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第二十七章
899 現れたモノ
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(レナ)
兄が高学院の卒業後、両親は待ってましたとばかりに兄に婚約者とやらを連れてくる。
その子はまだ12歳になったばかりの、鑑定の日に化術に限りなく近い資質を言い渡された男爵家の娘で、どうやら両親に無理やり連れてこられたようだった。
脅迫に近い事を言われ、怯えて今にも泣きそうに青ざめている女の子を見て……兄は生まれて初めて両親に対し怒鳴った。
「こんなに小さい子になんてことをしようとしているんだ!!
こんな事をするなんて、父さんも母さんも最低だぞっ!!」
しかし、そんな兄の怒りなど気にも止めず、父は兄をその場で殴り飛ばし『この子の両親と話はついている事』『爵位が低い男爵家から格上の我が家に嫁げるのだから感謝すべきである事』を両親総出で言い放ち、最後にこういった。
「外れ息子といえども血筋はメイキルド家のもの。
沢山子供を生ませれば、一人くらいは当たりが生まれるだろう。」
この時点で、湯水の如く散財していた両親には後がなかった。
そのため金を稼いでくる『当たり』の子供がどうしても必要だったのだ。
兄は知力は高くとも外れ資質、私は発達が遅く恐らくは外れ娘。
つまり次世代に賭けるしか無いと両親は思っての、無茶苦茶な計画であった。
両親は金にしがみつくモンスターだ。
しかしその金は自分で努力して手に入れるモノではなく、他者が自分のために努力し運んでくるモノであると本気で思っている。
そしてその『他者』に私や兄は入っていた。
この時点で、まだ準成人を迎えていない私の婚約者の用意も既に始めていたらしい両親。
娘に親子ほど離れた男性を何人も用意していた両親には、多分何を言っても無駄だったと思う。
きっと兄は、この時全てを悟ったのだ。
『きっとこの人達に何を言っても無駄』
『これを無理に断っても、この女の子とその両親が酷い目に合う』
『自分が言う事を聞かないと、その後レナにもそのしわ寄せがいくだろう』
そのため、兄はその話を受ける振りをして、女の子をどうにかできるまで匿う事にした。
そうして何の解決方法もないままイタズラに時は過ぎていく。
女の子はまだ準成人であるため、いかに婚約者だとはいえ子供を作る行為自体アウト。
勿論、それを強制したとすれば罪に問われるため、流石の両親も当分は女の子を家に置くだけで、この家のしきたりという教育を行う予定だったが、それに兄は待ったをかける。
「それは僕が教えるよ。だって母さんは色々と忙しいだろう?」
────遊びに。
母はとても忙しい人だったため、その言葉を幸いとばかりに受けとめ、全てを兄に任せそのまま父と二人、忙しく遊び続けた。
そしてその間、兄はなんとかしようとあちらこちらと動き回っていたがどれも上手くいかずに、随分と憔悴している様子で……女の子には婚約者との部屋だと与えられた自室を与え、自身はキノコの研究室に寝泊まりしていたのだが、耳が早い貴族達にはどんどんとその噂話は広がっていく。
『メイキルド家の長男は婚約者に随分とご執着で一時も離れたがらないそうだ。』
その話は貴族達を飛び越え、街の方にも伝わっていった。
そんなある日、兄がキノコ畑の方へ閉じこもり出てこなくなったため、心配になった私はもしもの時用に預かっていた鍵を使って、中へと入る。
そして兄の姿を目にした私はギョッ!とした。
ぼんやりとキノコ畑の前に座る兄。
その目からはハラハラと、次から次へと涙が零れ落ちていた。
「に……兄さん……? 」
恐る恐る話しかけると、兄は私へゆっくりと視線を向け目が合うと、そのままボロボロと更に大量の涙が目から零れ落ちていった。
わ──んわ──ん!!
ひっきりなしに聞こえる大絶叫に近い鳴き声に固まっていると、嗚咽混じりの断片的な言葉を拾い、私はその原因を全て理解する。
『あーちゃんが消えてしまった』
『僕のせいだ』
『僕が無能でどうしようもない男だったから』
地面に土下座する様に丸まり泣き喚く兄の姿はとても悲しかった。
恐らく今回の婚約騒動を聞いて誤解してしまったのだろう。
「直ぐに追いかけて誤解を解こうよ。私も行く。」
そう提案したが、兄は首をぶんぶんと横に振る。
「あの両親の子である限り一生搾取され続ける。あーちゃんに迷惑が掛かっちゃうから。」
「あーちゃんは平民だから法律上結婚できない。だから、大好きな人に僕はずっと我慢してもらわないといけない。
自分の気持ちだけ優先してたってやっと気づいた。こんなの両親と一緒だ。」
兄は止まる気配のない涙をゴシゴシと拭きながら、一気にそれだけ言って、最後は涙を堪える様に無理やり笑みを作った。
「だから、幸せを沢山くれたあーちゃんには、僕以外の人と幸せになってもらいたい。
あーちゃんが何処かで幸せに生きてくれれば、僕はそれでいい。」
この国の法律では、貴族と平民は結婚する事はできず『愛人』関係しか最終的には辿り着けない。
ならば貴族の籍を捨てれば良いが、あの両親は存在する限り何処までも追いかけてくるだろう。
自分達の今の暮らしを維持できる……いや、それ以上の環境を手に入れるために。
兄はそう言ったきり、またワンワンと泣きじゃくり、その姿を黙ってみていた私の心にポツッ……と突然現れたのは────……。
『憎悪』
兄が高学院の卒業後、両親は待ってましたとばかりに兄に婚約者とやらを連れてくる。
その子はまだ12歳になったばかりの、鑑定の日に化術に限りなく近い資質を言い渡された男爵家の娘で、どうやら両親に無理やり連れてこられたようだった。
脅迫に近い事を言われ、怯えて今にも泣きそうに青ざめている女の子を見て……兄は生まれて初めて両親に対し怒鳴った。
「こんなに小さい子になんてことをしようとしているんだ!!
こんな事をするなんて、父さんも母さんも最低だぞっ!!」
しかし、そんな兄の怒りなど気にも止めず、父は兄をその場で殴り飛ばし『この子の両親と話はついている事』『爵位が低い男爵家から格上の我が家に嫁げるのだから感謝すべきである事』を両親総出で言い放ち、最後にこういった。
「外れ息子といえども血筋はメイキルド家のもの。
沢山子供を生ませれば、一人くらいは当たりが生まれるだろう。」
この時点で、湯水の如く散財していた両親には後がなかった。
そのため金を稼いでくる『当たり』の子供がどうしても必要だったのだ。
兄は知力は高くとも外れ資質、私は発達が遅く恐らくは外れ娘。
つまり次世代に賭けるしか無いと両親は思っての、無茶苦茶な計画であった。
両親は金にしがみつくモンスターだ。
しかしその金は自分で努力して手に入れるモノではなく、他者が自分のために努力し運んでくるモノであると本気で思っている。
そしてその『他者』に私や兄は入っていた。
この時点で、まだ準成人を迎えていない私の婚約者の用意も既に始めていたらしい両親。
娘に親子ほど離れた男性を何人も用意していた両親には、多分何を言っても無駄だったと思う。
きっと兄は、この時全てを悟ったのだ。
『きっとこの人達に何を言っても無駄』
『これを無理に断っても、この女の子とその両親が酷い目に合う』
『自分が言う事を聞かないと、その後レナにもそのしわ寄せがいくだろう』
そのため、兄はその話を受ける振りをして、女の子をどうにかできるまで匿う事にした。
そうして何の解決方法もないままイタズラに時は過ぎていく。
女の子はまだ準成人であるため、いかに婚約者だとはいえ子供を作る行為自体アウト。
勿論、それを強制したとすれば罪に問われるため、流石の両親も当分は女の子を家に置くだけで、この家のしきたりという教育を行う予定だったが、それに兄は待ったをかける。
「それは僕が教えるよ。だって母さんは色々と忙しいだろう?」
────遊びに。
母はとても忙しい人だったため、その言葉を幸いとばかりに受けとめ、全てを兄に任せそのまま父と二人、忙しく遊び続けた。
そしてその間、兄はなんとかしようとあちらこちらと動き回っていたがどれも上手くいかずに、随分と憔悴している様子で……女の子には婚約者との部屋だと与えられた自室を与え、自身はキノコの研究室に寝泊まりしていたのだが、耳が早い貴族達にはどんどんとその噂話は広がっていく。
『メイキルド家の長男は婚約者に随分とご執着で一時も離れたがらないそうだ。』
その話は貴族達を飛び越え、街の方にも伝わっていった。
そんなある日、兄がキノコ畑の方へ閉じこもり出てこなくなったため、心配になった私はもしもの時用に預かっていた鍵を使って、中へと入る。
そして兄の姿を目にした私はギョッ!とした。
ぼんやりとキノコ畑の前に座る兄。
その目からはハラハラと、次から次へと涙が零れ落ちていた。
「に……兄さん……? 」
恐る恐る話しかけると、兄は私へゆっくりと視線を向け目が合うと、そのままボロボロと更に大量の涙が目から零れ落ちていった。
わ──んわ──ん!!
ひっきりなしに聞こえる大絶叫に近い鳴き声に固まっていると、嗚咽混じりの断片的な言葉を拾い、私はその原因を全て理解する。
『あーちゃんが消えてしまった』
『僕のせいだ』
『僕が無能でどうしようもない男だったから』
地面に土下座する様に丸まり泣き喚く兄の姿はとても悲しかった。
恐らく今回の婚約騒動を聞いて誤解してしまったのだろう。
「直ぐに追いかけて誤解を解こうよ。私も行く。」
そう提案したが、兄は首をぶんぶんと横に振る。
「あの両親の子である限り一生搾取され続ける。あーちゃんに迷惑が掛かっちゃうから。」
「あーちゃんは平民だから法律上結婚できない。だから、大好きな人に僕はずっと我慢してもらわないといけない。
自分の気持ちだけ優先してたってやっと気づいた。こんなの両親と一緒だ。」
兄は止まる気配のない涙をゴシゴシと拭きながら、一気にそれだけ言って、最後は涙を堪える様に無理やり笑みを作った。
「だから、幸せを沢山くれたあーちゃんには、僕以外の人と幸せになってもらいたい。
あーちゃんが何処かで幸せに生きてくれれば、僕はそれでいい。」
この国の法律では、貴族と平民は結婚する事はできず『愛人』関係しか最終的には辿り着けない。
ならば貴族の籍を捨てれば良いが、あの両親は存在する限り何処までも追いかけてくるだろう。
自分達の今の暮らしを維持できる……いや、それ以上の環境を手に入れるために。
兄はそう言ったきり、またワンワンと泣きじゃくり、その姿を黙ってみていた私の心にポツッ……と突然現れたのは────……。
『憎悪』
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