【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

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第八章

364 アーサー不在の今

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( ユーリス )


「 ……なるほど。

レオン君にとって、その ” 欲しいモノ ” とやらを与えてくれるのがリーフ様ということですか。


……しかしリーフ様は怖くはないのでしょうか?


俺はあんな恐ろしい力を持った存在、同じ空間にいるだけでも震えてしまうというのに……。 」


「 あ~、あいつね!それが全然平気なんだよ。

普通に接してるし、なんなら休憩中は猫の子みてぇに二人でくっついて寝てるし……夜寝る時くらいじゃね?離れてるの。

しかもちょっと前なんて街中でレオンが怒ったのかなんだか知らんが、もの凄い殺気をリーフに向かって出したことがあってな~。

その時リーフがそれを浴びて倒れたんだ。

────で、その直後イザベルがその話題をふったんだよ。


そしたら……。

” 街中で正体不明の殺気が発生したらしいですよ ”

” 何何~?何だか物騒だね。 ”

────って本気で忘れて心配してんの!


しかも ” レオンも連れて皆で夜パトロールに…… ” とか言ってるもんだから、思わずリーフの背後にいるレオン見ちゃったよな~。

犯人そこで~す!って言いたかったけど、俺ちびってノーパンだったから言えなかったわ。

ズボンまで濡れたら困るし。 」


後半の気持ち悪い話に意識がいってしまい、一瞬内容が頭の中に入ってこなかったが、要するにリーフ君は大丈夫ということらしい。


殺気を向けられて倒れて、それで忘れてしまえるのか……。


それはそれで大丈夫なのだろうか?と考えた俺の脳裏には、世界を壊せる大魔法の発射装置でキャッチボールを始めてしまった猿が思い浮かぶ。


俺は片手で目元を覆うと、あ~……────とうめき声に近い声を上げ、この先に待ち受けるであろう数々の予測不能な事態を想像し頭を抱えた。


まさか今の国の情勢でこんなダークホース的な存在が新たに出てくるとは……。


ズキズキと痛む頭を抱えながら、呑気に鼻歌まで歌いだしたドノバンさんに言った。


「 とりあえず今のレオン君の状況については理解しました。

不安しかありませんが、まぁ、それは一旦置いておくとしても、その存在が公になるのは非常にまずいですね……。

レオン君の事がメルンブルク家にでもバレればリーフ様はさらに狙われるでしょう。

彼が亡くなれば奴隷の所有権は当主のカール様に移りますから……。

いくらレオン君が強いとはいえ、エドワード派閥の数と権力の力、それに何よりあのしつこさと陰湿さから何をしてくるか分かりませんよ。

レオン君がアチラに奪われては大変な事に……。 」



「 お~、それなら当分は大丈夫だろう。

流石に ” 一番の切り札 ” 的存在をこうもあっさり失ったんだ。

コレほどの被害を受けちゃ~直ぐに動けねぇだろうよ。

それにカルパスが嫌ってほど傭兵ギルドに線を張ったからな。

エドワード派閥は、当分傭兵ギルドは利用できなくなるぜ~、はっ、ザマァ!  」


はっはっはっ~!と三日月の様に目を細めて嫌な高笑いをするドノバンさんに余計頭が痛くなりそうだったが、突然ピタリと笑いを止め困ったような表情に変わる。


「 まぁ、そういう事だからレオンとリーフの事は内密に頼むわ。

師匠としては弟子に普通の学生生活っつーのをさせてやりてぇからよ。

せっかくの学生生活、青春!目一杯楽しむべし~!ってな!


……それに、他にも何か大事なものが見つかるかもしれねぇしな。 」


「 ? 」


最後の言葉はよく聞こえなかったが、どうせまた下ネタ的な事だろうと聞き流し、俺は移り変わっていく窓の外の景色に目を向けた。


現在アーサー様は、ドノバンさんのご子息兼第二騎士団団長のアルベルトさんと共に、他国を周りながら地盤づくりをしている真っ最中。

そんなアーサー様が帰ってくるまで、俺達はなんとしても今の現状を守らねばならない。


この国は元々身分に重きを置いた絶対身分制度を掲げている国であるため、大部分の貴族、特に高位の貴族の殆どが同じく身分に価値観の全てをおいているエドワード側についている状況である。

そんな中でいくら下の者達の大部分が心の中でそれに反対してようが、結局は上が「 右 」といえば右に行かざるを得ないのは集団の致し方ない事といえるだろう。


大事な者がいればいるほど、それに逆らうことは出来ずある程度のことは────。

「 仕方がない 」

「 それで家族や大事な人達が無事に暮らせていけるなら……。 」

そう不当な扱いを受けてもそれを飲み込み、より酷い扱いを受けている者を見てその心を慰める。


"  自分はマシな方である  "


その状況に一種の満足感を得てしまえば、いつしか変化事態を望まなくなり、気がつけばその ” 悪に都合の良い世界 ” を守る盾にされてしまうのだと、アーサー様は言っていた。


そして、その心理を巧みに利用しているのが黒幕達であるとも……。


馬車の外に見える景色をぼんやりと見ていると、自然豊かに続いている平野、それを飾る色とりどりの花たちと木々、周りを走る別の馬車からは笑顔で話し合う客達の姿が見え、それに笑みを溢したが────……。


瞬きした瞬間、そこは真っ赤な世界へと姿を変えた。


焼けただれた大地に、花どころか草木の一本も生えていない景色と、周りを飾るは死体の山々。


エドワードが王になどなればこの景色が現実のものとなってしまう。


現実を否定する様に、俺は両目をソッと瞑った。


自分の苦労なしに簡単に叶ってしまう欲望は、いつしか上しか見ることができなくなり、それを満足させるため最終的に辿り着く道こそ ” 奪う ” 事。


そしてそれを叶えるために使われるのが ” 下 ” の者達で、家族や大切な人を守る為、彼らは持ちたくもない武器を持つ。

止めるべきは奪おうとする ” 上 ” の者達。

それは全員分かっていても、目の前に襲い来る敵を倒さねば自分と大事な者達が殺されるため、戦わざるを得ない状況に追い込まれてしまう。


相手に個人的な憎しみなど一つもない。

それでも大事な者達を守るため戦わなければならない。


それが ” 望まぬ者達 ” の戦いだ。


自然と手に力が入り、拳を強く握る。


どうにかしなければと思っても、そこまでいってしまえば逃げることはできない。

ましてや大事な者達が背後にいる状況かつ、さらにその者達の首に ” 上 ” の者達がナイフを突きつけてる状況では。


得をするのは安全な場所にいる ” 上 ” の者達だけで、身を切り戦った者たちの手に残るのは────……。




” 知能を持つという代償だね、人の歴史が戦いの歴史であるということは。 ”

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