【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん

文字の大きさ
15 / 39

14 家族愛

しおりを挟む
コーヒー豆の様に目を大きく腫らしながら、眠ってしまったルーカスの汗を拭く。
ルーカスはよほど苦しかったのか、突然目覚めたと思ったら大号泣して、また気絶する様に眠ってしまった。

「また冷たい水を持ってこないと……。」

何度も何度も近くにある井戸へ水を汲みに行っては、冷たい水でおでこを冷やし、熱が下がるのを待つ。
井戸から水を汲み上げる際、寒くてアカギレを起こしてしまった手が痛くて仕方なかったが、それでも我慢して必死に紐を引っ張った。

ルーカスが死んじゃうのは嫌だ。
ルーカスが苦しいのは嫌だ。

ルーカスルーカスルーカス……。

頭の中はルーカスの事で一杯で、とにかく必死に看病をし続けると、三日目の朝にやっと熱が下がったのだ!

「よ、よかったぁぁぁ~……!」

そこでまたワッ!と泣いてしまったが、ルーカスを起こさない様に慌てて口を閉じた。

これでもう大丈夫そうだ。
だからそろそろ僕は自分の部屋に帰らないと……。
目が覚めて近くに僕がいたら嫌だろうしね!

僕はすぅすぅと大人しく眠っているルーカスの頭を撫でると、部屋の中に散らばっている持ってきた私物を片付ける。
そして部屋の中を綺麗に掃除すると、そのまま部屋をそ~っと出ていった。

時間はまだ日の出前。
とりあえず見つからない様にソッと自分の部屋に帰り、部屋の中の鏡を覗きこむと……そこには目が大きく腫れた、髪の毛がボサボサの汚らしい少年が映っている。

「わっ!ど、どうしよう……。凄く汚いぞ!僕!」

まるで鳥の巣の様になっている自分の髪を撫で付けていると、コンコン……と自分の部屋のドアが叩かれた音がした。

「は、は~い!」

慌てて返事をすると、「失礼します。」と言って入ってきたのは、リアンだった。

「リアン!」

「おはようございます、グレイ様。ルーカス様は如何でしたか?」

リアムの手には水の入った桶と、腕には綺麗なタオルが掛けてある。
どうやら僕のために持ってきてくれた様だ。

「ルーカスはもう大丈夫。熱が下がったから。リアムのお陰だよ、ありがとう。」

「……いえ、私は何も。」

リアムはなんだか悲しそうな顔で微笑みテーブルに桶を置くと、タオルを水で浸して僕の顔を拭いてくれる。
どんどん汚くなっていくタオルに申し訳なさを感じていると、リアムはつらつらと僕が看病していた3日間の様子を説明してくれた。

「とりあえず体調を崩したとの事で、家庭教師には休んで頂きました。
ライゼル様とプレーン様にもお伝えし許可を頂きましたが、そのまま少し観光を楽しんでから帰ると……。」

「そっか。」

父様と母様は元々外出が大好きで、いつも仕事帰りはどこかに寄ってゆっくりしてくる事が多い。
だから特に気にする事なく返事を返すと、沈黙が下りる。

リアムの反応からも、きっとコレは、あまりよくない形の家族なのだと思う。
だけど、僕はコレしかその形を知らないから、正直何が悪いのかも分からないのだ。
でも────……。

「ルーカスが良くなって僕は凄く嬉しんだ。これって『家族愛』かな?」

ワクワクしながら尋ねると、リアムはとても驚いた顔をした後、微笑んだ。

「そうですね。相手が良い状態になって嬉しいのは……きっと『愛』と言えるでしょう。
ルーカス様相手なら『家族愛』で間違いないかと……。」

「や、やっぱり!」

僕はまた初めて貰った痺れる様な幸せな気持ちを抱いて、感動に叫ぶ。

絶対に貰えないと思っていた『家族愛』!
それを僕はなんと手に入れてしまったらしい!

「でも、なんだか嬉しいばかりじゃないんだね、愛って。
家族が死んじゃうと思うと凄く悲しくて悲しくて……苦しかった。」

「……そうでしょうね。中には狂って愛する人を殺す事を望む愛もありますから。」

リアンの話を聞いて「ヒェッ!」と悲鳴をあげてしまったのは、仕方ない。

世の中にはなんて恐ろしい愛があるんだろう!

その両極端な多様性にふるえていると、リアンは胸元からクシを取り出し、僕の髪を優しく梳いてくれる。

「グレイ様は、今まで沢山頑張りましたから、きっとこれからも沢山のモノを手に入れる事ができますよ。
私はグレイ様の様な強さがある方が、最後は望むモノ全てを手に入れる事ができると思います。
どうかこれからもその強さを失わずに頑張って下さいね。」

「強い?僕、剣も魔法も駄目駄目なんだけどな……。
でも、とりあえずは頑張り続けるよ。目指せ!人並み!」

僕が『えいえいお~!』と拳を上に上げて気合を入れると、リアムは嬉しそうに笑っていた。

その後は、流石に疲れたのでその日は1日お休みにしてもらい、次の日から学院と家庭教師の勉強を再開してもらう事に。
だから1日フリーになった僕は、ルーカスの食事事情を聞くため厨房へと足を運んだ。

3日間看病した時、一度食事がポンッ!と外に置かれたので、直ぐに見に行くと、随分と少ない上に泥までついていたので気になったのだ。
そのため、去っていこうとする調理見習いらしき男の人達に声を掛けると、まさか僕がここにいたとは知らなかった様で、ギョッ!と目を見開いて平謝りしだした。

『まさかグレイ様がこのような場所にいるとは知らず……。』

『大変もうしわけありませんでした!』

ビクビクしている二人に詳しく話を聞くと、料理長がこれでいいと言っていたそう。
酷い意地悪に頭を抱えてしまったが、その次の食事からはそんな意地悪はされずに普通の食事を運んでくれる様になった。

ただ、また僕がいなくなったら元に戻るかも……と心配になったので、調理場に乗り込んだのだが、なんと事前にリアムがコッソリ動いてくれた様で、ちゃんとした食事を出してくれる事になっていたのだ。

流石はリアム!仕事ができるいい人!

ルンルンで部屋に帰った後は、3日分の勉強内容と復習、予習……と大忙しで、あっという間に1日は終わってしまった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。

Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」 *** 地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。 とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。 料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで—— 同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。 「え、これって同居ラブコメ?」 ……そう思ったのは、最初の数日だけだった。 ◆ 触れられるたびに、息が詰まる。 優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。 ——これ、本当に“偽装”のままで済むの? そんな疑問が芽生えたときにはもう、 美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。 笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の 恋と恐怖の境界線ラブストーリー。 【青春BLカップ投稿作品】

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

泥酔している間に愛人契約されていたんだが

暮田呉子
BL
泥酔していた夜、目を覚ましたら――【愛人契約書】にサインしていた。 黒髪の青年公爵レナード・フォン・ディアセント。 かつて嫡外子として疎まれ、戦場に送られた彼は、己の命を救った傭兵グレイを「女避けの盾」として雇う。 だが、片腕を失ったその男こそ、レナードの心を動かした唯一の存在だった。 元部下の冷徹な公爵と、酒に溺れる片腕の傭兵。 交わした契約の中で、二人の距離は少しずつ近づいていくが――。

処理中です...