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十章「人々はその光に、魅せられていた。」

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プロローグ。
「わぁー、きれーー」
横木千咲が最初にそう言った。
 島にはまだ着いていなかった。
だが行き道で展望台の坂を下っている時にその言葉を横木がそう口にした。
俺は横木千咲の視線の先を向いた。
どこまでも続いているような海の上に悠々しく詩野山が浮いてるように乗っかっていた。
この場所から見ると凄く小さく感じる。が、実際に行ってみるとどうなのだろう。
興味がある。
サイズを知っているのは御参りに行ってる人や祭りの運営や事情があって出向いてる人だ。
俺は10年前に九尾祭りに出向いてそれっきり行ってない。
 夜廻りの時も展望台にしか行っていなかった。
というか、早く出過ぎではないだろうか?
坂を下り歩きながら、そう考える。
天坂が早く行こと騒ぐから俺達は早く出向く事になった。
九尾祭り自体は昼から開催しているのだが、5時過ぎに着くだろう。
だが、普通に回るとすぐ回りきれてしまい、夜食含め花火大会まで時間がありあまってしまう気がするのだ。
俺は一度止めたが横木と天坂は聞かずに、司までもが乗り気だった。
俺はまた、はぁ~と、長いため息をつく。
「どーした?諷、元気ないな?」
司がニヤニヤしながら俺に聞いてきた。
「いやだって振り回される立場になって考えてみなよ…」
俺は自分でも不満そうな顔をしていると思っていながらも司にそう言った。
「いやー、でも楽しいからいいだろ~??」
司はどこか楽しんでいるようだった。
こいつの意味不明なうざったらしい絡み方もそろそろ慣れてきた。

詩野山に着いた。
島までは島と防波堤を繋ぐ橋がある。
長い橋なのだがちらほらと人が歩いていた。
本当に九尾祭りが始まるのか。
と、あまり実感はなかった。
それなのに何故だろう。
あまり懐かしく感じないのは。
なぜだろう。
最近来たかのようにこの景色を"知って"いる気がするのは。
10年前に一度来たが、最近になって来たことなんてなかった。
心の中で「何か」が引っかかるのだ。
だけどその「何か」が何なのか、俺には分からなかった。
「おーい諷ー」
そんなことをぼーっと考えていると、名前を呼ばれた事に気付いた。
「はやくはやくー」
と、天坂に焦かされる。
俺は3人の元へ、足を動かして橋の上に小走りでかけだした。

「誰だ?」

一瞬、頭の中で誰かの言葉が聞こえた。

急な違和感から頭を抱えて足を止める。
「え?」
思わず言葉が漏れてしまう。
「何だ…今のは…」

何か頭の中で景色がうっすらと見えてくる。
だがその景色は白黒の砂嵐で分からなかった。
顔までもが白黒の砂嵐で隠れていた。
誰か分からない人物に「誰だ」と聞かれたはずなのだが、その違和感は一瞬で消えた。
だけどなぜだろう。
"知っている"気がするのは。
「気のせい……か。」
と、俺は再び顔を上げてわ止めていた足を動かした。


それから俺達は祭りを楽しんだ。
会場には既に大勢の人が会場を回っていた。
やっぱり早く着きすぎたが、夕焼けの空の下提灯に照らされているこの景色もこれはこれで綺麗で飽きなかった。
だんだんと空は黒く染まっていき気付いたら空は既に黒く染まっていた。
だけど何故だろう。
やはり「何か」が引っかかる。
先程から違和感の正体が分からずぼーっとしてしまい、司から心配されていた。

「誰だ?」

大分いい時間になり、歩き回った疲れから皆でベンチに座って休憩している時だった。
また、頭の中で声が聞こえた。
そしてまた、違和感はたちくらみのようにすぐ消えていく。
「なんなんだ。さっきから。」
俺は息を荒くし頭を抱えて地面を見ながら言葉を吐き出した。
「そら、大丈夫か?」
ざわざわと人が混み合う観衆の中で横から司の声がした。
「顔色悪いぞ?」
司が俺の顔を覗き込むようにして言葉を続け心配してくれた。
「大丈夫」
せっかく来たのに、謎の体調のせいで帰る訳にはいかない。
「花火、もう少しで始まるからさ、観ようよ。皆で」
俺は帰りたくなくて強めに言葉を横に座っている司と横木に向けて放った。
「無理だけは…したら駄目だよ?」
天坂が心配そうにそう言った。
「皆~!」
後ろから俺達を呼ぶ声が聞こえた。
俺達は振り返ると、小学校低学年くらいの年齢だろうか?横木が小さな少年と手を連れて歩いていた。
「ゆう……かいーーー??……」
司が口に手を当てて驚いた。
「えっ!?ちーちゃん!?」
天坂も声を合わせて驚いた。
「違うから。」
横木はきっぱりと二人にツッコむようにそう言った。
俺はまたはぁ、とため息をついて横木に聞いた。
「なんかねー、迷子みたいなの。みんなの飲み物買いに行ったら、泣いている子を見つけて……。」
その子は右手で横木と手を繋ぎ、左手で溢れでい
る涙を拭いていた。
「迷子って…この人混みの中?」
司は人で溢れかえっているという状況を、絶望を押し付けるようにそう言った。
「探そうよ。俺達で。」
そう俺は皆に言葉を放つ。
花火より、この子を両親に届けるのが先だ。
今の俺は体調が悪い。だか、それしか無かった。
「じゃあ私とあかりは、この子を連れて迷子センターに行ってるね。その間、司と諷はこの子の親を探して」
横木は意を決してそう言った。
「お前ら、この人ゴミの中、大丈夫なのか?ここで待っていてもいいんだぞ?」
司は心配そうにそう言った。
「大丈夫!心配しないで!この子の親は絶対見つけるから!」
横木は元気に、そして笑顔でそう返した。
「そっか、いらない心配だったな。」
司は元気を貰ったように笑顔でそう言った。
「君、名前は?」
司は屈んで、少年に話かけた。
「お母さん……お母さん。」
少年はお母さんと口にする度にボロボロと涙を落としていった。
「やまと………。」
次々に溢れてくる涙を拭いて、小さな声でぽしょりと口にした。
「やまと君だね…。心配しないで。君のお母さんは絶っ対見つけるから」
司は強く、そして優しくやまと君にほほえんだ。
「ーーーうん!」
やまと君はそこで初めて笑顔を見せてくれた。
「じゃあ、約束だな。」
司は大きな手を出して、やまと君の小さな手と指切りげんまんをして、約束をした。
「よぉーし、いい子だ。」
司はそう言いながら笑顔で頭を撫でた。
こいつは本当に、いつもそうだ。
誰よりも、優しい。
見てるこっちまで笑顔を届けてくれる。
そんな奴だ。
「じゃあ、頼んだぞ千咲、天坂。」
司はそう言いながら立ち上がり、横木と目を合わせた。
「うん!任せて!」
天坂は笑顔で答えた。
「行くか。そら。」
「ああ。」
俺達はそんな少ないやりとりを交わすと天坂達に背を向けて駆け出した。
「待って!」
横木に急に呼び止められた。
司と俺はどうしたという顔をして振り返る。
「花火、絶対一緒に観ようね!」
ガヤガヤと騒ぐ観衆達の中、必死に伝えようとしている横木の声だけが聞こえた。
「うん。」
と、俺はほほえんだ。
「ああ!」
と、司は少し照れながらそう答えた。
そして俺達は、また振り返り駆け出す。
人混みに消えていくかのように。
後ろを、見ずに。
後ろは天坂と千咲とやまと君に託して。


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