まにゅ恋

とら

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間宮の場合(三)

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 ───桜は散った。
 高橋真純と同じ学校に行きたくて、志望校を変えたのだが、結果は駄目だった。
 高橋真純は結局塾もやめて、小学校でも見かけるだけだった。……話しかけられなかったのだ。同じ学校になってから、仲良くなろうと思ってたのもあった。自分でもおかしいと思う変な執着心が日に日に増幅して、ちゃんと会話が出来た図書館で見た笑顔が忘れられず、どうにかなりそうだったが、見ていることしか出来なかった。
 親は俺以上に打ちのめされていて、しばらくまともに話していない。
 悶々とした毎日を一年過ごした春───俺は学校を抜け出して神城学園まで来ていた。
 下校時間が近づく中、何人かの生徒が校門から出て行く。もう高橋真純は帰っただろうか、と立ち尽くす俺の前に───いた。遠目からしか見られなかったが、一瞬でわかった。
 ───背は伸びた。だがまだ小柄だ。髪は短く揃えられ、目を引くきれいな顔立ちがあらわになっている。
 すぐ前を歩いている眼鏡の生徒に何か声をかけている。少し話して、そのまま俺の前を通って走り去って行く。心臓が止まりそうだった。なんか怒っている感じもしたが、久々に間近で見た高橋真純にすべてを奪われる。
 なんだろう、どうかしたのかな、と気になったが、そのまま見送った。高橋真純と話していた人物が気になって振り返ると、いつの間にか別の人物と話している。俺は意を決して近づいた。
「───あの」
 恐々声をかけると眼鏡の人物と、がっちりした体格の人物が俺を見た。
「高橋真純……さんと友達なんですか?」
「はあぁっ?!」
 眼鏡の人物がすごい顔で突っ込みを入れる。あれ? 違うのかな、と戸惑う俺の他校の制服を二人はじっと見る。眼鏡の方が嫌そうに頭を掻きながら、ため息混じりにつぶやく。
「お前もあれか……どこがいいんだ、あれの」
 お前『も』? どこが? 反芻しながら、どういうことだろうと俺は言葉を選ぶ。
 全部奪われたのは、顔立ちだった。でもそれだけじゃない。自分の意思を強く持ってるところとか、すごく頭がいいとことか……全部が、と思う。でもその中でも面白いと思うのが───。
「その……落語好きなところ」
「─────は?」
 ぽかんとした反応が二人から入る。───しばらく沈黙があった後、眼鏡の方が体格のいい方を振り返る。
「こいつ。いいんじゃないか?」
「佐々木、俺の話聞いてたか? 適当なところでくっつけろと言ったんじゃない。そっち方面は避けたいって、言ったんだ」
「適材適所。そっち方面で片を付ける方が話が早いぞ。欲まみれのやつにどうこうされるよりいいだろ?」
「───だから」
「珍しく容姿目当てじゃないし、いいだろ」
 ギクリとしながら、目の前の会話を聞いた。どういうことだろう……容姿は、目当てといったら目当てなんだけど……。視線を二人に行ったり来たりしていると───、
「お前名前は? 何年?」
 佐々木、と呼ばれた眼鏡の方が聞いてくる。
「間宮……間宮理玖。二年だけど」
「間宮ね。いろいろ協力してやろうか?」
 ニヤリとして佐々木が言う。え? と思う俺に、連絡先教えろとスマホを出すよう促される。
「え?」
「高橋、高校ここ繰り上げするみたいだから、お前もここ受かれよ」
「え?」
「まあ話はそれからだし、お前の頑張り次第だな」
「───え?」
「佐々木、私念入ってないか?」
「入ってるに決まってるだろ、堀。とにかくこれで全部片が付く」
 ふふふ……と変な笑い方をする佐々木に、堀と呼ばれた方が諦めたように息を吐いた。
(……どういうことなんだろう)
 目を白黒させる俺に、佐々木は何かスマホに送り付けてきた。
(とりあえず)
 今やることは高橋真純と同じ学校に入ることになったらしい。
 スマホに来たのは……写真だった。高橋真純の。隠し撮りのような、図書館で見た、とびきりの笑顔の───。
「勘違いするなよ。強制的に送られてきたやつだ。それと、勉強も一緒にやってもいいぞ」
 佐々木の言葉がぼんやり耳に入るが、目はスマホに釘付けだった。
「───俺、頑張る」
 一言言って、俺は意思を固める。
 これからだ。まだ何も諦めないでいいんだ───。

 * * *

 佐々木と堀に勉強見てもらって、高校は神城学園高等部に入ることが出来た。高橋真純と同じ学校。夢みたいだった。
 佐々木にはいろいろ協力してもらった。中学時代に高橋真純が落語同好会に誘われてるのを知った。俺の他に参加出来ないように何やら佐々木が手をまわしたらしい。入学してからも同じクラスのメンバーに俺に協力するよう───言葉を選ぶと、先導した。佐々木はそういうのがとてもうまい。
 早く鳴る鼓動をおさえながら、図書室横の準備室で机に向かって待ち焦がれていた。
 控えめに音を立てて、扉が開く。
「あの、ここ落語研究会でいいんですよね?」
 聞き心地の良い声。高橋真純がそこにいた───。
(……会いたかった)
 そしてまた話したかった。
 予想通り、俺のことは覚えていなかったが、そんなことはどうでも良かった。
 手の届きそうな距離に高橋真純がいる。
 小学生の頃より大人びた印象───変な色気がにじみ出ていて、よく何もされずにいたなと思う。佐々木や堀が、手を尽くしたことを俺は知っている。
 その分、警戒心が皆無だったが、同じ趣味に喜ぶ高橋真純に(こっちもいろいろ勉強した)気分が高揚する。
 無邪気に笑う───真純に、さて、と思う。

(どうやって手に入れようか───)
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