高嶺の花と呼ばれた君を僕の腕の中で包みたい

森本イチカ

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気がついた自分の気持ち3

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 あったかい煮込みうどんは落とし卵が半熟で疲れた身体に染み渡る優しい味だった。


「華、ホットココアでよかった?」


 ソファーに座る華の前に尊臣は甘い匂いが漂うホットココアを差し出した。初めて入る男性の部屋も尊臣の部屋だったからか、ドキドキと胸が高鳴るくらいで、息が苦しくなったりすることはなかった。


「うん。ありがとう」


 華がココアを受け取るとギシッとソファーが沈んだ。少し動けば尊臣の肩が当たる距離。こんなに近くても怖くない。それどころかもっともっと近くに行きたい。尊臣の熱を感じたい。尊臣に好きな人がいることは分かっているけれど、誰にも尊臣を取られたくない。


「尊臣くん」
「ん?」


 尊臣は優しい瞳で華を見た。


「好き」


 華はしっかりと尊臣を見る。尊臣のキラキラした瞳に自分を映して欲しい。一度口にしてしまうと縫い目が解けたようにポロポロと感情が口から溢れ出す。


「好き。尊臣くんが好き。誰にも渡したくないの。尊臣くんに好きな人がいるってことは知ってるんだけど、それでも好き。好きになっちゃったのよ」


 じわりと目頭が熱くなる。今なら亜香里の気持ちが分かるかも知れない。好きな人に好きだと伝えることがどんなに大変で勇気のいることか。気を緩めたら涙がこぼれてしまいそうだ。


「バカ。俺だって華のことを誰にも渡したくないよ」


 ――え?


「好きだ。華。ずっとずっと華のことが好きだった」


 尊臣の好きな人って……


 今、尊臣の瞳に映っているのは間違いなく自分だ。


「尊臣、くん……んっ」


 きつく抱き寄せられ唇が重なった。柔らかくて温かい。全く嫌じゃない。それより自分でも驚くほどに尊臣に触れていることが嬉しくて、華は尊臣の背に手を回した。


「んっ……ふっ、ん……」


 尊臣の舌は華の口腔内を味わうように動き回り始めた。優しく包み込まれるように唇を喰まれながら動く尊臣の舌が口蓋を擦りたて、身体の芯がぞくぞくする。怖くてじゃない。歓喜で身体が震えているのだ。


 ゆっくりと尊臣の唇が離れていく。尊臣の赤く艶めいた唇がそっと開いた。


「華、ずっと好きだった。俺が日本に戻ってきた理由は華だよ。俺がアメリカに行くときの約束を守るために、やっと日本に戻ってこれたんだ。遅くなっちゃたけどな」
「……約束」


 ってなんだっけ? 尊臣との別れのときは泣きすぎてあまり記憶がない。首から下げているネックレスをもらったことまではちゃんと覚えているのだが、その時尊臣がなんて言ったのかはよく聞こえなかった。 


 尊臣は何かを察したかのように小さく微笑んだ。


「やっぱり華は忘れてるか。俺も医者になって華を必ず迎えに行くって約束したじゃねぇか」


 俯きかけた華の顎を尊臣はそっと手を添えて持ち上げると、視線を混ぜ合わせた。


「ごめん、私あの日のこと泣きすぎてあんまり覚えてなくて」
「ん、華は泣き虫だもんな。俺が覚えてたからいいんだよ。華が誰のものにもなってなくてよかった。っても誰かのものになっても奪う気満々で帰国したんだけどな」
「尊臣くん……」


 サラリと尊臣の黒髪が華の首元をくすぐる。


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