【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

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第二十九章

(レンジュ)972 成長するモノ

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(レンジュ)

その場にふんわり香る小麦の香りは、緊迫したこの場にとってちょっとした癒やしになった様で皆の表情が僅かに和らぐ。

その女性は【森の恵み】という食堂を経営している店主マリン。
何と待機所にある調理器具と食材を使って、飲食店の者達総出でちょっとした軽食や飲み物を作っているそうだ。
その行動力に驚かされながら、とりあえずお礼を告げてそれをヒョイッと口に入れると次の瞬間────。

パァァァァ────!!

身体が一瞬光り、その後はフワッと疲れが瞬く間に消えてしまった。

「な……何だ??これは……?」

驚きながら周りを見れば、他の人達の身体も同様に一瞬輝き、その後は「あ……あれ??」「身体が楽に……??」と驚きの声をあげている。
するとマリンは自慢気に胸を張り、私達に向かってニヤッと笑った。

「どうだい?何か面白い変化、あっただろう?」


<調食師の資質>(ユニーク固有スキル)

< トッピングの魔法使い >

自らが手を掛けた料理に様々なバフを付加する事ができる特殊系強化スキル
ステータスUPの他、各種耐性、特殊効果、更にスタミナ回復もその対象。
ただしバフの効果は自身の感情と感情の強さ、想いに左右されるため、負の感情を持てばデバフに変わってしまうため注意が必要

(発現条件) 
一定以上の調理経験、喜び、発想力、応用力、基礎力を持つこと
一定種類以上の料理を完成させること
『ランクS』以上の食材を食べた事がある事
※摂取済み食材<ダイヤ・エデンフィッシュ>


「こんな強力なバフ付きの料理など……。とんでもない能力ですよ!これ……。」

マリンのバフ付きの小麦ボールを食べたヨセフ司教は目を見開いて驚いたが、マリンは何でもないかの様にハッハッ!と笑って言った。

「それがねぇ、少し前に新しいスキルが発現したようなんだ。
まさかこの歳で新しいスキルなんざ驚いちまったが、なんと言ってもウチは『救世主様』御用達の食堂だからね。
どうやらとんでもないご加護を貰ったみたいだ。」

「そ……そんな……バカな……。」

スキルはそんな簡単に発現するものではなく、殆どスキルが発言しないまま一生を終える奴らだっている。
それを知っている私や神官達、ヨセフ司教はポカン……としてしまったが、マリンは怪我が直って戻ろうとしている兵士を捕まえては口にドスッ!ドスッ!と小麦ボールを突っ込んで戦場に帰し、そのままあっけらかんとした様子で空っぽになった皿を脇に抱えた。

「戦う力なんざ一つも持ってないが、私も私なりに戦いに参加するさ。
『救世主様』と一緒にね。」

マリンはそう言い残し、また自身の戦場である調理場の方へと戻っていった。

軽くなった身体を感じながら、私は拳を握り弱気になっていた自分を叱咤する。
そして周りを改めて見て『一体これは何だ……?』と少しだけ恐怖を抱いた。

あれよあれよと誰も彼もが動き出す。誰に引っ張られるわけもなく自らの足で。
こんなの……まるで…………。

「『奇跡』……かもしれませんね。今の状況を敢えて一言で表現するなら。
しかもそれは止まる事なくどんどん成長している。
────『成長する奇跡』か……。
もしかして我々は物凄い瞬間に立ち会おうとしているのかもしれませんね。」

ヨセフ司教が正面の門を見つめながら、フフッと嬉しそうに笑ったが────直ぐに険しい顔で空を睨みつける。

「……しかし『悪』もまた成長し続ける非常に強大なパワーだ。
悪意は人に急激な変化をもたらし、小さな奇跡など簡単に飲み込んでしまう。
それに勝つには生半可な奇跡では駄目なのですよ。────このまま……届くか……?」

見つめる先の空は真っ黒で、更にバチバチ!!という黒い雷の様なモノがそこら中を走り周っている。
光り全てを覆い尽くす黒が、まるでその『悪』そのものの様な気がしてゾッと背筋を凍らせていると、空を飛び回る伝電鳥が各門での戦闘状況を伝えてきた。
それを聞く限り、今のところはどこも問題なく守れている様子。
それにホッと胸を撫で下ろし、戦場で戦う者達にエールを送っていると、突然街の方角から────。

ボンッ!!!
ボンッ!!!!

ドドドドド────ンッ!!!

大きな爆発音が連続して聞こえ、大地が僅かに揺れる。

「なっ、なんの音だっ!!!」

驚いて声を上げるのと同時に、今度はさほど遠くない場所で多種多様のモンスターの鳴き声が聞こえ始めた。

────!!街の中でっ!!??

あり得ない妄想だと思いたかったが、周りの者達も同様の事を思ったらしく一気にその場は緊迫する。

「な、なぜモンスターの鳴き声がっ??!どこの門も壊されていないというのにっ!」

空を見上げ、伝電鳥を睨みつけたが、やはりどの門も壊されたという情報は伝えていない。
ヨセフ司教も同様に伝電鳥を見上げ、一瞬考える仕草をみせたが、直ぐにハッ!!とした様子で呟いた。
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