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第二十九章
(ヨセフ)976 大きな穴
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(ヨセフ)
『彼を心から愛しているのです。彼には既に愛する女性がいるけど、それでも諦めるつもりはないわ。
どんな手を使ってでも絶対に奪ってみせる。』
『愛』は奪い取るモノ。
争いの種になるモノ。
誰かを傷つけてまで奪い取った『愛』は穢れ、高潔さや美しさとは縁が遠いモノとなる。
奪えてしまう程度の『愛』は、欲しかったはずの始まりの形をすっかり失っているというのに気づかない。
『妻がいるのに他の女性に心を奪われ愛し合ってしまいました。
二人共愛しているので選べません。
どちらかを選べばどちらかを必ず傷つけてしまう……俺にはそんな事はできない!』
『愛』は人を傷つけ、分割できるモノ。
分割する事で相手に対しての誠実さは失せ、自分の欲望だけが表面にベッタリとついた気味の悪いモノへと変わる。
裏切りや嘘は『愛』と対極にある。
つまりその時点で『愛』は欲望を隠すための最強の隠れ蓑に変わってしまうという事だ。
私もグレスターも、世で囁かれる素晴らしい『愛』とやらが、もっとキラキラ輝く価値あるモノだと思いたかった。
しかし、自分の置かれた環境と沢山の滑稽な『愛』の形をかたどったゴミ達が私達の期待を全て打ち砕く。
そんな不確かで溢れた世の未来に────希望を見出す事は出来なかった。
そのまま時は過ぎ、鑑定の日────この日はグレスターと私の道がハッキリと分かれた日となった。
グレスターに告げられた資質は【癒人師】
回復に特化した貴重な上級資質で、その鑑定結果が出た時には教会内が大騒ぎとなる。
片や私に告げられた資質は【心導師】
人の心に特化している中級資質であったが、当時この資質はいわゆる『ハズレ資質』であると言われていて、回復属性魔力があるため辛うじて中級だろうと言われているだけの、対して騒ぐほどでもない資質であった。
教会として重宝すべき才能を持っていたグレスターは、その後直ぐに当時の司教の家であった【レイシェス家】の養子に迎え入れられる事になり、今後は王都でそれに相応しい生活と教育を受ける。
そのため、鑑定を受けた後直ぐに迎える事になってしまったお別れの日────特に親しい友人がいなかったグレスターの見送りは私一人で、私は様々な想いを持ちながらグレスターに最後の別れを告げた。
「さようなら。我が親愛なる友グレスター。」
するとグレスターは喜びも悲しみも何もない表情で、自身の胸に手を当て何かを確認する様にそこを優しく擦る。
「ココにはとても深くて大きな穴が空いている。
この巨大な穴は……はたして『愛』とやらがあれば埋まってくれるのだろうか?」
そう言って下を向いて黙ってしまったグレスター。
私はこの時グレスター同様胸に手を当て、自分の中にある大きな穴を見下ろした。
『ポッカリ空いた真っ暗で巨大な穴』
物心ついた頃には、まだビー玉くらいの大きさであったこの穴は、どんどんどんどんと大きくなっていき、今や私はおろか、軽く100人くらいは同時に飲み込んでしまう程の大きさまで成長してしまった。
『明日はどれくらい大きくなっているんだろう?』
『うっかり足を滑らせて落ちてしまったらどうしようか……。』
そんな恐怖に怯えながら私達は日々を過ごす。
「そうだといいな。」
結局気の利いた言葉は出ずに、そう正直に答えるとグレスターは悲しそうに笑いながら────「そうだね。」とだけ答えて馬車に乗り込み、そのまま去って行った。
グレスターが去ると、やっと私は自分の事について考える時間が取れる様になり、まず最初に心に感じたのは『絶望』だ。
自分に与えられた資質【心導師】は、基本的には女性が持つなら最高であると言われていた資質で、『人を良い気分にさせる事が得意な才能』と思われていたからだ。
勿論モンスターをかっこよく倒す様なスキルは一つも覚える事はできない。
このモンスターが蔓延る世で私の能力を役立てたいなら、誰かの主夫になるか教会に仕えるかの二択となる。
そこまで考えて、私はハッ!と鼻で笑ってしまった。
『愛』などという不確かなモノに縋り、伴侶にただひたすら癒やしを提供する人生か。
もしくは世は『平等』であるなどと明らかな大嘘を掲げる教会の仲間になるか。
この二択しか私の人生には選択肢がないのか。
それを理解すると、愉快な気持ちがこみ上げてきてとうとう私は笑ってしまった。
だってこんなのあんまりではないか!
『愛』を知らず、憎んでいさえいるのに。
『平等』などが存在しないこの世界に生まれ、そして捨てられたというのに……。
神様なんてクソ喰らえだ!!
気がつけば心の穴は更に広がり、もう少しで落ちてしまうギリギリまで大きくなってしまった。
それに怯えながらも、孤児院を卒業したら働かなければ生きてはいけないため私は教会の神官見習いとして働く事を決める。
毎日毎日あくせくあくせくと覚えたての回復魔法で人を癒すだけの日々。
そんな中で怪我を直した人達から貰う『ありがとう』という言葉達は、私の中の大きな穴に全て落ちていき、何一つ私の中に残らなかった。
しかし、そんな日々の中……まさに運命と言うべき私の人生全てを変える人と出会う。
『彼を心から愛しているのです。彼には既に愛する女性がいるけど、それでも諦めるつもりはないわ。
どんな手を使ってでも絶対に奪ってみせる。』
『愛』は奪い取るモノ。
争いの種になるモノ。
誰かを傷つけてまで奪い取った『愛』は穢れ、高潔さや美しさとは縁が遠いモノとなる。
奪えてしまう程度の『愛』は、欲しかったはずの始まりの形をすっかり失っているというのに気づかない。
『妻がいるのに他の女性に心を奪われ愛し合ってしまいました。
二人共愛しているので選べません。
どちらかを選べばどちらかを必ず傷つけてしまう……俺にはそんな事はできない!』
『愛』は人を傷つけ、分割できるモノ。
分割する事で相手に対しての誠実さは失せ、自分の欲望だけが表面にベッタリとついた気味の悪いモノへと変わる。
裏切りや嘘は『愛』と対極にある。
つまりその時点で『愛』は欲望を隠すための最強の隠れ蓑に変わってしまうという事だ。
私もグレスターも、世で囁かれる素晴らしい『愛』とやらが、もっとキラキラ輝く価値あるモノだと思いたかった。
しかし、自分の置かれた環境と沢山の滑稽な『愛』の形をかたどったゴミ達が私達の期待を全て打ち砕く。
そんな不確かで溢れた世の未来に────希望を見出す事は出来なかった。
そのまま時は過ぎ、鑑定の日────この日はグレスターと私の道がハッキリと分かれた日となった。
グレスターに告げられた資質は【癒人師】
回復に特化した貴重な上級資質で、その鑑定結果が出た時には教会内が大騒ぎとなる。
片や私に告げられた資質は【心導師】
人の心に特化している中級資質であったが、当時この資質はいわゆる『ハズレ資質』であると言われていて、回復属性魔力があるため辛うじて中級だろうと言われているだけの、対して騒ぐほどでもない資質であった。
教会として重宝すべき才能を持っていたグレスターは、その後直ぐに当時の司教の家であった【レイシェス家】の養子に迎え入れられる事になり、今後は王都でそれに相応しい生活と教育を受ける。
そのため、鑑定を受けた後直ぐに迎える事になってしまったお別れの日────特に親しい友人がいなかったグレスターの見送りは私一人で、私は様々な想いを持ちながらグレスターに最後の別れを告げた。
「さようなら。我が親愛なる友グレスター。」
するとグレスターは喜びも悲しみも何もない表情で、自身の胸に手を当て何かを確認する様にそこを優しく擦る。
「ココにはとても深くて大きな穴が空いている。
この巨大な穴は……はたして『愛』とやらがあれば埋まってくれるのだろうか?」
そう言って下を向いて黙ってしまったグレスター。
私はこの時グレスター同様胸に手を当て、自分の中にある大きな穴を見下ろした。
『ポッカリ空いた真っ暗で巨大な穴』
物心ついた頃には、まだビー玉くらいの大きさであったこの穴は、どんどんどんどんと大きくなっていき、今や私はおろか、軽く100人くらいは同時に飲み込んでしまう程の大きさまで成長してしまった。
『明日はどれくらい大きくなっているんだろう?』
『うっかり足を滑らせて落ちてしまったらどうしようか……。』
そんな恐怖に怯えながら私達は日々を過ごす。
「そうだといいな。」
結局気の利いた言葉は出ずに、そう正直に答えるとグレスターは悲しそうに笑いながら────「そうだね。」とだけ答えて馬車に乗り込み、そのまま去って行った。
グレスターが去ると、やっと私は自分の事について考える時間が取れる様になり、まず最初に心に感じたのは『絶望』だ。
自分に与えられた資質【心導師】は、基本的には女性が持つなら最高であると言われていた資質で、『人を良い気分にさせる事が得意な才能』と思われていたからだ。
勿論モンスターをかっこよく倒す様なスキルは一つも覚える事はできない。
このモンスターが蔓延る世で私の能力を役立てたいなら、誰かの主夫になるか教会に仕えるかの二択となる。
そこまで考えて、私はハッ!と鼻で笑ってしまった。
『愛』などという不確かなモノに縋り、伴侶にただひたすら癒やしを提供する人生か。
もしくは世は『平等』であるなどと明らかな大嘘を掲げる教会の仲間になるか。
この二択しか私の人生には選択肢がないのか。
それを理解すると、愉快な気持ちがこみ上げてきてとうとう私は笑ってしまった。
だってこんなのあんまりではないか!
『愛』を知らず、憎んでいさえいるのに。
『平等』などが存在しないこの世界に生まれ、そして捨てられたというのに……。
神様なんてクソ喰らえだ!!
気がつけば心の穴は更に広がり、もう少しで落ちてしまうギリギリまで大きくなってしまった。
それに怯えながらも、孤児院を卒業したら働かなければ生きてはいけないため私は教会の神官見習いとして働く事を決める。
毎日毎日あくせくあくせくと覚えたての回復魔法で人を癒すだけの日々。
そんな中で怪我を直した人達から貰う『ありがとう』という言葉達は、私の中の大きな穴に全て落ちていき、何一つ私の中に残らなかった。
しかし、そんな日々の中……まさに運命と言うべき私の人生全てを変える人と出会う。
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