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第壱幕第壱場:「そもそもことの始まりは」
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第壱幕第壱場:「そもそもことの始まりは」
牢を蹴る音。
肩で息をしながら、真ん中の牢で誰かが座った。
悪役令嬢(以下、アクコ):聴いてます?聞こえてます?もしもーし、隣のお方。とうとう頭の中のお花畑が眼と耳と口にあふれ出して、ついでに鼻にも溢れて、言葉も出てこなくなったんですの?
沈黙。
アクコ:なんなの?黙りこくって、ちょっとはお話をされたらいいと思います。あのパーティでは女優のようにたち振る舞っていたではありませんか?
沈黙。水滴が落ちる。
沈黙に耐えれなくなったアクコが鉄格子を掴んで、隣の牢をにらみつける。
アクコ:無視ですか?無視なんですね!都合の悪いことは、蓋するおつもりですか?それでも、この王国の貴族として矜持というモノがないのですか?
沈黙。
アクコは呆れて鉄格子を投げ捨てるように放して座る。
隣の牢で祈りを捧げている男爵令嬢聖女(以下、セイコ)。
泣きそうになりながら、祈りを続けようとするがアクコに煽られ、我慢できなったよう。
セイコ:静かにしてください!なんですか、矜持って。こっちは片田舎の男爵の娘です。
アクコ:静かにしてたでしょう、いきなり大声だして。ぁあ怖い怖い
セイコ:さっきまで金切り声上げてたじゃない
アクコ:今は上げてないわ
セイコ:屁理屈は止めてください
アクコ:ヘリクツだなんて、言葉遣いに品がないのは、男爵令嬢だからですか?それともご自身の本質だからですか?
セイコ:会話するおつもりがないのに、絡んでくるのは止めてください
アクコ:♯私__ワタクシ__#は、貴女よりも爵位の高い生まれです。私の好きな時に、私よりも低い立場の人間に話しかけるのは、権利です
セイコ:今や同じ牢に繋がれる者です、上も下も関係ありません
アクコ:私、貴女のそういうトコロが嫌いですわ
セイコ:嫌いで結構です
アクコ:……、“あの方”が私を糾弾された時に、貴女も何も言わなかったではありませんか
セイコ:言える訳がない、……でしょう。仮にも“あの方”はこの国の第二王子で、皇太子候補ですよ。それに貴女様は侯爵令嬢。格上の爵位には、話しかけられるまで黙っておくのが、この国の習わしでしょう
アクコ:急に礼儀作法のお話?あぁ貴女そう言えば、作法の授業点は高かったものね、お作法の担当教員に色目でもおつかいになられたのかしら?
セイコ:そんなはしたない真似はしません。教員先生は高齢でそんなことにはなりません!
アクコ:どうかしらね?何たって、“あの方”を堕とした手練手管がおありでしょう?
セイコ:やめてください
アクコ:お得意でしょう、イ、ロ、メ
セイコ:はしたないのは、どちらですか?
アクコ:……卒業式典の後の舞踏会で、皆が見ている中で婚約者に罵倒され、婚約破棄を宣言される気持ちが解りますか?
セイコ:解るわけありません
アクコ:言われない貴女への嫌がらせ、“あの方”の勘違いなのか、誰かが吹き込んだ妄言なのかは判りかねますが、どんな気持ちか……
感情の高まったアクコ、言葉に詰まる。
セイコ:あ、あの……
アクコ:何でもありせん。はぁ、もういいのです。終わった事です
セイコ:私ではありません。私は貴女様を陥れたことはありません。あり得ません。確かに“あの方”とは仲良くさせていただきました。事実、生徒会の活動の中でお声掛けをしていただき、お話をさせていただいたこともあります。ですが、それは生徒会の仕事の延長線上としてです。やましいことは何もありません。信じてください
アクコ:信じろ?そもそも誰のせいでこの牢に閉じこめられたと思っているのですか?
セイコ:それはご自身で弁解されないからでしょう
アクコ:弁解?婚約破棄されて、自分の弁護するなんてみっともない
セイコ:そんな風に伝えることを諦めているから、誤解されるんです
アクコ:そんなことはないわ。伝わる人には伝わるに決まっているでしょう
セイコ:それは察しのいい人と察そうとし続ける人だけです。人類がすべて、そうだとは思わないで
アクコ:なら、人類がそうあるべきよ
セイコ:自分勝手な人ですね
アクコ:自己弁護が得意な人ね
セイコ:本当に私ではないんです、信じてください。……、おそらく貴女様の取り巻きのお一人……だと思います
アクコ:どっちです?
セイコ:どっち、とは?
アクコ:よく知らない間に私の後ろについて歩いてきた二人がいたでしょう。金髪の方?それとも銀髪の?
セイコ:金髪です
アクコ:あぁ
セイコ:男爵令嬢だったはずです
アクコ:あぁ……ね
セイコ:名前、お忘れになったんですね
アクコ:何百とある貴族の名前をいちいち覚えれるわけがないでしょう。覚えてるわけないじゃない。毎日毎日飽きもせず、挨拶しに来るのが何人いると思ってるの?
セイコ:覚えましょうよ、それくらいは
アクコ:卒業したら何処か侍女になるとかよ。覚えても卒業したら会わないもの
セイコ:そうでした。そうでしたね、貴女様は学内試験の成績悪かったですもんね
アクコ:違うわよ、効率的に生きているだけよ。侯爵令嬢なのよ、卒業したら皇太子候補と結婚するのよ。この先、頭脳労働が待っているわけではないのだから、別に成績に拘らなくても、勉強できなくてもいいでしょうが
セイコがため息。
アクコ:は?なに、そのため息。あれ、学内試験首位をとれる頭脳からの余裕のため息?それとも哀れみ?喧嘩売ってるのね?
セイコ:今、貴女様の仰っていることは子供の我が儘のそれと一緒です
アクコ:子供じゃないし。全然大人です
セイコ:まぁ、いいです
アクコ:そもそも、王族独自の礼儀作法や主要な貴族の紋章を覚えたり諸外国の王族の成り立ちや謂れ、そのご家族の名前を覚えたりするのよ、それに外国語、学業に含まれない外国語覚えて、一応日常会話レベルまでならないといけないんです……手が回ると思いますか?
セイコ:そうですね……
アクコ:なんです。その哀れんだ言い方
セイコ:いいえ、貴女様はそうですね、そういうところがありましたねぇ、と思いまして
アクコ:喧嘩を売ってますね……、それは喧嘩を売っていると思って良いですよね?
セイコ:えぇ……ちゃんとお釣りの計算は出来ますか?
アクコ:は?
アクコが牢から手を伸ばしてセイコの方にジタバタトするが全く届かない。
セイコ:ごめんくださいね、貴女様
アクコ:此処から出たら覚えておきなさいよ
セイコ:はいはい
牢獄の入り口の扉が開き、連行されてくる一人の少女(以下、テンコ)。
テンコ:ちょっと放しなさいよ、こちとら飛ぶ鳥を落とす勢いのテンセイセカイ商会の会長様なのよ。放せ、獣!放せって言ってんの、言葉も解んないなんてやっぱ獣じゃん。獣ケダモノ、いたたた、引っ張らないでよ、押さないで、歩けるから、痛い痛い。放して!テンセイセカイ商会の商品はアンタの一族郎党には売らないから覚えておきなさいよ。痛い、覚えておきなさいよ
テンコは叫びながらも、抵抗できずに空いている牢屋の中に放り込まれる。
暗転。
牢を蹴る音。
肩で息をしながら、真ん中の牢で誰かが座った。
悪役令嬢(以下、アクコ):聴いてます?聞こえてます?もしもーし、隣のお方。とうとう頭の中のお花畑が眼と耳と口にあふれ出して、ついでに鼻にも溢れて、言葉も出てこなくなったんですの?
沈黙。
アクコ:なんなの?黙りこくって、ちょっとはお話をされたらいいと思います。あのパーティでは女優のようにたち振る舞っていたではありませんか?
沈黙。水滴が落ちる。
沈黙に耐えれなくなったアクコが鉄格子を掴んで、隣の牢をにらみつける。
アクコ:無視ですか?無視なんですね!都合の悪いことは、蓋するおつもりですか?それでも、この王国の貴族として矜持というモノがないのですか?
沈黙。
アクコは呆れて鉄格子を投げ捨てるように放して座る。
隣の牢で祈りを捧げている男爵令嬢聖女(以下、セイコ)。
泣きそうになりながら、祈りを続けようとするがアクコに煽られ、我慢できなったよう。
セイコ:静かにしてください!なんですか、矜持って。こっちは片田舎の男爵の娘です。
アクコ:静かにしてたでしょう、いきなり大声だして。ぁあ怖い怖い
セイコ:さっきまで金切り声上げてたじゃない
アクコ:今は上げてないわ
セイコ:屁理屈は止めてください
アクコ:ヘリクツだなんて、言葉遣いに品がないのは、男爵令嬢だからですか?それともご自身の本質だからですか?
セイコ:会話するおつもりがないのに、絡んでくるのは止めてください
アクコ:♯私__ワタクシ__#は、貴女よりも爵位の高い生まれです。私の好きな時に、私よりも低い立場の人間に話しかけるのは、権利です
セイコ:今や同じ牢に繋がれる者です、上も下も関係ありません
アクコ:私、貴女のそういうトコロが嫌いですわ
セイコ:嫌いで結構です
アクコ:……、“あの方”が私を糾弾された時に、貴女も何も言わなかったではありませんか
セイコ:言える訳がない、……でしょう。仮にも“あの方”はこの国の第二王子で、皇太子候補ですよ。それに貴女様は侯爵令嬢。格上の爵位には、話しかけられるまで黙っておくのが、この国の習わしでしょう
アクコ:急に礼儀作法のお話?あぁ貴女そう言えば、作法の授業点は高かったものね、お作法の担当教員に色目でもおつかいになられたのかしら?
セイコ:そんなはしたない真似はしません。教員先生は高齢でそんなことにはなりません!
アクコ:どうかしらね?何たって、“あの方”を堕とした手練手管がおありでしょう?
セイコ:やめてください
アクコ:お得意でしょう、イ、ロ、メ
セイコ:はしたないのは、どちらですか?
アクコ:……卒業式典の後の舞踏会で、皆が見ている中で婚約者に罵倒され、婚約破棄を宣言される気持ちが解りますか?
セイコ:解るわけありません
アクコ:言われない貴女への嫌がらせ、“あの方”の勘違いなのか、誰かが吹き込んだ妄言なのかは判りかねますが、どんな気持ちか……
感情の高まったアクコ、言葉に詰まる。
セイコ:あ、あの……
アクコ:何でもありせん。はぁ、もういいのです。終わった事です
セイコ:私ではありません。私は貴女様を陥れたことはありません。あり得ません。確かに“あの方”とは仲良くさせていただきました。事実、生徒会の活動の中でお声掛けをしていただき、お話をさせていただいたこともあります。ですが、それは生徒会の仕事の延長線上としてです。やましいことは何もありません。信じてください
アクコ:信じろ?そもそも誰のせいでこの牢に閉じこめられたと思っているのですか?
セイコ:それはご自身で弁解されないからでしょう
アクコ:弁解?婚約破棄されて、自分の弁護するなんてみっともない
セイコ:そんな風に伝えることを諦めているから、誤解されるんです
アクコ:そんなことはないわ。伝わる人には伝わるに決まっているでしょう
セイコ:それは察しのいい人と察そうとし続ける人だけです。人類がすべて、そうだとは思わないで
アクコ:なら、人類がそうあるべきよ
セイコ:自分勝手な人ですね
アクコ:自己弁護が得意な人ね
セイコ:本当に私ではないんです、信じてください。……、おそらく貴女様の取り巻きのお一人……だと思います
アクコ:どっちです?
セイコ:どっち、とは?
アクコ:よく知らない間に私の後ろについて歩いてきた二人がいたでしょう。金髪の方?それとも銀髪の?
セイコ:金髪です
アクコ:あぁ
セイコ:男爵令嬢だったはずです
アクコ:あぁ……ね
セイコ:名前、お忘れになったんですね
アクコ:何百とある貴族の名前をいちいち覚えれるわけがないでしょう。覚えてるわけないじゃない。毎日毎日飽きもせず、挨拶しに来るのが何人いると思ってるの?
セイコ:覚えましょうよ、それくらいは
アクコ:卒業したら何処か侍女になるとかよ。覚えても卒業したら会わないもの
セイコ:そうでした。そうでしたね、貴女様は学内試験の成績悪かったですもんね
アクコ:違うわよ、効率的に生きているだけよ。侯爵令嬢なのよ、卒業したら皇太子候補と結婚するのよ。この先、頭脳労働が待っているわけではないのだから、別に成績に拘らなくても、勉強できなくてもいいでしょうが
セイコがため息。
アクコ:は?なに、そのため息。あれ、学内試験首位をとれる頭脳からの余裕のため息?それとも哀れみ?喧嘩売ってるのね?
セイコ:今、貴女様の仰っていることは子供の我が儘のそれと一緒です
アクコ:子供じゃないし。全然大人です
セイコ:まぁ、いいです
アクコ:そもそも、王族独自の礼儀作法や主要な貴族の紋章を覚えたり諸外国の王族の成り立ちや謂れ、そのご家族の名前を覚えたりするのよ、それに外国語、学業に含まれない外国語覚えて、一応日常会話レベルまでならないといけないんです……手が回ると思いますか?
セイコ:そうですね……
アクコ:なんです。その哀れんだ言い方
セイコ:いいえ、貴女様はそうですね、そういうところがありましたねぇ、と思いまして
アクコ:喧嘩を売ってますね……、それは喧嘩を売っていると思って良いですよね?
セイコ:えぇ……ちゃんとお釣りの計算は出来ますか?
アクコ:は?
アクコが牢から手を伸ばしてセイコの方にジタバタトするが全く届かない。
セイコ:ごめんくださいね、貴女様
アクコ:此処から出たら覚えておきなさいよ
セイコ:はいはい
牢獄の入り口の扉が開き、連行されてくる一人の少女(以下、テンコ)。
テンコ:ちょっと放しなさいよ、こちとら飛ぶ鳥を落とす勢いのテンセイセカイ商会の会長様なのよ。放せ、獣!放せって言ってんの、言葉も解んないなんてやっぱ獣じゃん。獣ケダモノ、いたたた、引っ張らないでよ、押さないで、歩けるから、痛い痛い。放して!テンセイセカイ商会の商品はアンタの一族郎党には売らないから覚えておきなさいよ。痛い、覚えておきなさいよ
テンコは叫びながらも、抵抗できずに空いている牢屋の中に放り込まれる。
暗転。
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