(完結)伯爵令嬢に婚約破棄した男性は、お目当ての彼女が着ている服の価値も分からないようです

３９

「もういい、君じゃ話にならないようだ。
上の人を出してくれないか？それならどこかに居るんだろう」

ビートは、イラついた態度を隠そうともせずに店の奥へと進みます。
従業員でなければ入れないようなスペースへ進んでいくビートに、店員が慌てて後を追いました。
それでも、ビートが貴族であるがゆえに下手な手出しは出来ないようです。

「あの、今日は……自分と、もう一人の他は誰も……」

「何だと？そう言っておいてロコも隠しているんじゃないか」

ばさっ、と並べてある服を避けながら進むビート。
困ったように店員は、もう一人の店員へと目配せを送ります。
視線で合図を送られた店員は、頷いてどこかへ駆け出して行きました。
ビートはそれにも気付かないで、イライラとしながら辺りを見渡します。

見れば見るほど、大したようなものは置いていないようにみえましたが……
貴族街へ店を出すほどの規模であることは間違いがないようなので。
この店には置いていなくとも、そちらの店に上質なものが置いてあるのでしょう。

そう考えながら、結局誰とも出会えずに、また店内のほうへ戻ってきました。

「ビート様」

そこへ待っていたのは、息を切らせているロコです。
もう一人の店員が呼びに行っていたようで、慌てて店に来た……そんな状況が、見えるようでした。