【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

文字の大きさ
992 / 1,649
第二十九章

(ヨセフ)976 大きな穴

しおりを挟む
(ヨセフ)

『彼を心から愛しているのです。彼には既に愛する女性がいるけど、それでも諦めるつもりはないわ。
どんな手を使ってでも絶対に奪ってみせる。』

『愛』は奪い取るモノ。
争いの種になるモノ。
誰かを傷つけてまで奪い取った『愛』は穢れ、高潔さや美しさとは縁が遠いモノとなる。
奪えてしまう程度の『愛』は、欲しかったはずの始まりの形をすっかり失っているというのに気づかない。

『妻がいるのに他の女性に心を奪われ愛し合ってしまいました。
二人共愛しているので選べません。
どちらかを選べばどちらかを必ず傷つけてしまう……俺にはそんな事はできない!』

『愛』は人を傷つけ、分割できるモノ。
分割する事で相手に対しての誠実さは失せ、自分の欲望だけが表面にベッタリとついた気味の悪いモノへと変わる。
裏切りや嘘は『愛』と対極にある。
つまりその時点で『愛』は欲望を隠すための最強の隠れ蓑に変わってしまうという事だ。

私もグレスターも、世で囁かれる素晴らしい『愛』とやらが、もっとキラキラ輝く価値あるモノだと思いたかった。
しかし、自分の置かれた環境と沢山の滑稽な『愛』の形をかたどったゴミ達が私達の期待を全て打ち砕く。
そんな不確かで溢れた世の未来に────希望を見出す事は出来なかった。

そのまま時は過ぎ、鑑定の日────この日はグレスターと私の道がハッキリと分かれた日となった。

グレスターに告げられた資質は【癒人師】
回復に特化した貴重な上級資質で、その鑑定結果が出た時には教会内が大騒ぎとなる。

片や私に告げられた資質は【心導師】
人の心に特化している中級資質であったが、当時この資質はいわゆる『ハズレ資質』であると言われていて、回復属性魔力があるため辛うじて中級だろうと言われているだけの、対して騒ぐほどでもない資質であった。

教会として重宝すべき才能を持っていたグレスターは、その後直ぐに当時の司教の家であった【レイシェス家】の養子に迎え入れられる事になり、今後は王都でそれに相応しい生活と教育を受ける。
そのため、鑑定を受けた後直ぐに迎える事になってしまったお別れの日────特に親しい友人がいなかったグレスターの見送りは私一人で、私は様々な想いを持ちながらグレスターに最後の別れを告げた。

「さようなら。我が親愛なる友グレスター。」

するとグレスターは喜びも悲しみも何もない表情で、自身の胸に手を当て何かを確認する様にそこを優しく擦る。
 
にはとても深くて大きな穴が空いている。
この巨大な穴は……はたして『愛』とやらがあれば埋まってくれるのだろうか?」

そう言って下を向いて黙ってしまったグレスター。
私はこの時グレスター同様胸に手を当て、自分の中にある大きな穴を見下ろした。

『ポッカリ空いた真っ暗で巨大な穴』

物心ついた頃には、まだビー玉くらいの大きさであったこの穴は、どんどんどんどんと大きくなっていき、今や私はおろか、軽く100人くらいは同時に飲み込んでしまう程の大きさまで成長してしまった。

『明日はどれくらい大きくなっているんだろう?』
『うっかり足を滑らせて落ちてしまったらどうしようか……。』
そんな恐怖に怯えながら私達は日々を過ごす。

「そうだといいな。」

結局気の利いた言葉は出ずに、そう正直に答えるとグレスターは悲しそうに笑いながら────「そうだね。」とだけ答えて馬車に乗り込み、そのまま去って行った。

グレスターが去ると、やっと私は自分の事について考える時間が取れる様になり、まず最初に心に感じたのは『絶望』だ。
自分に与えられた資質【心導師】は、基本的には女性が持つなら最高であると言われていた資質で、『人を良い気分にさせる事が得意な才能』と思われていたからだ。
勿論モンスターをかっこよく倒す様なスキルは一つも覚える事はできない。
このモンスターが蔓延る世で私の能力を役立てたいなら、誰かの主夫になるか教会に仕えるかの二択となる。

そこまで考えて、私はハッ!と鼻で笑ってしまった。

『愛』などという不確かなモノに縋り、伴侶にただひたすら癒やしを提供する人生か。
もしくは世は『平等』であるなどと明らかな大嘘を掲げる教会の仲間になるか。
この二択しか私の人生には選択肢がないのか。

それを理解すると、愉快な気持ちがこみ上げてきてとうとう私は笑ってしまった。

だってこんなのあんまりではないか!
『愛』を知らず、憎んでいさえいるのに。
『平等』などが存在しないこの世界に生まれ、そして捨てられたというのに……。

神様なんてクソ喰らえだ!!

気がつけば心の穴は更に広がり、もう少しで落ちてしまうギリギリまで大きくなってしまった。
それに怯えながらも、孤児院を卒業したら働かなければ生きてはいけないため私は教会の神官見習いとして働く事を決める。

毎日毎日あくせくあくせくと覚えたての回復魔法で人を癒すだけの日々。
そんな中で怪我を直した人達から貰う『ありがとう』という言葉達は、私の中の大きな穴に全て落ちていき、何一つ私の中に残らなかった。
しかし、そんな日々の中……まさに運命と言うべき私の人生全てを変える人と出会う。
しおりを挟む
感想 274

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。 第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦

中岡 始
BL
「好きって言ったら負け」 それが、俺たちの間にある、たったひとつのルールだった。 星遥学園の顔、生徒会長・一ノ瀬結翔と副会長・神城凪。 容姿、成績、カリスマ性――すべてが完璧なふたりは、周囲から「最強ペア」と呼ばれている。 けれどその内側では、日々繰り広げられる仁義なき恋愛頭脳戦があった。 ・さりげない言葉の応酬 ・SNSでの匂わせ合戦 ・触れそうで触れない、静かな視線の駆け引き 恋してるなんて認めたくない。 でも、相手からの“告白”を待ち続けてしまう―― そんなふたりの関係が変わったのは、修学旅行での一夜。 「俺、たぶん君に“負けてもいい”って思いかけてる」 その一言が、沈黙を揺るがし、心の距離を塗り替えていく。 勝ち負けなんかじゃない、想いのかたちにたどり着くまで。 これは、美形ふたりの駆け引きまみれなラブコメ戦線、 ついに“終戦”の火蓋が落ちるまでの物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...