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第二十四章
809 灰色の世界と背中
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(ソフィア)
ヨセフ司教の声が聞こえ、自身の思考を振り払って足を踏み入れる────その前に、私は窓の方へ視線を向ける。
「ヨセフ司教、窓を全て開けても良いでしょうか?」
私の願いを聞きヨセフ司教とアゼリアは首をかしげたが、続く私の言葉に悲しげな表情を見せた。
「私が犠牲にしてしまう人々と街を、最後の瞬間まで感じていたいのです。」
ヨセフ司教とアゼリアは私の我が儘を叶えようと、全ての窓を開けてくれる。
すると外から漂ってくるのはドロリドロリとした気味が悪い空気で、先程よりその空気が濃厚になっている様に感じた。
孵化の時は近い。
願いを聞き入れてくれた二人にお礼を言い、光り輝く魔法陣をぼんやりと見下ろしながら、私はこの街での思い出を振り返る。
ここグリモアは私にとってとても大事な場所であった。
アゼリア以外の友達が初めてできた場所。
他にも下らない事で初めて心から笑った事、自身の興味ある事をお互い気が済むまで語り合った事。
王女ではない自分を初めて出せた大切な大切な居場所……。
それを思い出しながら両手をギュッと強く握りしめる。
その場所は、今日この世界から永遠に消え去る。
そして決して元に戻る事はないだろう。
学院での事、教会での事、父の事、ヨセフ司教の事、その全てを思い出しながら心はどんどんと重苦しくなっていく。
私は自分が助かるために、自分の大切な者達や関係のない罪なき人々を犠牲にする。
それを、ずっと抱えて生きていかなければならない。
苦しさに耐えきれず胸元を思わず押さえたが、きっとこの苦しさは一生続いていくのだ。
今まで私のために命を散らしていった聖兵士達によって私の体も心もとうに潰れているというのに……。
これが終わったら、私はどうなるの……??
ゾッと背筋を凍らせる様な恐怖を感じながら、絶望に覆われた心から沢山の感情が飛び出していった。
そして最後に飛び出してきた感情は真っ黒でドロドロした塊で、それが私の世界を覆っていく。
この事態を引き起こした者達が憎い。
その命だけでは足りないほどに────……。
────ドクンっ……ドクンっ……。
心臓がまるで口から出てきそうなほど拍動し始めると、突然アゼリアの焦った様な声が聞こえた。
「そっ、空が……またっ……!?」
声に導かれる様に、ドロリと黒く濁ったままの瞳を窓の外に向けると、空が真っ黒に染まっていく様子が見えた。
まるで憎しみが世界を覆っていくみたい。
何故かそれに愉快を感じ、フフッと笑いながら黒い空を見つめていると、やがて正門の方でその黒い塊がどんどん凝縮していった。
「あ……あれが卵から生まれたモノですか。
なんと禍々しい姿……。黒い蝶とはなんとも不気味な姿ですねぇ。」
ヨセフ司教がボソリと呟くと、あっという間に汚染されてしまった空気が口から肺に入り込み、ゲホッ!と大きくむせてしまった。
アゼリアが慌てて駆け寄ってきてくれて背中を擦りながら「ソフィア様、急ぎましょう。」と言って魔法陣に視線を移す。
いよいよ時間切れ。呪災の卵は孵化してしまった。
世界を呪う化け物を倒すにはこの方法しかない。
ドロリ……ドロリ……。
真っ赤に熟れて腐り落ちていく果実の様に心の形が変わっていくのを感じ、何故かそれが心を落ち着かせてくれる。
そして何かに押し出される様に、足を一歩前に出そうと持ち上げた。
『じゃあソフィア様のぉ~ニックネームは何?』
サイモンさんがレオン様に尋ねる。
『王女?』
『金色……?』
レイドさんとメルさんが悩まし気な様子でそう言ったが、レオン様の口から飛び出た言葉は────……。
『────────。』
これが私の────…………?
────────パンッ!!!
突然誰かが大きく手を叩く様な音が聞こえて、ハッ!と意識が一瞬逸れると、今度はまた違う声が割り込む様に聞こえてきた。
『歴史書をキラキラした目で見ているソフィアちゃんや、わたあめを食べて無邪気に笑うアゼリアちゃんが普通になるくらい平和になるといいね!』
何かに気づきそうになった私を遮る様な声。
その直後、目の前にあったはずの魔法陣もアゼリアとヨセフ司教も消えていて、周りは一面灰色の世界に。
ここは────???
黒い塵の様なモノが雪の様に降り注ぐ中、周囲をキョロキョロと見渡すと、直ぐ目の前に見知った背中がある事に気づいた。
「リ……リーフ様……? 」
何度も見てきた小さな背中の持ち主は、リーフ様のものだ。
一体なぜこんな所に?
その背中に向かって問いかけたが、リーフ様は何も答えてくれずそのまま前に歩き出してしまう。
「ま、待って……!」
必死に叫び駆け寄ろうとしたが……。
────グシャッ……!!
私の足はまるで腐ったトマトの様に潰れてしまい、そのまま前に倒れ込んでしまった。
ぐにゃぐにゃになってしまった私の足。
よく見れば私の手も、体も顔も全てがブヨブヨして直ぐにでもドロリと溶けてしまいそうになっていた。
倒れ込んだまま動くことのできない無様な自分を見て、ぼんやりと思った。
あぁ、心の形を失ってしまえば、自分はもう前に進めないのか……と。
「────ソフィア様!!」
片足を上げたままぼんやりしてしまった私に、アゼリアが大声でその名を呼ぶ。
その瞬間、灰色の世界は消え真っ赤な光を放つ魔法陣が目に入った。
そして、窓の外には真っ黒い蝶の形をした呪いの化け物が……。
今のは……夢??
ヨセフ司教の声が聞こえ、自身の思考を振り払って足を踏み入れる────その前に、私は窓の方へ視線を向ける。
「ヨセフ司教、窓を全て開けても良いでしょうか?」
私の願いを聞きヨセフ司教とアゼリアは首をかしげたが、続く私の言葉に悲しげな表情を見せた。
「私が犠牲にしてしまう人々と街を、最後の瞬間まで感じていたいのです。」
ヨセフ司教とアゼリアは私の我が儘を叶えようと、全ての窓を開けてくれる。
すると外から漂ってくるのはドロリドロリとした気味が悪い空気で、先程よりその空気が濃厚になっている様に感じた。
孵化の時は近い。
願いを聞き入れてくれた二人にお礼を言い、光り輝く魔法陣をぼんやりと見下ろしながら、私はこの街での思い出を振り返る。
ここグリモアは私にとってとても大事な場所であった。
アゼリア以外の友達が初めてできた場所。
他にも下らない事で初めて心から笑った事、自身の興味ある事をお互い気が済むまで語り合った事。
王女ではない自分を初めて出せた大切な大切な居場所……。
それを思い出しながら両手をギュッと強く握りしめる。
その場所は、今日この世界から永遠に消え去る。
そして決して元に戻る事はないだろう。
学院での事、教会での事、父の事、ヨセフ司教の事、その全てを思い出しながら心はどんどんと重苦しくなっていく。
私は自分が助かるために、自分の大切な者達や関係のない罪なき人々を犠牲にする。
それを、ずっと抱えて生きていかなければならない。
苦しさに耐えきれず胸元を思わず押さえたが、きっとこの苦しさは一生続いていくのだ。
今まで私のために命を散らしていった聖兵士達によって私の体も心もとうに潰れているというのに……。
これが終わったら、私はどうなるの……??
ゾッと背筋を凍らせる様な恐怖を感じながら、絶望に覆われた心から沢山の感情が飛び出していった。
そして最後に飛び出してきた感情は真っ黒でドロドロした塊で、それが私の世界を覆っていく。
この事態を引き起こした者達が憎い。
その命だけでは足りないほどに────……。
────ドクンっ……ドクンっ……。
心臓がまるで口から出てきそうなほど拍動し始めると、突然アゼリアの焦った様な声が聞こえた。
「そっ、空が……またっ……!?」
声に導かれる様に、ドロリと黒く濁ったままの瞳を窓の外に向けると、空が真っ黒に染まっていく様子が見えた。
まるで憎しみが世界を覆っていくみたい。
何故かそれに愉快を感じ、フフッと笑いながら黒い空を見つめていると、やがて正門の方でその黒い塊がどんどん凝縮していった。
「あ……あれが卵から生まれたモノですか。
なんと禍々しい姿……。黒い蝶とはなんとも不気味な姿ですねぇ。」
ヨセフ司教がボソリと呟くと、あっという間に汚染されてしまった空気が口から肺に入り込み、ゲホッ!と大きくむせてしまった。
アゼリアが慌てて駆け寄ってきてくれて背中を擦りながら「ソフィア様、急ぎましょう。」と言って魔法陣に視線を移す。
いよいよ時間切れ。呪災の卵は孵化してしまった。
世界を呪う化け物を倒すにはこの方法しかない。
ドロリ……ドロリ……。
真っ赤に熟れて腐り落ちていく果実の様に心の形が変わっていくのを感じ、何故かそれが心を落ち着かせてくれる。
そして何かに押し出される様に、足を一歩前に出そうと持ち上げた。
『じゃあソフィア様のぉ~ニックネームは何?』
サイモンさんがレオン様に尋ねる。
『王女?』
『金色……?』
レイドさんとメルさんが悩まし気な様子でそう言ったが、レオン様の口から飛び出た言葉は────……。
『────────。』
これが私の────…………?
────────パンッ!!!
突然誰かが大きく手を叩く様な音が聞こえて、ハッ!と意識が一瞬逸れると、今度はまた違う声が割り込む様に聞こえてきた。
『歴史書をキラキラした目で見ているソフィアちゃんや、わたあめを食べて無邪気に笑うアゼリアちゃんが普通になるくらい平和になるといいね!』
何かに気づきそうになった私を遮る様な声。
その直後、目の前にあったはずの魔法陣もアゼリアとヨセフ司教も消えていて、周りは一面灰色の世界に。
ここは────???
黒い塵の様なモノが雪の様に降り注ぐ中、周囲をキョロキョロと見渡すと、直ぐ目の前に見知った背中がある事に気づいた。
「リ……リーフ様……? 」
何度も見てきた小さな背中の持ち主は、リーフ様のものだ。
一体なぜこんな所に?
その背中に向かって問いかけたが、リーフ様は何も答えてくれずそのまま前に歩き出してしまう。
「ま、待って……!」
必死に叫び駆け寄ろうとしたが……。
────グシャッ……!!
私の足はまるで腐ったトマトの様に潰れてしまい、そのまま前に倒れ込んでしまった。
ぐにゃぐにゃになってしまった私の足。
よく見れば私の手も、体も顔も全てがブヨブヨして直ぐにでもドロリと溶けてしまいそうになっていた。
倒れ込んだまま動くことのできない無様な自分を見て、ぼんやりと思った。
あぁ、心の形を失ってしまえば、自分はもう前に進めないのか……と。
「────ソフィア様!!」
片足を上げたままぼんやりしてしまった私に、アゼリアが大声でその名を呼ぶ。
その瞬間、灰色の世界は消え真っ赤な光を放つ魔法陣が目に入った。
そして、窓の外には真っ黒い蝶の形をした呪いの化け物が……。
今のは……夢??
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