キツネと龍と天神様

霧間愁

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郷愁と懐古する天神曰く

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 人間として生きていた頃の話だわ。

 また散歩の時の話になるのだわ、ただしお昼のお散歩。
 向かいから、母と子の親子が歩いてきていたの。
 子供はその時点で、泣きながら母親に何かを訴えている最中だった、子供は息が荒く何を言っているか解らない状態だったの。
「がっで、ほぉじいぃ」
 おそらく子供は、買って欲しい、と言ったのだと思う。
 母親は優しい声で子供の手を引いて諭していたわ。
「買えないって、何度も言ってるでしょ」
「がっでう゛ぁ」
 買ってや、だと思われるわ。泣いて高揚しているせいで、ますます発音が不穏ね。
「ごめんね、ゲームは買えないって言ってるでしょ」
 母親の口調も歩調も変わらない。
「がっでう゛ぁ、“青いニンテンドー3DSスリーディーエス”、がっでぐでるっやぐぞぐじで」

 泣きじゃくりながらでも商品名だけは、ハッキリした発音が聞こえる。

 人間って子供の頃から、役者よね。
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