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尊臣side2

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 ずっとずっと見たかった華の寝顔がこんな状態の時なんて。


 尊臣はずっと握っていた華の手を更に強く握りしめる。点滴に繋がれている華は気を失ってから三十分経っていた。いつもならあっという間に三十分が経ってしまうはずなのに今は一分が、一秒が長い。長くて苦しい。


「華、早く目を覚まして」


 気を失っただけで目が覚めるのは自分も医者だ、分かっている。それでも好きな人がこうしてなかなか意識が戻らないと不安で胸が押しつぶされそうになってしまう。


「華」


 何度も、何度も華の名前を呼んだ。


「ん……う……」


 小さな声が漏れ、華の瞳がゆっくりと開いた。


「華っ! よかった……」
「尊臣くん……あっ、私……あ、あ、あの」


 目を覚ました途端、華は何かに怯え始めた。


「華、どうした? 大丈夫か?」


 華の手を握ったまま、顔を覗き込む。うるうると揺れる瞳は大きなしずくが流れ落ちそうだ。


「……怖かったの。怖いの、男の人が」


 震える唇を華はきゅっと詰むんだ。その瞬間、一粒の雫が頬に線を作った。


「華……」
 

 女性が男の人を怖いと言う理由は大体は予想がつく。でももし、それが華にも当てはまってしまうなら? 尊臣はギリッと奥歯を噛み締めた。


「あ、悪い。俺、華の手を握って……」


 離そうとしたがギュッと力強く握られた。


「華?」


 尊臣は不思議そうに華を見た。


「……いい。なんでだろ、尊臣くんの手は安心できた、から……」


 ズキンと心臓が痛んだ。


(昔からツンデレだったけど、大人になった華はツンデレ度が増してる……か、可愛すぎるだろう)


 抱きしめたくなる衝動を必死に抑え込んで尊臣は華と繋がっている手にもう片方の手を乗せた。


「そうか。なら、よかった。もう少し寝てな、呼び出しが来ない限りまだここにいるから」
「……うん、ありがとう」


 ふっと小さく笑った華はそのまますぐに眠りについた。しばらく華の寝顔を眺めてからそっと繋がっていた手をほどく。


「華のことはこれから俺が守るから」


 そっと耳元に囁きかけ、額にキスを落とした。


 守るから。それと同時に何年も離れていて華を守れなかった自分に心底腹がたった。
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