【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

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第二十九章

(ヨセフ)985 残された愛の中で

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(ヨセフ)

それから私は泣いて泣いて泣いて────きっと一生分くらい涙を流したに違いないというくらいは泣いて、最後はセイの元に行こうと考えた。
しかし、セイとの愛の証である子供たちが、そしてセイが繋いでくれた沢山の人達が私をそちらへ行かせてはくれない。

セイは恐らく全て分かっていたのだろう。
年齢差を考えれば自分の方が必ず早く寿命が尽きる。
その時の事を考えて、私に沢山の人と会わせて自分の後を追ってこれない様にしたのだ。

子供たちの事も自分が欲しい事に嘘はなかっただろうが、殆どは将来残されるであろう私の為だったのだと思う。
そんなセイの目論見は見事に大成功を果たし、その沢山の絆達が私にセイの元に行くことを諦めさせた。

それがセイの愛の形。
それに気付いた私はその愛おしい人の愛を全て受け入れようと、そう思った。

自暴自棄になり怠惰な生活を送れば、きっとあちらで再会した時にセイに怒られてしまう。
だから私はセイが残していってくれたこの沢山の愛の中で精一杯に生きて、そしていつか堂々とセイに会いに行こう。
そう誓い、私はセイの形見となった細めのメガネを顔に掛けた。

そうして私に沢山の愛を残していってくれたセイ。
しかしたった一つだけ大誤算がある。
それは私がセイに対して持っていた愛の深さ、そして執念深さだ。

セイが引き合わせてくれた人達の中には美しい女性も沢山いて、当時は全くその意図に気づかなかったが……どうやらセイは自分の死後、私が孤独にならないようにと後妻をとらせるつもりで顔合わせをさせていた様なのだ。
現にセイの死後は、そのご令嬢の家からはひっきりなしにお茶会やパーティーのお誘いがあったが、私はその全てを丁重に断った。

セイの愛が望むまま、この体と心は残りの人生を生きる。
しかし私の愛だけはセイを追いかけて向こうに行ってしまったので、今度人生を共にするパートナーを持つことは決してない。
これだけはセイにどんなに怒られたって譲るつもりはなかった。

きっとセイはその事を怒るかもしれないが、最後はきっと許してくれる。
いつも見せてくれたあの穏やかな笑顔で『全く仕方ないな。』と言って。

立ち直った私を見て、子供たちは勿論、私の事を心配してくれた人達はホッと胸を撫で下ろし今までと変わらぬ付き合いを続けてくれたが、その中でグレスターだけは少し違った。

勿論私の状態を誰よりも悲しみ心配してくれていたが、それとは違う薄暗い気持ちを常に彼から感じる。

きっとグレスターなりにセイの死について思うところがあったのかもしれない。
そう考えた私はしばらくソッとしておく事にしたのだが、その暗さはどんどんと濃くハッキリとしていく様だった。

そんなある日の事。
毎朝欠かさずしていた教会での祈りの際、グレスターと鉢合わせた。

その時のグレスターの顔はすっかり暗くなっており、カトリーナと出会う前と同じ……いやそれよりも深い暗さを感じる様な雰囲気だったため、少々驚く。

カトリーナとの間に何かあったのだろうか……?

セイの事で久しく会っていなかったため、その事情は分からない。
そのためそれについて聞こうと口を開きかけた、その時……グレスターが突然ボソッと呟いた。

「ヨセフは強いな。」

突然の言葉に首を傾げたが、多分セイの死について言っているのだと気づき「そうでもないさ。」と軽く返す。
するとグレスターはそのままイシュル神の像に向かって祈り始め、首を横にゆっくり振ると、まるで懺悔の様に言葉を続けた。

「いいや、君は強い。昔からそうだ。
私と同じ様な環境で育ち、全く同じ穴を持っていたのに、君は気がつけばそんなモノは初めから存在してないかの様に振る舞う。私は君とは違うんだ、ヨセフ。」

グレスターの祈る手は震えていて、言葉の最後は掠れてしまっていた。
そんな泣き出す寸前の様なグレスターを黙って見つめていると、グレスターは更にブツブツと自身の気持ちを吐き出す。

「愛を、幸せを……せっかく手にしても、孤独以上の恐怖が常に心に絡みつく。
手にしているモノが今この瞬間にもなくなってしまうんじゃないかと……知らなければ平和でいられたのにって、この幸せ全てを憎む心すら感じる。
孤独が辛いモノだって知っているのに、それこそが一番心地いいと感じている自分がいるんだ。
与えられる全ての感情が怖い。私は幸せすら素直に受け取る事ができない……。」
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