デスメタル転生

伊勢カイン

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最終話『望む世界』

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 旅の途中、僕たちは立ち寄った村で演奏会を開く。
 銀湯詩人ヴェイスは、いつもこのように旅の路銀を稼いでいたとアドバイスしてくれたからだ。
 ……いやしかし、これは演奏会という名のサバトかもしれない。

『ヴォ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”!!』
——ギャギャギャギュイーン♪
——べべべべン♪ ビーン♪
——ズドドド、ダダダダダダダーン!
「ウォウ♪ ウォウ♪ ワオーン♪」
「ウホ♪ ウホ♪ ウホッ♪」

 ビートに合わせて狼やゴリラが雄叫びを上げる。
 なんなんだ、この曲は!
 ああ、久々にクラシック音楽が聴きたい。

「旅芸人殿の斬新な曲、心が震えたわ」
「腸かっこよかった!」
「ヴォ”エ”エ”! どう?」

 村人たちが褒め称え、子供たちが真似をする。
 小さな村に悪影響を与えているな。

「俺たちは旅芸人じゃねえ!
 デスメタルバンドだ!」
「ですめ……バード!?
 吟遊詩人(バード)でしたか!」

 いやいや、バンドでもバードでもなく勇者一行なんだけど。


 ◆ ◆ ◆


 村を出て1週間。
 順調に仲間のモンスターは増え、100匹を越えた。
 いずれのモンスターも、曲が始まると腸ノリノリになる。
 腸じゃなくて超だった。
 僕も毒され始めているのか!?

「ああ、クラシックが聴きたい」

 キャンプ中、あまりのクラシック恋しさに空中でピアノを弾く真似をしてしまう。

「おい、ドワム!
 ……ってのはどうだ?」
「うむ、わかった。朝飯前じゃ」

 モヒートがドワムに何か相談しているが、どうせ禄なことじゃないだろう。


 ◆ ◆ ◆


 翌朝。

——ギャギャギャギュイーン♪

 派手な音で目を覚ます。

「ギャハハ!
 マジで朝飯前にやってくれるとはな!
 さすが凄腕の鍛冶屋だぜ」

 既視感のあるシャウト——じゃなくて叫び声で目を覚ます。

「おい、ノゾム!
 オメーの盾を見てみろ!」

 僕が武器屋から持ってきた大盾を指差すモヒート。

「こ、これは!?」

 盾には白鍵と黒鍵が並んでいる。

「オメーが弾きたそうだったからな。
 サプライズだぜ!」
「モヒート……あ、ありがとう」
「特別に俺のバンドに加えてもいいぜ!
 『キーボード担当』をな!」

 勝手にキーボード担当に決まっていた。
 というか、鳴るのかこれ?
 鍵盤に指を置いてみる。

「…………」

 鳴らない。
 えええ!? 見た目だけだ、これ……!

「俺がデスボイスで歌う時だけ、音が鳴るようになっている。
 これが俺の能力だ!」

 え、能力!?
 そういえば異世界転生した転生者には特別な力があるとか女神が言っていたような?
 そうだ!
 このモヒカン男が女神を急かすから、僕は自分の能力を聞いていないぞ!
 というかこの人も能力を聞いていなかったのでは?


 ◆ ◆ ◆


『ヴォ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”!!』
——ギャギャギャギュイーン♪
——べべべべン♪ ビーン♪
——ズドドド、ダダダダダダダーン!

 破壊神の居城に近づくにつれ、ゴースト、スケルトン、ゴーレムなどの生物ではないモンスターも出現し始める。
 が、彼らは関係なく演奏をしてモンスターを信者(ファン)にしていく!

 僕も、恐る恐る鍵盤に触れてみる。

——ジャーン♪

 こ、これは!?
 ピアノだ!
 ピアノの音がサンプリングされている!!

——ジャジャジャジャーン♪

『そうだぜノゾム!
 それがオメーの魂の音だぜェ”ェ”ェ”ェ”ェ”ェ”ェ”!』

 これが、僕の魂の音!
 僕の音だ!
 モンスターたちよ!
 僕のサウンドに痺れろ!!

——ボンボロン♪ ジャジャジャン♪ ビボバーン♪

 気がつけば、曲が終わるまでに一心不乱に弾き鳴らしていた。

「うおおおお! ごああああ!」
「シャアアアアーッ!」

 そしてオーディエンスからの喝采。
 僕たちの曲に熱狂するモンスターたち。

「これが、デスメタル……!」


 ◆ ◆ ◆


 居城の奥には、巨大なドラゴンが待ち構えていた。

「よく来たな、勇者ども。
 我こそが『破壊神デストロカイザー』!!
 よもや配下のモンスターを手懐けるとは思わなかったぞ」
「手懐けたんじゃねえ。
 こいつらは、地獄への供物、生贄、道連れだぜ!」
「御託はいい。
 かかってこい!」
「よっしゃ、行くぜェ!」

『ヴォ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”!!
 偉そうな破壊神!
 龍の逆鱗を引き剥がせ!
 破壊! 破壊! 破壊されろ! 破壊神!
 デストロォ”ォ”ォ”イィ”ィ”ィ”!!』

——ギャギャギャギュイーン♪
——べべべべン♪ ビーン♪
——ズドドド、ダダダダダダダーン!
——ボンボロン♪ ジャジャジャン♪ ビボバーン♪

「な、なにをしておるのだ!?」

『困惑する破壊神!
 脳みそをくり抜いて音を聞け!
 これが俺の惨殺シーン!
 破壊! 破壊! 破壊されろ! 破壊神!
 デストロォ”ォ”ォ”イィ”ィ”ィ”!!』

 歌詞に合わせてヘドバンするスケルトン。
 空を踊るゴースト。

「意味がわからん!
 こちらから行くぞ!」

『惨劇は俺がこいつで締めてやる!
 俺はモヒート! 破壊神を殺す悪魔!
 スラッシュ! 首を切り落どぜェ”ェ”ェ”!』

——斬ッ!

 モヒートがギター破壊のパフォーマンスを……いや違う!!
 ギターは破壊されていない。
 あのギターは、元々両手持ち武器の大斧だった!

 突然の物理攻撃に反応できない破壊神。

「ぐおおおおおーっ!!」

 龍の首が断末魔を上げる。

 モヒートは、大斧で破壊神の首を刎ねたのだ。

『ゼンギュー!』

 大喝采、大声援。
 こうして、サバト——いえ、僕たちの演奏は、大熱狂の中で終わりを告げる。


 ◆ ◆ ◆


 周囲が光と静寂に包まれ、僕とモヒートはいつかの真っ白な空間にいた。
 目の前に現れる、あの女神。

「『破壊神デストロカイザー』を倒してくださり、ありがとうございます。
 望み通り、あなたたちを生き返らせ、元の世界に送り届けましょう」

 元の世界……生き返っても、ひとりぼっちで家と会社を往復するだけの世界か。

「なあ、ノゾム。
 オメーさえよければ、俺と一緒に来ないか?」
「えっ?」
「続けようぜ!
 俺たちのデスメタルバンドを!」

 僕はクラシック音楽が好きだ。
 ピアニストに未練もあった。

 でも、あの時。
 モヒートと一緒に演奏していた瞬間は、何もかにもを忘れ、ただ演奏に没頭していた。
 会社のことも忘れ、ピアノのことも忘れ。
 自分が自分であることも忘れて。

 僕は彼の手を取った。

「それもいいかもな。よろしく頼むよ」
「ギャハハ! 決まりだな!
 じゃあ女神、俺を元の世界に戻してくれ!
 ノゾムも一緒にな!」
「わかりました……そぉい!」

 女神の掛け声と共に、意識が遠のく。


 ◆ ◆ ◆


 灼熱の溶岩。
 むせかえるような血の臭い。

「ギャハハハハハ!
 色々あったが、やっと戻ってこられたぜ!
 日本に転生したときはどうなることかと思ったがな!」

 地獄のような場所で、悪魔のようなメイクの男が笑い声を上げる。

「ここは……?」
「ここは『俺が元いた世界』!
 悪魔たちの故郷、地獄の一丁目だぜ!」

 ん? 悪魔たちの世界?
 そういえば、モヒートのメイクを落とした姿を見たことがなかったが、ま、まさか!?

「ギョエ、なんだオマエたちは?」

 頭からツノを生やした半裸の男たちが僕たちの周りに集まってきた。
 彼らもモヒートと同じようなメイク……じゃなかった、同じような模様の顔をしている。

『ヴォ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”!!
 新生デスメタルバンド!
 聴かせてやろうぜ悪魔どもに!
 俺とノゾムのサウンドを!
 耳から血を流せェ”ェ”ェ”ェ”ェ”ェ”!!』

——ギャギャギャギュイーン♪

 地獄に響く、デスボイスとギターと、そして。

——ボンボロン♪ ジャジャジャン♪ ビボバーン♪
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