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第二十二章
744 流されるだけ
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(クラーク)
「…………。」
今も鳴る小うるさいその音から耳を塞ぎ、俺の意識は現実へともどる。
そして前を歩くジェニファー様の背を見つめながら、これから顔を合わせる予定の<マービン>様の事を考え、何度目か分からないため息をついた。
穏やかな授業になる事はないということは、マービン様と俺同様何度かお会いしているジェニファー様も分かっている事。
特に最近、大司教はエドワード派閥と積極的に接触を図っているため、マービン様との距離も自然と近くなっている。
お父様に迷惑が掛かる事を最も嫌うジェニファー様にとってマービン様は下手な事が言えない、気を抜けぬ相手だ。
同じ物を見て同じ事を思い同じ愉快を感じられる、そんな関係性であったら良かったが、生憎俺もジェニファー様もまだそこには到達できていない。 ・・
それどころか覚悟ですら……。
────ドロッとした不快な気持ちと、モヤモヤする心とコツコツ中から聞こえる叩く音が気持ち悪い。
騒がしい自分の心の中で気分を害しながら闘技場に到着すると、マービン様はその直ぐ後に入ってきた。
相変わらずの嫌な笑みをその顔に浮かべ、ジロジロと品定めする様な目を周囲に走らせながら、まずはソフィア様に挨拶をする。
中立派のソフィア様と、エドワード派閥の筆頭であるマービン様。
二人の間には、表面上は穏やかにしつつも激しい火花が散る。
それを物ともしないマービン様はソフィア様に対し『お互いの派閥の中での立場』を言葉を濁しつつ口にした。
そして「お互い国のため、国民のため身を粉にして頑張りましょう。」などと薄ら寒いセリフを吐き、今度はこちらの方へ。
そしてジロジロとジェニファー様を上から下まで舐めるように見つめた後は、優雅で完璧なお辞儀をしペラペラと喋り始める。
「これはこれはジェニファー様。
相変わらず輝くような美しさで、このマービンは太陽が落ちてきたのかと思ってしまった程です。
最近ではお父様のグレスター様とお話する機会も多くなりまして……。
これからは末永~く『良い』お付き合いができればと思っております。
何と言ってもジェニファー様は、そこいらにうじゃうじゃいる虫けらの様な女共とは違う存在ですからね!!
共に選ばれた者同士、どうか仲良くしてください。」
ニコッと笑う笑顔の下で『自分の邪魔をするな』という強い主張を感じる。
それを勿論感じ取っているジェニファー様が、当たり障りのない言葉を返すと、後ろに控えている二人の専属従者と共にニヤッと笑い、俺に対しては『分かったな?』という念を押す様な目で睨みつけた。
「それではグレスター様のためにも、これからは友好な関係性を築いていきましょうね。」
そう言い残すと、マービン様は場を去っていったのだが……その姿が消えたのと同時に、俺の眉間に皺が寄る。
「……相変わらず嫌な男だ。」
思わずボソッと小さな声で呟いてしまうと、ジェニファー様に軽く咎められてしまったが、やはり好きにはなれないと思った。
あんな男と同じ志を持って生きていくのか。
そう思えば心底嫌になるが、大事な物を守っていくには『猛毒』も飲み込み、見て見ぬふりをし続ける必要がある。
「────仕方ない……。」
いつもの様にそう言い聞かせていると、続けてフッ……と頭を過ぎったのは『この空虚な時間はいつまで続くのだろうか?』という疑問だ。
しかし、答えは考えるまでもなく一瞬で出てしまった。
この先の人生全て────だ。
ゆっくり、ゆっくり……。
流されて流されて……。
アゼリアの事で俺の中で確かに何かが変わったが、人間の本質や染み付いた生き方というものは、そう簡単に変えられるものではない。
だから俺は正体不明の叩く音を完全に意識から外し、罪悪感に蓋をしてまた楽な方へと流されていく。
それがこのクラークの持って生まれた本質なのだと思う。
きっとこれが無くなる時は、俺が死ぬ時だけだ。
だから、その直後にマービン様が案の定問題を起こし始めても、俺はボンヤリと突っ立ったままそれを眺めていた。
『服を脱いで踊ってみせろ。』
『それくらいしかできる事はないだろう?』
『自信を持っているモノを見せつけるチャンスをやる。』
そんなめちゃくちゃな理論を、平民の女生徒達に高圧的に言い放つ。
泣きそうになっている平民の女子生徒達をどうにかしてあげたいと思っても、マービン様より立場が下の俺や、そもそもの身分の土台が違うジェニファー様が苦言を申し立てれば、返り討ちにされてしまう。
マービン様はその事をよく知っていて、更に法律に引っかかってしまう様なやり方はしない。
『自らの手は触れない。』
『怒鳴りつけるなどの脅し行為をしない。』
それを守り『あくまで相手が勝手にやった。』というスタンスを崩さない様、優しく穏やかな声で『脅迫』するのだ。
これでは手の出しようがない。
「…………っ。」
心の中に嫌な気持ちが広がっていくのを感じているのに、それに対して何もできる事はないんだと心の中で言い訳をする。
そして『仕方がない、仕方がないんだ。』
そう言う度に、心の中を叩く音は静かになっていった。
しかし、それと同時に何だか心がフワッと楽になっていく様な感じがして…… 最終的には『楽なら楽でこれが正しいのではないのか……?』、そんな気持ちにさえなっていく。
ズブズブと何かに沈もうとする心と共に、目をゆっくりと閉じようとした、その時だった。
マービン様の狼狽える声が聞こえたのは。
「…………。」
今も鳴る小うるさいその音から耳を塞ぎ、俺の意識は現実へともどる。
そして前を歩くジェニファー様の背を見つめながら、これから顔を合わせる予定の<マービン>様の事を考え、何度目か分からないため息をついた。
穏やかな授業になる事はないということは、マービン様と俺同様何度かお会いしているジェニファー様も分かっている事。
特に最近、大司教はエドワード派閥と積極的に接触を図っているため、マービン様との距離も自然と近くなっている。
お父様に迷惑が掛かる事を最も嫌うジェニファー様にとってマービン様は下手な事が言えない、気を抜けぬ相手だ。
同じ物を見て同じ事を思い同じ愉快を感じられる、そんな関係性であったら良かったが、生憎俺もジェニファー様もまだそこには到達できていない。 ・・
それどころか覚悟ですら……。
────ドロッとした不快な気持ちと、モヤモヤする心とコツコツ中から聞こえる叩く音が気持ち悪い。
騒がしい自分の心の中で気分を害しながら闘技場に到着すると、マービン様はその直ぐ後に入ってきた。
相変わらずの嫌な笑みをその顔に浮かべ、ジロジロと品定めする様な目を周囲に走らせながら、まずはソフィア様に挨拶をする。
中立派のソフィア様と、エドワード派閥の筆頭であるマービン様。
二人の間には、表面上は穏やかにしつつも激しい火花が散る。
それを物ともしないマービン様はソフィア様に対し『お互いの派閥の中での立場』を言葉を濁しつつ口にした。
そして「お互い国のため、国民のため身を粉にして頑張りましょう。」などと薄ら寒いセリフを吐き、今度はこちらの方へ。
そしてジロジロとジェニファー様を上から下まで舐めるように見つめた後は、優雅で完璧なお辞儀をしペラペラと喋り始める。
「これはこれはジェニファー様。
相変わらず輝くような美しさで、このマービンは太陽が落ちてきたのかと思ってしまった程です。
最近ではお父様のグレスター様とお話する機会も多くなりまして……。
これからは末永~く『良い』お付き合いができればと思っております。
何と言ってもジェニファー様は、そこいらにうじゃうじゃいる虫けらの様な女共とは違う存在ですからね!!
共に選ばれた者同士、どうか仲良くしてください。」
ニコッと笑う笑顔の下で『自分の邪魔をするな』という強い主張を感じる。
それを勿論感じ取っているジェニファー様が、当たり障りのない言葉を返すと、後ろに控えている二人の専属従者と共にニヤッと笑い、俺に対しては『分かったな?』という念を押す様な目で睨みつけた。
「それではグレスター様のためにも、これからは友好な関係性を築いていきましょうね。」
そう言い残すと、マービン様は場を去っていったのだが……その姿が消えたのと同時に、俺の眉間に皺が寄る。
「……相変わらず嫌な男だ。」
思わずボソッと小さな声で呟いてしまうと、ジェニファー様に軽く咎められてしまったが、やはり好きにはなれないと思った。
あんな男と同じ志を持って生きていくのか。
そう思えば心底嫌になるが、大事な物を守っていくには『猛毒』も飲み込み、見て見ぬふりをし続ける必要がある。
「────仕方ない……。」
いつもの様にそう言い聞かせていると、続けてフッ……と頭を過ぎったのは『この空虚な時間はいつまで続くのだろうか?』という疑問だ。
しかし、答えは考えるまでもなく一瞬で出てしまった。
この先の人生全て────だ。
ゆっくり、ゆっくり……。
流されて流されて……。
アゼリアの事で俺の中で確かに何かが変わったが、人間の本質や染み付いた生き方というものは、そう簡単に変えられるものではない。
だから俺は正体不明の叩く音を完全に意識から外し、罪悪感に蓋をしてまた楽な方へと流されていく。
それがこのクラークの持って生まれた本質なのだと思う。
きっとこれが無くなる時は、俺が死ぬ時だけだ。
だから、その直後にマービン様が案の定問題を起こし始めても、俺はボンヤリと突っ立ったままそれを眺めていた。
『服を脱いで踊ってみせろ。』
『それくらいしかできる事はないだろう?』
『自信を持っているモノを見せつけるチャンスをやる。』
そんなめちゃくちゃな理論を、平民の女生徒達に高圧的に言い放つ。
泣きそうになっている平民の女子生徒達をどうにかしてあげたいと思っても、マービン様より立場が下の俺や、そもそもの身分の土台が違うジェニファー様が苦言を申し立てれば、返り討ちにされてしまう。
マービン様はその事をよく知っていて、更に法律に引っかかってしまう様なやり方はしない。
『自らの手は触れない。』
『怒鳴りつけるなどの脅し行為をしない。』
それを守り『あくまで相手が勝手にやった。』というスタンスを崩さない様、優しく穏やかな声で『脅迫』するのだ。
これでは手の出しようがない。
「…………っ。」
心の中に嫌な気持ちが広がっていくのを感じているのに、それに対して何もできる事はないんだと心の中で言い訳をする。
そして『仕方がない、仕方がないんだ。』
そう言う度に、心の中を叩く音は静かになっていった。
しかし、それと同時に何だか心がフワッと楽になっていく様な感じがして…… 最終的には『楽なら楽でこれが正しいのではないのか……?』、そんな気持ちにさえなっていく。
ズブズブと何かに沈もうとする心と共に、目をゆっくりと閉じようとした、その時だった。
マービン様の狼狽える声が聞こえたのは。
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