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37章〜38章
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37.章 敵襲
─航海の日程も中ほどが、過ぎた。
その晩は、海は凪、怖いほど穏やかな夜だった。
海上には弓のようにしなった月がでている。
船の甲板の上に沢山の人が、おり重なるように、倒れている。
それは、人、人、人の死体だった。
人々は手に手にナイフ、肉切り包丁、ノコギリ、てんでバラバラの武器を持ち、あるものは自分自身を、あるものは、お互いを、殺し、血の海で倒れていた。
ひとりの人物の影が、操舵輪の後方に立っている。
カリナが前に会った、見知らぬ乗客。
魔導士のカシウス•オルデウスだった。
風とともに月は雲に隠れ、術師の影は闇に溶けた。
黒檀のような闇から、魔導士は死霊術を行使する。
薄暗い、船上に死霊術の詠唱だけがこだまする。
「深淵なる知を求めんと欲し、
その渇望に身を焦がすものよ
その禁断なる叡智と
漆黒なる腐敗の儀式を以て
安息の眠りから覚めよ
我が意に従え
腐れり死者たちよ
殺され冥府より対峙せし者は
無限に力を得るだろう
されば混沌に慈悲もなし」
「クリエイト•アンデット…」
死者を死霊に導く、冥府の鐘がチリンとなると、死霊たちは、唸りを上げ、ゆっくりと起き上がった。
船内のあちこちから、死霊の恨めしげな、うめきが聴こえる。
「ゔ…ゔ…ゔ…ゔ」
唸りをあげながら、死霊たちはこちらに向かってやってくる。
「ゔぉぉぉ…ゔおぉぉ!!」
カリナの顔の見知った人間が、死霊に変わり果てていた。
「そんな…」
『どうしよう…手が震えて…。ダメだ、上手く杖が握れない…。』
38.章 死人
甲板でむくりと起き上がる死霊、荷運びの奴隷たちの声。
「…もう辛い苦役から…解放されたんだ…」
「こんな辛い現世、もう生きられない…」
マストに吊るされた、漕ぎ手の奴隷がつぶやく。
「家族に会いてぇ…戦争で死んだ家族にょぉ…」
カリナは、知らなかった。この船がたくさんの犠牲の上で、成り立っていたことを。
そして、カリナの見知った声が聞こえてきた…。
小さな女の子の死霊。
人形を抱いたククルだった。
「…嘘っ…」
カリナはその姿にショックを隠せない。
ククルは、死霊にしてもらって無邪気に喜んでいる。
「お姉ぢゃん…やっと楽になっだょ…もう苦じくも、痛ぐもないょ…」
そして、ククルの両親も同じく、変わり果てた姿に変わっている。
「お父さんも、お母さんも、わたしも、おんなじだもん…寂じくないょ」
ククルはカリナに語りかける。
「お願い…お姉ぢゃんも…おんなじになろ…」
カリナは蒼くなりながら、必死で否定する。
「…ごめんなさい。それは…それは、ダメ…なの」
ククルは悲しそうに言った。
「ひどい…。お姉ちゃん、忘れないって言ったくせに。わたしを1人にするんだ…」
「お姉ぢゃん…なんて、大っ嫌い!!!」
クルルはそう言うと、カリナを死霊の力で突き飛ばした。
カリナは、ダメージをつけつつも、魔導士カシウス•オルデウスを見つける。
カリナは術師である、魔道士カシウスに問いただす。
「なぜ、このようなことをしたのですか!この人たちが、一体何をしたって言うんですか!?」
魔導士は、静かに笑っている。
「言っておきますが、私は彼らの願いを叶えてやっただけですよ。」
そう言って、魔導士カシウスは、悪びれる様子もない。
「辛い現世から逃げ出したい。死んで楽になりたい。そんな、彼らの願いを叶えたにすぎません。」
「でも…小さな女の子まで…!」
「死ななければ叶わぬ想いも、あるのですよ。」
そう言って悲しむ、カリナを諭した。
そして、魔王に呼びかける。
「ハルト。そろそろ、出てきたらどうなんです?」
魔王は声に答えて、マストの物見台の上から、姿を現した。
「我を、封印の罠にハメておきながら、よくも姿を現すことができたな…。」
魔王はかつてないほどの、怒りの表情が浮かんでいた。
「ツカサ…。」
「あんな、どエロいサキュバスを送ってくるのは、ドスケベのお前ぐらいだろうよ。」
ツカサと呼ばれた、カシウスは不敵に笑う。
「くっくっ…でも、楽しんだんでしょう?」
「………。」
「ふはははっ!」
「ハルト。…500年ぶりですか、相変わらずムカつく顔ですね。」
カリナは一連のやり取りを、不安な顔で見ている。
『…ふたりは、何の話しをしているの?』
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
あとがき
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援お願いいたします。
面白くても、つまらなくても、正直に感じた気持ちをコメント頂けると、今後につながるのでありがたいです。
『お気に入り』もいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。
─航海の日程も中ほどが、過ぎた。
その晩は、海は凪、怖いほど穏やかな夜だった。
海上には弓のようにしなった月がでている。
船の甲板の上に沢山の人が、おり重なるように、倒れている。
それは、人、人、人の死体だった。
人々は手に手にナイフ、肉切り包丁、ノコギリ、てんでバラバラの武器を持ち、あるものは自分自身を、あるものは、お互いを、殺し、血の海で倒れていた。
ひとりの人物の影が、操舵輪の後方に立っている。
カリナが前に会った、見知らぬ乗客。
魔導士のカシウス•オルデウスだった。
風とともに月は雲に隠れ、術師の影は闇に溶けた。
黒檀のような闇から、魔導士は死霊術を行使する。
薄暗い、船上に死霊術の詠唱だけがこだまする。
「深淵なる知を求めんと欲し、
その渇望に身を焦がすものよ
その禁断なる叡智と
漆黒なる腐敗の儀式を以て
安息の眠りから覚めよ
我が意に従え
腐れり死者たちよ
殺され冥府より対峙せし者は
無限に力を得るだろう
されば混沌に慈悲もなし」
「クリエイト•アンデット…」
死者を死霊に導く、冥府の鐘がチリンとなると、死霊たちは、唸りを上げ、ゆっくりと起き上がった。
船内のあちこちから、死霊の恨めしげな、うめきが聴こえる。
「ゔ…ゔ…ゔ…ゔ」
唸りをあげながら、死霊たちはこちらに向かってやってくる。
「ゔぉぉぉ…ゔおぉぉ!!」
カリナの顔の見知った人間が、死霊に変わり果てていた。
「そんな…」
『どうしよう…手が震えて…。ダメだ、上手く杖が握れない…。』
38.章 死人
甲板でむくりと起き上がる死霊、荷運びの奴隷たちの声。
「…もう辛い苦役から…解放されたんだ…」
「こんな辛い現世、もう生きられない…」
マストに吊るされた、漕ぎ手の奴隷がつぶやく。
「家族に会いてぇ…戦争で死んだ家族にょぉ…」
カリナは、知らなかった。この船がたくさんの犠牲の上で、成り立っていたことを。
そして、カリナの見知った声が聞こえてきた…。
小さな女の子の死霊。
人形を抱いたククルだった。
「…嘘っ…」
カリナはその姿にショックを隠せない。
ククルは、死霊にしてもらって無邪気に喜んでいる。
「お姉ぢゃん…やっと楽になっだょ…もう苦じくも、痛ぐもないょ…」
そして、ククルの両親も同じく、変わり果てた姿に変わっている。
「お父さんも、お母さんも、わたしも、おんなじだもん…寂じくないょ」
ククルはカリナに語りかける。
「お願い…お姉ぢゃんも…おんなじになろ…」
カリナは蒼くなりながら、必死で否定する。
「…ごめんなさい。それは…それは、ダメ…なの」
ククルは悲しそうに言った。
「ひどい…。お姉ちゃん、忘れないって言ったくせに。わたしを1人にするんだ…」
「お姉ぢゃん…なんて、大っ嫌い!!!」
クルルはそう言うと、カリナを死霊の力で突き飛ばした。
カリナは、ダメージをつけつつも、魔導士カシウス•オルデウスを見つける。
カリナは術師である、魔道士カシウスに問いただす。
「なぜ、このようなことをしたのですか!この人たちが、一体何をしたって言うんですか!?」
魔導士は、静かに笑っている。
「言っておきますが、私は彼らの願いを叶えてやっただけですよ。」
そう言って、魔導士カシウスは、悪びれる様子もない。
「辛い現世から逃げ出したい。死んで楽になりたい。そんな、彼らの願いを叶えたにすぎません。」
「でも…小さな女の子まで…!」
「死ななければ叶わぬ想いも、あるのですよ。」
そう言って悲しむ、カリナを諭した。
そして、魔王に呼びかける。
「ハルト。そろそろ、出てきたらどうなんです?」
魔王は声に答えて、マストの物見台の上から、姿を現した。
「我を、封印の罠にハメておきながら、よくも姿を現すことができたな…。」
魔王はかつてないほどの、怒りの表情が浮かんでいた。
「ツカサ…。」
「あんな、どエロいサキュバスを送ってくるのは、ドスケベのお前ぐらいだろうよ。」
ツカサと呼ばれた、カシウスは不敵に笑う。
「くっくっ…でも、楽しんだんでしょう?」
「………。」
「ふはははっ!」
「ハルト。…500年ぶりですか、相変わらずムカつく顔ですね。」
カリナは一連のやり取りを、不安な顔で見ている。
『…ふたりは、何の話しをしているの?』
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
あとがき
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