオメガ性のために、数奇な運命を辿ることになって、ごめんなさい。

 あの日……胸にさらしを巻きながら、悔し涙を流したあなたの顔が忘れられない。それでも今は、ロウと出逢ってくれて良かったと思っているわ。ロウにならあなたを任せられる。ありのままのトカプチを愛してくれるから。
 
 半獣という姿で孤高に生きてきたロウだから、あなたの悔しさ、哀しさもみんな吸い取ってくれるのよね。

「ん……母さん、どうしたの?」

 私が頬に触れると、トカプチが目を覚ました。

「トカプチ……」
 
 もう泣くまいと決めていたのに、やはり涙が出てしまった。

「いやだな。何で泣くの? 俺まで悲しくなるよ」
「ごめんなさい……嬉しくて。あなたがこの部屋で眠っているのが」
「……少し話そうか」

 月明りが静かに降り注ぐ屋根裏部屋で、トカプチと久しぶりに親子の時間を持った。サクは遠慮したのか、ノンノと添い寝をしたまま起きてこない。

「こうやって過ごすのは、久しぶりね」
「そうだね」

 私はトカプチに膝枕をしてあげた。

 幼い頃…よく暖炉の前で、こうやって寛がせ、昔話をしてあげたのを思い出すわ。

「……母さん」
「なあに?」
「いや……呼んだだけ」

 トカプチも照れくさそうに甘えた声を出してくれた。

 変わってないと思ったけれども、去年より更にトカプチは透明感を持っていた。乳白色の肌も蜂蜜色の髪も、ますます輝きを増していて、心身共に幸せな事を物語っていた。
 
「あなたは今……しあわせね」



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