キツネと龍と天神様

霧間愁

文字の大きさ
上 下
320 / 366

懐旧談な龍曰く

しおりを挟む
 遠い昔、とある国に、一人の男がいた。

 男は母親の腹を食い破って生まれ落ちたと言われ、幼児の頃に父の短刀で家に忍び込んだ賊を殺した。

 生きているだけで暴力がつきまとった。
 次第に拳で人を殴り飛ばしている時が、生を実感するように至った。「我は、歪んでいる」とも理解していた。

 成人となり隣国と戦争になると兵士として徴兵され、幾つもの人の山を作り敵に恐れられ、味方からは「英雄」として崇められた。

 男からしてみれば、剣を持った腕を振るうだけで人は凪ぎ倒れ、武具を着た足で蹴り上げれば人が飛んでいく、それだけだった。「強き者は何処だ?」と男は戦場でただ求めていた。
 終戦して国に帰ると「英雄」として扱われ、持て囃された。

 しかし「くだらん」「つまらん」と、男は退屈だった。金銭を積もうとも、美女をあてがわれようとも、地位を用意しようとも、退屈だった。

 恐怖、嫉妬、妬み。男が嫌うモノが周囲に増えていく。
 煩わしくなった男は、国を去ることにした。

 男は強者を探す旅に出た。そして、人外に出会った。
しおりを挟む

処理中です...