【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

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第二十章

694 一つの選択

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(アゼリア)

ささやく声が耳から脳に入る度、心が、身体が沸騰する様に熱くなる。

すると、『戦いたい!』『抗いたい!』そんな好戦的な自分の心が見えてきた。


母を苦しめ、不幸にした存在は────私ではないっ!!!本当に怒りをぶつけるべき相手は────……。

ズンズンと『私』に近づいていくと、焦った顔の『私』の顔はぐにゃぐにゃとスライムの様に崩れていき、父の顔に変わった。

恐怖に引きつった顔をしている父の顔を、私はワシっ!!と鷲掴むと、そのままミチミチィ~ッ!と力を入れて締め上げていく。


「皆幸せ……悪いのは私……。」


そうポツリと呟くと、父はそうだと言わんばかりに首を大きく縦に振ったが────私はカッッ!!と目を大きく開けて大声で叫んだ。


「一番悪いのはお前ではないかっ!!!!人に罪をなすりつけるな!!このゴミクズ男がぁぁぁぁ────!!!!」


そして怒りのまま囲まれている壁に父を叩きつけふっ飛ばしてやった。


ドカ────ンッ!!

そのせいで、大きな破壊音と共に壁は崩れ去り外の世界が見えると、そこは見渡す限り何もない、一面灰色の世界であった。


「何もない……。」


ボソッと呟き、その広いだけの景色を眺めていたが、不意にその景色の中にぽつんと残されている人のモノらしき足跡を見つける。

今度はそれを見つめていると、なんとその足跡は増えていき、ぴょんぴょんとアチラコチラへフラフラしながら、遠くの方へと去っていってしまった。


まるで遊び回っているみたいだ……。


それを見たら、何だかここが楽しい場所の様に思えてきて、私も色々見て回りたいと思った。


きっとこの足跡の主は誰かを待たないし、手も差し伸べない。
                     
そして我こそは正しいという完成された他の『世界』に連れて行こうとはせず、邪魔する全てがないこの世界だけをポンッとくれて行ってしまったのだろうと思う。


「人に正しさを問うな、自分の足で色々探しに行け……って事か。」


────ふよっ……。

ポツリと呟いた瞬間、まるでそれが正解だと言わんばかりに優しい風が頬を撫でてきて、ワクワクと踊り出したい気持ちになった。


私は周りが揃って言う『正しくない私』のまま、それを肯定も否定もしないこの自由な場所で、これからゆっくり『自分にとっての正しさ』を探していこう。


助けを求める事もできるであろう手を拳に変え、それを見つけに行くための『力』に変えると、それが酷く自分の心にしっくり来るような不思議な感覚をくれた。


差し出される手を取るより、この方がきっと私らしい。


そして握った拳は光となってあっという間に一面灰色の世界へと広がっていくと、それがあまりに眩しくて目をギュッと瞑る。

そして────……。



────……パチっ。

次に目を開けると、視線の先に写るのは教会の白い床で、私はパチクリと目を大きく開けた。


何だか長い夢を見ていたような……?


そんな不思議な感覚を抱きながら、でも心は非常に晴れやかで……。

私は勢いよく立ち上がり、その場で大声で叫んだ。


「悪いのは全部父!!次いで義理の母親、そしてクラークでした!!
私は八つ当たりをされていただけです!
完全に目が覚めました!今は、何だかとてつもなく晴れやかな気持ちです。」


のちに周りの者達から聞いた話だと、嫌がる母を暴力や権力で脅し関係を強要したのは父であったと聞いた。

父は自分が責められたくないため、義理の母は浮気された怒りと悲しみを紛らわすため、そしてクラークは家族の仲を壊したくないため。
               
そんな想いから逃げるため、私を使だけだった。


その理不尽な悲しみと怒りを私にぶつける事で、家族の調和は保たれる。

そして周りで働く従事者達は、私を悪く言ったり扱えば主人の機嫌は良いし褒めて貰えると、自分の得のために、よってたかって私を攻撃した。


これは全部、八つ当たり。

私はただの八つ当たりを正しいと信じ、自らあんな狭い場所に閉じこもろうとしていたのか。

────バカみたいだ。


「…………ふぅ~。」


大きく息を吐き出し、スッキリとした顔をしている私を見て、ソフィア様は驚いた様に目を見開いたが、直ぐにフフッと笑う。


「その通りです。答えが出たのなら本当に良かったわ。」


ソフィア様も、私を無理に自分の世界に引っ張ろうとしなかった。

これが『正しい』あれが『正しい』。

だからこうするべきだ!────とは、決して言わずに、こうして自分の答えが出るまで側にいてくれた。

今までの、そんな日々にも多大な感謝を抱く。


「私は絶対にリーフ様にお尻を叩かれたくないので、怒りをぶつける相手をもう絶対に間違えません。
目指すは『ヤマトナデシコ』です。
早く心も身体も強い女性になりたいものですね。まだまだ精進せねば……。」


眉を寄せて険しい顔を見せると、ソフィア様は先程のお尻叩きを思い出しマービン様の姿を自分に重ねたのか、フルっ……と小さく震えていた。


「私も精進しなければなりませんね。お尻を叩かれたくないので。」


グッ!と眉を寄せてそう誓ったソフィア様は、その後ゆっくり天井を見上げる。


そこには大きな絵が天井一杯に描かれていて、私もそれに釣られて同じくその絵が描かれている天井を見上げた。


白き小さな太陽を横に、白銀の美しい髪を靡かせたイシュル神が羽の生えた愛馬に跨り力強く飛び立とうとしている姿の絵。

その美しい姿に魅了されついつい魅入っていると、ソフィア様がポツリポツリと語りだした。


「リーフ様は本当に不思議なお方だわ。
最初は国の脅威となりうるレオン様を警戒していたのに……私、さっきまでレオン様に感じていた恐怖を忘れていた事に気づいたの。
何だかリーフ様を通して見える世界って、全然形が違う気がするのよ。
だから今まで凄く悩んでいた事も、それから見ると大したことない様な気がして……。」


そう言ってソフィア様は、以前リーフ様に撫でられた自身の頭をサスサスと擦り、恥ずかしそうに目を閉じる。


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