【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん

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13 貰えたモノ

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(ルーカス)

「…………カス、しっ…………して。ル……ス…………ーカス……。」



「うぅぅ~……ルー………………ルー…………カ……しっか……~……。」


ペタペタと顔や体に温かいモノが触れる感触と、自分の名前を呼ぶ声。
それが夢現の中でずっと聴こえていて……ふわふわする様な幸せな気分の中、意識を取り戻す。

誰……?

夢に出てきたのは、一度として抱きしめられた事がない『母親』という存在の手で……それに撫でられ、やっと欲しかったモノが手に入ったと思った。
でも……その手がどんどんと小さくなっていき、色白で綺麗だったその手は、豆ができた綺麗とは言い難い手に変わる。

この手……誰かの手に似ているな。

できないのに努力して努力して、ボロボロになってしまった手。
俺はこの手をよく知っている。

「……カス……死なないで……僕を一人に……ないで……ルーカス……。」

声は次第にハッキリしていき、その正体を俺に伝えてきた。


…………あぁ、これは兄の…………。


ハッ!と気がつくと、俺の額には濡れたタオルが乗せられていて、手は先程夢にでてきた豆だらけの手に握られている。
そしてその繋がれた手を辿っていくと、そこには俺の横たわるベッドの横に座って、顔を伏せている人物がいた。

俺の兄、グレイだ。

「…………に……さん……?」

ポツリと呟くと兄は勢いよく顔を上げた────……が、その顔は普段の兄の顔とは全然違ったので大きく目を見開いた。

真っ赤に腫れ上がった両目に、頬にはくっきり残っている涙の跡。
目は新たに流れ落ちそうな水滴のせいでゆらゆらと揺れていて、鼻からは沢山の鼻水も出ている。
髪はボサボサ、隈も酷い。
正直こんなに不細工な顔を初めて見たというくらい酷いモノだった。

「に…………。」

「る……る”ーがずぅ”ぅ”ぅ”~……っ!!目が覚めで、よ、よ”がっだぁぁぁぁぁぁ!!」

『兄さん』と言う前に、兄の目からはボロボロと大量の涙が流れ落ち、布団を汚していく。
それを普段だったら汚くて嫌だと思ったかもしれないが、このときの俺はそんな事を感じる間もなく、衝撃に体を震わせていた。

なんでここに兄がいるのか?とか、どういった経緯でこうなったのか?とか……普段だったら瞬時に考え、兄について非難めいた言葉を吐き捨てるだろうが、それもできなかった。

「…………っ…………。」

言葉に詰まる俺に、兄はすがりつく様に俺に抱きつくと、そのままワンワンと大声で泣き出した。

「る”ーがずが死ななくてよがっだよぉぉぉぉ~!!魘されて全然目を覚まさないだら”ぁぁ!死んじゃったのかと思ったぁぁぁぁぁ!!」

「…………。」

ぐしゅぐしゅと鼻を啜る音が抱きつかれた胸元から聞こえ、水がしみる感触がしたから、多分俺の服は、涙と鼻水で凄い事になっているはずだ。
しかし、そんな事はどうでもいいくらい、俺は自分に襲い来る衝撃でいっぱいいっぱいで……全く気にする余裕はなかった。

俺が死ななくて良かった。
死ぬかもしれないと思った。
それが悲しくて悲しくて兄は泣いているのだ。


「……俺が……死ななくて……良かった……の?」


ひりつく喉でそう尋ねると、兄は迷わずコクリと頷きそのまままたワンワン無き続ける。
兄の涙は服に染み込み、更にその下にある俺の心臓へと流れ込んできた気がして、それに気づくと胸がズキズキと痛みだした。
そして心臓が大きく鼓動し始めると、体中に痺れる様な感覚が走っていく。

これは『喜び』だ。
しかも、今まで感じた事ないくらい大きな大きなモノ。

「────……~……っ………っ!!」

気がつけば俺の目からもボロボロと涙が溢れていて……慌てて目元を拭ったが、全然止まらない!
更に「……ヒッ……ヒッ……っ。」と喉がひっくり変える音まで口からは漏れてしまい、そこで初めて自分が泣いているんだと言うことに気づいた。

「……な……っだよ……なんなんだよ……っ……クソッ……っ!」

次から次へと流れていく涙を拭いながら、口からは悪態の言葉が出るが……心の中から、蛇口を失った水の様に幸せが溢れては、乾いていた体を潤していく。

ずっとずっと欲しかったモノ。
それはあんなにも憎んでいた兄がアッサリとくれた。

「ルーカス、苦しいの……?」

俺が泣いているのに気づいた兄は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を上げて、俺の頭を撫でる。
そこからも溢れんばかりの『愛情』を感じて……更に涙は怒涛の如く目から流れていった。


やっと。

やっと貰えた。


俺のずっとずっと欲しかった『無償の愛』は、この汚い世界で懸命に生きる可哀想な兄が持っていたのだ。



「……っ………ありがとう……………兄さ……あり……が……う。」



何度も何度も馬鹿みたいにお礼を言って、全てに満たされた心地よい感覚の中……俺はそのままもう一度眠りにつく。
今度は母親の姿など浮かびもせず、兄さんの姿だけがはっきりと浮かんだままで。
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