【第一部完結】天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

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第三十章

(レイナ)1012 真の執事長

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(レイナ)

「確か侯爵家<ジェンスター>を中心に少々クセの強い貴族たちが、既に動きを見せております。
それでもエドワード様を指示する者達の方が多く、断然有利ではありますが、なにせ実力がある者達が多いため今後はどうなっていくか……。」

ジェンスター家のドノバンは第一騎士団への入隊を拒否し、第二騎士団へ入隊。
次々と第一騎士団を脅かすような行動をとってくる。
更に忌々しい事にあのカルパスがそれに協力している様なので本当にタチが悪い!

私はあの余裕そうな笑みを浮かべたカルパスを思い出し、ギリッ……とまたもや唇を噛むと、マリナ様がそれを咎める様に私の口元を優しく撫で、消えてしまいそうな笑みを浮かべた。

「侯爵家は我が公爵家に次ぐ権力を持った大貴族だというのに……。
ジェンスター家も、それに協力する者達も、本当に愚か者だわ。
彼らは祖先たちが必死に守ってきた歴史を、ただ己の欲だけで壊そうとしている。それは本当に悲しい事だわ……。
────でも、悲しんでばかりはいられない。だから私もカールも前に進むわ。
それはイシュル神様より託された使命なのだから。」

マリナ様は今までの弱々しい雰囲気とは一転。
強く気高い戦士の様な目をして私を見返してきた。
その雰囲気に圧倒されながら、私はコクリと頷く。

「だから手始めにレガ―ノに居を置く事にしたのですね。流石はマリナ様、名案だと思います。
王都に近い程、人の目がありますから、それを欺きつつ中立派の下位貴族たちを引き込もうとは……これでは止めるのは難しいでしょうね。」

マリナ様は私がそう言い終わった後ニコッと笑い、そのまま私の頬へ両手を伸ばした。
そして顔をグッと近づけられて、その圧倒的な『美』が視界一杯に広がると、ドキッ!と胸が大きく跳ねる。

「あぁ、レオナ、貴方は私の期待した通り、賢くて素晴らしい女性だわ。
貴方こそが我がメルンブルク家の真の執事長よ。
これから私達と共に世界を正しい姿に戻していきましょう。」

「……えっ?……お、お言葉ですが、先程メルンブルク家の執事長はカルパスであると……。」

マリナ様の言っている意味がわからず首を傾げると、マリナ様はクスクスと笑いながら言った。
  
執事長だと言ったでしょう?カルパスは相手陣営の大事な主戦力。
頭の回転が早く、そしてそれを実行する強さも行動力も兼ね備えている恐ろしい男だわ。
でもね、彼の抱く『正義』は間違っているの。だからこそ懐に入れて、その動きを最小限に抑えてやるつもりよ。」

「────っ!!」

その考えを理解し、ゾクッと背筋が凍る。
なんて先を見た計画!
マリナ様の人を見る目の確かな事に目を見張った。

『カルパスの正義は間違っている。』

自分と同じ考えを自分以外の第三者が強く肯定してくれた事で、どんどんと自己肯定感は高くなっていく。
そして自分の考えが認められたという快感に酔いしれる私を静かに見つめながら、マリナ様は話を続けた。

「つまり執事長という地位は、カルパスを閉じ込める為の鎖よ。
そこで美しく『正しい』世界を見せてあげれば、直ぐに改心する事でしょう。
カルパスは知らないの。本当の幸せとは何かというモノを。
レイナ、貴方はもう知っているでしょう?」

全てを見透かす様な目でそう問われ、私は自分の『幸せ』について考えた。

沢山の美しいモノに囲まれ生きていく事。
上流階級の方々と触れ合い、己の存在を高めていく事。
向上心を持って自分を高める努力をし続ける事。

それこそがこのレイナの幸せで、正しい世界の在り方だ。
そしてそれはエドワード様のお考えと殆ど一致する。

私は貴族ではないが、努力してここまで来た。
だから私も管理する側。
ただ眼の前にある代わり映えのない日常を過ごすしかできない者達は、それが幸せであると本気で信じている。
そしてそんな『不幸』な者達を世界を正しくするために正しく使う事、それって無駄のない素晴らしい在り方だと思う。

思わず口元から笑みが溢れると、マリナ様は私の頬から両手を外しスッと一度離れた。
そして嬉しそうに微笑むと、人差し指を口元へつける。

「後で正式な契約を交わしましょう。勿論、誰にも内緒でね。」

そう言い残し、マリナ様は一度会場へと帰っていった。


そうして表向きはカルパスがメルンブルク家の執事長。
真の執事長は私という形で、カール様とマリナ様は直ぐにレガ―ノに自身の希望を全て詰め込んだ家を建て始め、そこでグリード様、シャルロッテ様を続けて出産される。
生まれた二人の子供はメルンブルク家に相応しい、非常に美しい容姿と高位貴族に相応しき気品と気質を持って生まれ、家族4人揃えばまさに神の化身が降り立ったと思ってしまう程、圧倒的な存在感を放っていた。

なんて完璧で幸せな『家族『』なのだろう。
嫉妬する気にもなれないほど、メルメルンブルク家は私の理想で目指すべき場所でもあった。

これから何もかもが上手くいく。
私の『正しい』世界を完全に認めてくれて、それに向かって歩いていける心強い味方が沢山いる。
それが嬉しい。

私は眩いばかりの道を、引っ張られる様に歩いていった。
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