魔力ゼロの悪役令嬢が 最強の魔女になれたのは、優しい魔王さまの嫁だから

恋月 みりん

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27章〜28章

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27.章 ホーリング・ラブ・アゲイン



─遠く、どこからともなく、魔獣たちの遠吠えが聞こえる。


深き闇にまどわせる、魔物の棲まう森ヴェルノ。


この場所は本来、強力な魔物が住まう、人跡未踏じんせきみとうの地のはずである。


しかし不思議とまったく、強力なモンスターは現れない。


もちろん、それは魔王のせいであり、


平和に歩いていけるのは、とても不思議な事なのだか、


初めて国の外に出るカリナに、それは全く分からない。


後ろ手で杖を持ち、鼻歌まじり、軽い足取りで、魔王の後をついていく。



正直、面倒くさそうな魔王から、魔法を教わりながら、森を歩いて行く。



そしてもうすぐ、魔物の森を抜けそうだ。



「魔王様…。海ですよ!」



眼下には広く大海原が見える。カリナは生まれて初めて海を見た。



『きれい…』



東の空の彼方から白い鳥が、こちらへ滑り込んでくる。


はるか上空を飛ぶ鳩、


カリナはそれを見上げている。


「あれは…!…わたしの鳩です。

仲間のいたところにかえそうと、屋敷に火をつける前に逃した子です。そのまま、逃げてしまっても良かったのに、

こうして、わたしのところに帰ってきてくれたみたいです。」


そう言って、カリナは空を指さす。


「わたしを慕って、こうして追いかけてきてくれたんですね。」


そう言って、魔王を振り返り、笑顔を見せた。


「すごく、嬉しいです。」


陽光と、揺れて反射する、水平線、


太陽と海をバックに、カリナはそう言う。


羽ばたく鳩、


蒼ぞらに、舞い散る、白い羽根。


まぶしい笑顔を向け、カリナは空に手を伸ばした。


鳩はカリナの指先にとまり、愛おしそうに、頬に顔をうずめた。



それを見ている、魔王は、


なぜか、見てはいけないものを見たような、


ざわつきを感じた。


眩しいような、儚いけれど美しい、


でも、もう戻らない何か、を見た気がした。


失われたどこかが、ひどく痛む。


ふいに、笑顔のカリナが、こちらに手を振る。


泣きたくなるような、でもどこか懐かしい、



ふしぎな感情を抱いた。





28.章 父への手紙




─拝啓。お父様、お元気ですか?


わたしは今日、初めて、魔法のフレアを使えるようになりました。

いつかは、上級魔法に挑戦するべく、

日々精進しています。

今までは、知っているだけで、使うこともかなわなかった魔法が、使えるようになってきました。

魔力って素晴らしいですね。



魔王は、カリナが何事かを紙に書きつけていることに気づいた。


「お前、父親に手紙を書いているのか?」


魔王は驚愕の声を上げる。


「はい。」


「…………。」


「ファザコンだな。」


「ちっ、違います!」




─実家の魔王様も元気です。よく食べ、よく寝て、機嫌も良いです。
(…我をペットみたいにいうなっ!(魔王怒))


わたし達は、サライサの町から、船に乗り、ユーラ大陸のドド国に向かおうとしています。


─追伸。風の噂で、

お父様が、王立魔兵軍の司令官を解任され、左遷されたと聞きました。

元部下の方が今度は、上司になるそうですね。

気の短いお父様が、いつか元部下の方を殴ってしまうんじゃないかと、心配しています。

また、妹たちは、悪い噂のせいで学校を辞めてしまったと聞きました。

お兄様たちも、同じように、
魔法騎士団を辞めさせられた、と聞きました。

お父様を、とても心配しています。


それでは、どうか、お身体に気をつけて。


─カリナ•オルデウス より。

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