親同士の決め事でしょう?

泉花ゆき

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(……お母様、お父様……)

私は誰に届くわけでもない言葉を、心の中で静かに呟きます。

(ごめんなさい。あんなに喜んで頂けたのだけれど……私はこの方と共に歩む未来が、何も見えなくなってしまいました)

私は音を立てないよう、静かにその場を離れました。
帰る手立ては未だに見つかっていません。けれども、ここから離れなければ……その一心で足を動かします。

回廊の角を曲がると午後の光が窓から差し込んでいるのが分かります。それはひどく白々しく、そして刺すように冷たく見えました。

(帰らなくては……、……そして、改めて婚約の解消を打診させて頂きましょう)

心は決まりましたが見知らぬ広大な邸宅の中、客の身で勝手に馬車を呼び寄せるわけにもいきません。

どこで使用人を捕まえればよいのか、あるいはアルフレッド様の待つ応接間へ戻るべきなのか……あてどなく迷い歩く私の足取りは、重く冷え切っていました。

その内に、回廊の先からも足音が響いてきます。
顔を上げると……そこには公式行事のための正装に身を包んだ侯爵閣下が、威厳ある佇まいでこちらへ歩いてくるところでした。

「……おやリリアーナさん、どうかされましたか。そんなところで、お一人で」

閣下は私の顔を見て、不思議そうに眉を寄せました。おそらく今の私は顔色もあまりよくないのでしょう。咄嗟に笑みを浮かべようとしましたが、強張った頬はうまく動いてくれません。

「……いえ。失礼いたしました……少し、風に当たりたくて……」

「風に?……あいつは何をやっているのか……」

侯爵閣下は私の来た道の方にある、応接間をうかがいながら眉を寄せます。あいつと言うのは、聞くまでもなくアルフレッド様のことでしょう。一人で力なく廊下を歩く私を見て、何かを勘付かせてしまったのかもしれません。

「いえ、その……そ、そういえば侯爵閣下。もうお出掛けになったのかと思っていました」

何とか言葉を濁すと、閣下はふと思い出したように口を開きました。

「今支度を終えて出るところだが……ああ、そうだった。リリアーナさん。ちょうど今、君の弟ぎみが訪ねて来ているんだが」

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