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Grow
よりそって
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「お前……もしかして、命を宿しているのか」
「なんで……分かった?」
部屋に戻ると、兄狼たちが神妙な顔をしていた。
「……匂いが変わった。微かにお前の躰からロウの匂いがする。ロウの子を宿したのだな」
「あぁ、そうみたいだ」
まだ平らな腹に手を当ててみると、俺にも感じた。
ロウの匂いが微かにする。
ここにロウの血を分けた赤子が育っている。
いつの間に妊娠していたのか。
気づかなかった。
本当にあの時ピューマに最後まで犯されなくてよかった。助かった。もしそんなことになってしまっていたら、番の契りも……せっかく宿った命まで失ってしまう所だった。
でももっと早く分かっていたら、ロウに伝えられたのに。
そうしたら、ロウは──
「よかったな。トカプチ。おめでとう!」
「あ……ありがとう」
ロウの行方が分からない状況下で手放しで喜ぶことは出来ないが、それでも待望の二人目を授かったのは嬉しいニュースだった。
この1年間、何度も何度も試みたのに……まったく妊娠しなかったのに。
きっとあの日だ、大地をベッド抱かれた日だ。
俺たちは子孫繁栄を夢見て、共に深く何度も何度も……求め合った。
あっ駄目……ダメだ。無性にロウが恋しくなってしまい、涙がまた溢れてしまうよ。
「う……っ、うっうっ」
「な、泣くな。お前に泣かれると……俺たちはお前の涙に弱い」
スウとリウが顔を見合わせ、オロオロとしている。
「うっ、ごめん……でっでも──ロウに会いたくなって……うっ」
「きっと生きている。アイツは死んでない! トカプチとトイ……そして産まれて来る赤子の元にきっと戻ってくる」
「そうだ、信じろ!諦めるな!」
必死に狼の手を丸めて、俺の背を撫でてくれる兄狼たちの様子にますます涙が溢れてしまう。
「ロウの兄さんたちが傍にいてくれてよかった。たった一人で氷の城壁に閉じ込められてしまったら、実家にも行けないし途方に暮れていたよ。きっとトイとふたりで路頭に迷っていた……だからありがとう」
両手を広げると、二匹の狼が俺に寄り添ってくれた。
もふもふの毛がくすぐったく、あたたかい。
彼らはロウの兄なのだ。
抱きしめれば、微かに彼らからもロウの匂いを微かに感じ、俺のお腹の赤子と同調していく。
「産むよ……この子を、絶対に。ロウが残してくれた命を繋いで、ロウを呼ぶ」
命の誕生は、世界を変える!
そう信じて──
前を見て、未来に希望を託して……
この辛い状況を乗り切っていこう。
俺はひとりじゃない。
まるでロウと俺が一時的に離れてしまうのが分かっていたかのように、ロウの兄たちがやってきて、ここにいてくれて、寄り添ってくれている。
「トカプチ……お前は人の子なのに強いな。女子のように華奢な躰で一見か弱そうなのに、とても強い。心が強いのだな。強くなろうと努力している。俺たちが今ここにいるのは意味があってのことだろう。お前の出産のために、何でもする。無事に俺たちにもロウの子供を見せてくれ!」
「ママぁ……」
「おいで、トーイもこっちに」
トイも迎え入れて、俺たちはギュッと抱き合った。
人間の俺と半獣のトイ……完獣の兄狼たち
今は……この氷で閉ざされた世界で、こうやって身を寄せ合って生きて行こう。
世界に……試されている。
無事にお腹の中に授かった赤ん坊を、この世界に産み落とす。
それが使命──
俺は生きて、生きて──
再びロウに巡りあう!
「なんで……分かった?」
部屋に戻ると、兄狼たちが神妙な顔をしていた。
「……匂いが変わった。微かにお前の躰からロウの匂いがする。ロウの子を宿したのだな」
「あぁ、そうみたいだ」
まだ平らな腹に手を当ててみると、俺にも感じた。
ロウの匂いが微かにする。
ここにロウの血を分けた赤子が育っている。
いつの間に妊娠していたのか。
気づかなかった。
本当にあの時ピューマに最後まで犯されなくてよかった。助かった。もしそんなことになってしまっていたら、番の契りも……せっかく宿った命まで失ってしまう所だった。
でももっと早く分かっていたら、ロウに伝えられたのに。
そうしたら、ロウは──
「よかったな。トカプチ。おめでとう!」
「あ……ありがとう」
ロウの行方が分からない状況下で手放しで喜ぶことは出来ないが、それでも待望の二人目を授かったのは嬉しいニュースだった。
この1年間、何度も何度も試みたのに……まったく妊娠しなかったのに。
きっとあの日だ、大地をベッド抱かれた日だ。
俺たちは子孫繁栄を夢見て、共に深く何度も何度も……求め合った。
あっ駄目……ダメだ。無性にロウが恋しくなってしまい、涙がまた溢れてしまうよ。
「う……っ、うっうっ」
「な、泣くな。お前に泣かれると……俺たちはお前の涙に弱い」
スウとリウが顔を見合わせ、オロオロとしている。
「うっ、ごめん……でっでも──ロウに会いたくなって……うっ」
「きっと生きている。アイツは死んでない! トカプチとトイ……そして産まれて来る赤子の元にきっと戻ってくる」
「そうだ、信じろ!諦めるな!」
必死に狼の手を丸めて、俺の背を撫でてくれる兄狼たちの様子にますます涙が溢れてしまう。
「ロウの兄さんたちが傍にいてくれてよかった。たった一人で氷の城壁に閉じ込められてしまったら、実家にも行けないし途方に暮れていたよ。きっとトイとふたりで路頭に迷っていた……だからありがとう」
両手を広げると、二匹の狼が俺に寄り添ってくれた。
もふもふの毛がくすぐったく、あたたかい。
彼らはロウの兄なのだ。
抱きしめれば、微かに彼らからもロウの匂いを微かに感じ、俺のお腹の赤子と同調していく。
「産むよ……この子を、絶対に。ロウが残してくれた命を繋いで、ロウを呼ぶ」
命の誕生は、世界を変える!
そう信じて──
前を見て、未来に希望を託して……
この辛い状況を乗り切っていこう。
俺はひとりじゃない。
まるでロウと俺が一時的に離れてしまうのが分かっていたかのように、ロウの兄たちがやってきて、ここにいてくれて、寄り添ってくれている。
「トカプチ……お前は人の子なのに強いな。女子のように華奢な躰で一見か弱そうなのに、とても強い。心が強いのだな。強くなろうと努力している。俺たちが今ここにいるのは意味があってのことだろう。お前の出産のために、何でもする。無事に俺たちにもロウの子供を見せてくれ!」
「ママぁ……」
「おいで、トーイもこっちに」
トイも迎え入れて、俺たちはギュッと抱き合った。
人間の俺と半獣のトイ……完獣の兄狼たち
今は……この氷で閉ざされた世界で、こうやって身を寄せ合って生きて行こう。
世界に……試されている。
無事にお腹の中に授かった赤ん坊を、この世界に産み落とす。
それが使命──
俺は生きて、生きて──
再びロウに巡りあう!
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